第20話 美少女JKモデル、ガチで初めてのファンができる①


 九月も終わりに近づくと、ずっと涼しくなった。


 つらたんぴえんだった紫外線もようやく落ち着いてきて、夕方になれば、あのクソキャパってたセミの代わりに鈴虫の鳴き声が聞こえ始めててガチでエモい。

 マジで秋しか勝たん。バイブス上がる。


 その日のウチは、紗凪と屋上で昼飯を食ってた。

 いい風が吹くチルい屋上には、ウチらと同じように飯を食ってる生徒たちが十数人。

 デブばっかじゃなく、ウチより少し太いくらいかな程度の人間も少しはいる。

 この世界に来てすぐのときは、デカい脂肪たちに隠れてて見えてなかった人間たちにも、気づけようになってた。


 細身の仲間たちもこの世界で生きている。

 少数派ではあるけど、ガリはウチらだけじゃないらしい。


 ウチは、弁当の中身を頬張ったまま、あぐらの上に広げた雑誌をめくる。

 ハイティーン向けのファッション雑誌だった。

 表紙のモデルは当然デブだが、別にバカにするつもりで買ったワケじゃない。

 ミスコンで戦うなら、この世界のオシャレを知っとくかと思って買ったのだ。

 

 でもま、それと笑わないかとは別だけどね。


「プ――ッ! ちょ、紗凪見てこれ!」


 ウチは開いたページを指差す。


「目が細く見えるメイクだって! 普通逆っしょ! ギャハハ!」

「そ、そうだね……」

「これもさぁ、マジでヤバい。『愛されボディになる秘訣その1。食べたら寝ろ!』って! だから逆だって! ウハハハ!」

「アハ……えっと、ご飯粒飛んでるよ……」


 めくればめくるだけ、おもしろいものが飛び出してくる。

 なんだこれ、ギャグマンガか?


「おつかれっス〜。たのしそっスね〜」


 顔を上げると、ビニール袋を引っ提げたよしひとがブラブラと歩いてきた。


「今日のメニューはなんスか?……お、いいカロリー摂取してるっスねぇ」


 来るなりウチの弁当を覗き込んで感想を言う。

 弁当箱に詰められてるのは、白米、グラタン、ほんの少しのほうれん草、そして多めの唐揚げだった。

 最近はずっとこんな感じ。

 唐揚げに押されて野菜が入れられないので、色味がジジくさくて加齢臭しそう。


「つか、もう唐揚げ飽きたんだけど。もうすげぇ消費したし……」


 ウチはその茶色い肉を箸でいじくりながら文句を言う。

 よしひとが用意した冷凍唐揚げを半ば無理やり持って帰らされたウチは、このカロリー爆弾を毎日消費していた。

 食べすぎて一周回って好きになったうえで、今は更に回ってクソ嫌いの段階になってる。

 

「でも、まだウチにストックもあるっスよ」

「いくつ……」

「十っス」

「さすがに引くわ」

「山崎さん、もう規定体重は超えたの……?」


 隣の紗凪がきいてきたので、ウチは首を振る。


「まだ。こんなに頑張ってんのに……」

「あとどんくらいスか? 残り2日しかないっスけど」

「今朝測ったら、48だった」

「あと2キロっスか……ふむ……」


 よしひとは顎に手を当てて、なにごとか悩み始める。

 ウチらがそれを眺めてると、


「あっし、ちょっといいこと思いついたっス! じゃあ!」


 と言って、来た方へ戻って屋上から消えてった。


「いやなにしに来たんアイツ」

「本当元気だよね……よしひとちゃんって……」


 紗凪と二人で呆れてから、ウチは雑誌に目を戻す。

 めくってもめくっても、間違いなく50キロなんか超えてる女たちが笑顔で写ってた。


 あと2日で2キロって、実際届く数字なんかな……

 

 少しだけ、不安になる。

 

 あ〜あ! こんなに太んなきゃと思ったこと、人生で一度もないわ〜!


 ウチが心で叫びながら空を見上げると、


「こんにちはっ!」


 横から、ニョキッと笑顔が現れた。



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