第6章 話す。見上げる。知る。

第49話 美少女JKモデル、祈る①


「せめてあの場にい続けてくれたら、いくらでもフォローのしようはあったんスけどねぇ〜」


 りりあのクラスの前まで来たよしひとが、廊下の窓に寄りかかって他人事のように言う。


 昼休み。

 廊下では、食事を終えた学生たちが思い思いの方向へ行き交ってた。


「……そうね」


 ウチはさっきから、彼女の言葉に短く返すだけ。


 大惨事から一夜明けて――


 学校は紗凪のスキャンダルで一日持ちきり、かと思いきや、噂はすぐに授業やら芸能人やら彼氏やらのどーでもいい話題に飲み込まれていった。


 どうやら、世界はりりあたちの思うほど、このスキャンダルに興味はないみたい。


 でも、んじゃこの人たちがそのまま忘れてくれるのかと言えば、紗凪を見かけた途端騒ぎ立て始めるんだ。

 ウチは知ってる。


 今はオモチャがいないから、後回しにしてるだけ。


「りりあさんのほう、チャットは既読ついたっスか?」


 ウチは首を振る。


「いや。そっちは?」

「全然っス。電話も出ないでスし」


 よしひとが足をぶらつかせて答える。


 昨日、紗凪の後を追いかけたウチらは、結局彼女を見つけることができなかった。

 体育館から逃げ出す背中が、ウチらが見た最後の姿だ。


「紗凪さん、学校休むつもりなんスかねぇ」


 よしひとが理解できんという風に呟く。


「人の言うことなんか、気にしなければいいのに」

「そんな度胸あったら、紗凪はそもそもミスコン出てないでしょ」

「……それもそっスね」


 酷い空気だった。

 このまま二人で話しててもなんの進展もないのはお互いわかってんのに、一人でいることができなくて、二人で紗凪のことを話している。


「あ、山崎さん!」


 特別棟へ続く廊下の先から、あまり聞かない声で呼びかけられる。


 選択授業で知り合った、別クラスの女子がこっちに向かって手を振ってた。


 当然、関わりは薄いし、ぶっちゃけウチは彼女の名前を覚えてない。

 ただ、彼女のほうは覚えてるみたいだ。


「本選出場おめでとう! すごいね、まさかホントに勝っちゃうなんて! しかも一位で!」

「あぁ、ありがと……」


 ウチはボソッと曖昧に答える。

 三次審査の結果は、今日の朝には、生徒会室前に張り出されてて、りりあは節子も超えて一位で通過してた。


 だから、今日は朝からずっと、顔見知りから誰だお前ってヤツまで、いろんな人間に祝われてる。

 けど、ウチは顔を明るくできなかった。


 ミスコンの結果になんか、もう興味はなかった。

 今までウチを突き動かしてた『見返してやりたい』って衝動さえ、消火剤ぶっかけられたみたいに、完全に鎮火してる。


 ただ、紗凪の傷の深さだけが心配だった。


「ところでさ、あの……聞きづらいんだけど……」


 目の前の知り合いは、おずおずと切り出した。


「あの動画の人って、生駒さんなの……?」



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