第41話 美少女JKモデル、ガチでオーッホッホッホ②
「あ、の、出直した方がいいですか……?」
来客は、ウチらの超速反応に怖気付いてた。
隣では、紗凪の血の気がいっぺんに引いてる。
「あ、アナタたち、今の話聞いてたっスか……⁉︎」
よしひとが突っ込む。
「へ……? い、いや、楽しそうなのはきこえましたけど……なんの話かは……」
そう言って、彼女たち三人は顔を見合わせる。
その言葉にウチらがホッとすると同時に、今度は紗凪がウチの背中をパンパン叩き始めた。
いやマジごめん……
やっぱちゃんと気をつけるわ……
「ならよかったっス。どうしたんスか? 家庭科室使うっスか?」
よしひとがきくと、彼女たちはモジモジし始めた。
「あ、いえ! そうじゃなくて、山崎さんたちに会いにきたっていうか……」
そう言うと、三人娘は互いに顔を見合わせて口々に言い合う。
「やれ……! やってまえ……!」
「行け行け勇気や……!」
「無理! 恥ずすぎる! お前先行けや……!」
押し付けあってるのか、譲り合ってるのか、小さい会議を何度も開いた後、ようやくセンターの子がウチらに向けて口を開いた。
「山崎さん! 生駒さん! これ、受け取ってください!」
女生徒が差し出したのは、二つの紙袋だった。
紗凪とウチで受け取って覗き込む。
なかには、手作り感溢れるお守りが二つ、入ってた。
「私たち、二次選考でお二人の勇姿を見ました! ほんっっっとに、感動しました! 号泣です!」
センターの女生徒が言う。
「比べるのもよくないけど、千代田さんよりも、マジカッコよかった……ウチら三人、惚れました……」
と細身の子が付け足す。
「だから、応援してます! って気持ちを、なにか形にできないかなって話になって。それでお守り作ったんです! 必勝祈願で!」
小太りな生徒が拳を握る。
身長も体型も顔の良さもバラバラな彼女たちは、ただ共通の感性によって友達になってるんだと思った。
見栄とかマウントとか関係なく、ただウチらを好きになってくれた。
その気持ちが、素直に嬉しい。
「ありがと……」
礼を言うと、彼女たちがぱぁっと明るくなる。
「私、ずっと、ミスコンなんか本当下らないと思ってたんですけど、山崎さんたちが出てるの知って、初めて見てみようと思えたんです」
センターの子がおずおずと上目遣いにウチに尋ねてくる。
「あの……どうしてミスコン出ようと思ったんですか……?」
「人の価値は見た目じゃない、って伝えたいからかな」
ほぼ勝手に口が回って即答した。
「「「キャーッ!」」」
家庭科室に歓声が上がる。
本当は、ウチがブス扱いでデブどもが美人扱いなのが許せないからだけど。
マジのこと言ったら幻滅される気がしたのだ。
そういう計算だけはウチ、クソ早いんだよね。
「生駒さんは……?」
少女たちは、ウチから紗凪へ視線を移す。
紗凪は俯いた。
「私は……」
長めの沈黙。
ファン軍団は、辛抱強く待ち続ける。
「強くなりたい、から……りりあちゃんみたいに……」
ポツリとこぼしたその一言に、また、多分誰よりもウチに刺さった。
無理やり出場させたけど、ついてきてくれた理由をなんとなく察する。
紗凪は、きっとずっと、そう思ってくれてたんだ……
公園で見た包帯と、今の紗凪のギャップに、ウチは嬉しくなった。
重大任務を終えたからだろうか、ファンの彼女たちは妙なテンションになり始めてた。
「関係性が尊い……もはや神話……」
「あぁ、もうムリ……興奮しすぎて吐きそう……!」
センターの子が、口元を押さえて涙目になってた。
ウチらの扱いは、もうアイドルそのものだ。
チヤホヤされてた頃の感覚が戻ってくる。
「じゃあ、私たちは限界なのでこれで失礼します!」
「あ、ウチもトイレ行こ」
「「「キャーッ!」」」
ウチが立ち上がると黄色い悲鳴が上がる。
「吐いちゃう吐いちゃう!」
センターの子が叫んでる。
ウチは教室を出て彼女たちと一緒に歩き始めた。
一挙手一投足が憧れられる、この状態が懐かしい。
まるで故郷に凱旋したみたいだ。
これだよこれ。りりあちゃんは本来こう扱われるべきなんだよ。
しばらく一緒に歩いて、ウチは彼女たちを解放した。
キャーキャー騒ぐ声が、遠くに離れていく。
満たされる自尊心を味わいつつ、廊下を戻ろうとした、そのとき――
小さな音を耳にした。
自慢じゃないけど、ウチへの悪口と誰かの弱みに関してはガチ地獄耳である。
家庭科室の隣の隣。
狭い備品倉庫からそれは聞こえた。
なんの音だろ。
手をかけると、ドアは鍵がかかってなくて、あっさりと開く。
中には……乙田まる子がいた。
それだけじゃない。
その隣には、いつか紗凪をいじめてた茶髪の不良デブが顔を揃えてた。
彼女たちは、ウチが顔を出したことで、明らかにビビってる。
二人の間には、一本のイヤホンが橋を渡してた。
互いに肩が触れ合うほど、距離が近い。
恋人が、同じ曲をきいてイチャイチャする、あのヤツだ……
「あ、山崎さん……おっつー」
まる子が、気まずそうに手を振る。
ウチは……諸々察した。
「あー……なんつーか、邪魔してごめん。ごゆっくりー」
ウチも苦笑いしながら、ドアを閉める。
そして、ひとりでめっちゃニヤついた。
えー? なにあの二人、そういう関係……?
マジかー、なんか意外だわ、特にヤンキーのアイツ。女が好きなんだー、へー?
まぁでも、イキってることと、どんな性別好きなのかは、関係ないもんね。
しゃーないしゃーない。
ウチはスキップして家庭科室前まで戻ってく。
あーあ、ブスの秘密握っちった!
まる子はかわいそうだけど、あの腐れ女は、これで迂闊にウチと紗凪に手を出せなくなっただろう。
わざと大きな音を立てて、家庭科室の扉を開く。
顔を向けた紗凪に、ウチがご機嫌で笑いかけると、紗凪は首を傾げてきた。
けど、ウチは答えない。
汚れてない紗凪に、こんなゲスい話はまだ早い。
でも、ウチはこれ以上ないほど愉快だった。
今日一日で、熱心なファンがついて、敵の弱みも握った。
すべてが順調……!
あぁ、なんて幸せなのかしら!
「オーッホッホッホ!」
「また笑ってるっス……怖いっスよりりあさん……」
よしひとが高笑いするウチを見上げて引いてた。
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