第5章 夕暮れと下剋上、そしてサッカーボール

第40話 美少女JKモデル、ガチでオーッホッホッホ①


「オーッホッホッホ!」


 家庭科室にお嬢様の笑い声が響く。

 なにが起こったかというと、単にウチが笑ってるだけだ。


「ざまぁないわねぇ、ブス女どもぉ!」


 ウチの雄叫びが部屋中を揺るがす。


 最初の壁だった二次審査は、蓋を開けてみれば、紗凪も含めて通過してた。

 ま、この完璧美少女にかかれば当然だけど、さすがにバイブスはブチアガる。

 唐揚げまで食って頑張ってきたんだもん。


「うわ、悪役令嬢がいるっス……」


 調理台の横でパソコンを開いていたよしひとが引いてる。


 今日の彼女は珍しくとてもシンプルなワンピースを着てるんだけど、これは事が起こった後の姿で、さっきまでは生きてるガチの鳥が全身にくっついてた。

 正確には鳥の餌を至る箇所に取り付けてて、結果、外に出るたびに鳥が群がってただけなんだけど、充分ヤバい絵だった。

 よしひとは誇らしげに、

 

「これを動的ファッションと名付けるっス! やっぱりアッシは天才っス!」


 とかなんとかでほざいてたけど、誰がどう見てもバカだと思う。

 そんなヤツに引かれるのは心外ではある。


「どっちが悪役よ。今まで散々バカにされてきたんだから、むしろシンデレラとかそっち系でしょ」

「シンデレラはオッホッホって高笑いしないんスよ。もっと清楚で気弱じゃないと」

「清楚で気弱〜? そんなんだからイジメられんのよ!」

「りりあさんは間違いなくおばさん側っスね」


 よしひとが一人勝手に納得して、パソコンの作業に戻る。

 初めて会ったときから偉そうだったけど、最近のコイツは輪をかけて生意気だ。


 年下のくせに……一回蹴っ飛ばしてやろうか……


「でも、りりあちゃんが自信満々に歩いてるのは、素敵だったよ……」


 横で静かに本を読んでた紗凪がフォローしてくれる。


「クラスのみんなも言ってた、カッコよかったって……シンデレラって感じではたしかになかったけど……」

「だろ〜?」


 褒められたウチは胸を張る。


 今までウチを取り巻いていたのは、バカにするヤツらか、遠巻きに見て関わらないようにするヤツらの二通りだったけど、最近は第三勢力が現れてきていた。

 積極的に応援してくれるヤツらだ。


 勇気のあるウチに感動したとか、ファンになったとか言う彼女たちは、大半はこの世界でブス側に分類される人たちだった。

 それはどういう意味かというと、ウチからしたら顔のいいサイコーの女たちばかりということである。

 前の世界だったら美人の応援は裏を考えるけど、彼女たちは純粋なので、承認欲求がブチ上がりだ。


 おまけに、SNSの方も好調を続けてた。

 増えていくフォロワー数。

 埋まるコメント欄。


 この数字の先にいるのは、同じ悩みを持つ虐げられし仲間たちだ。

 たくさんの味方ができた。

 たくさんの応援がもらえるようになった。


 思想が強火のブスって言われるようになったのだけ、気に食わないけど。


 でも、明らかに風はウチに吹いてる。

 これが笑わずにいられるものか。


「オーホッホッホ!!」

「まぁ、二次は同情票もあったみたいっスけどね。ブーイングされすぎでかわいそうだと思われたみたいっス」


 ウチは鼻で笑う。


「ふん。勝てばいいのよ勝てば」

「それは同意見っスね〜。上に行くためなら炎上も同情も利用するべきっス。ところで紗凪さん、この前撮った動画、進捗どうっスか?」


 よしひとがいかにも事務的にノートパソコンから紗凪に質問する。

 紗凪がほほえんで答えた。


「あ、うん。もう全部終わってるよ」

「速っ!」


 よしひとが驚嘆する。


「動画編集は朝飯前っスか! さすが人気配信者!」

「ちょッ!」


 紗凪が一瞬にしてうろたえた。

 その反応のクソ速いこと。


 つい、ウチのドS心が疼いちゃう。


「よっ、天下のトメ様! かわいいし清楚だし仕事できてサイコー!」

「トメ様カッコイイっス!」

「待っ――その名前で呼ぶのやめて!」


 紗凪はワタワタと手を振ると、巣から出てきたプレーリーキャットみたいに周囲を警戒し始める。

 ホントにかわいいなぁ、この子は。


「紗凪、怖がりすぎ。誰もいないって」


 その敏感さをウチが茶化したその瞬間――ウチの背後で、家庭科室のドアが開いた。

 ウチら全員、ギクリとして一斉に振り向く。


 扉の先には、会ったこともない女子生徒が三人立っていた。



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