第38話 美少女JKモデル、ガチで二次審査にケンカ売る②


 二次審査。

 その舞台となる体育館には、既に物見客が集まっていた。


 体育館の内部には大きなセットが立てられてて、候補者たちは観客に姿が見えないように、後ろのドアからその裏に詰められていく。


 なかに入ったウチは、少しだけこのミスコンを見直す。

 モデルウォークときいたときは、どうせペラペラなシートをランウェイに見立てて歩くだけだろって思ってたけど、そんなことはなかった。


 今、ウチの目の前にそびえ立ってたのは、巨大なステージだった。

 その大きさは、テレビのセットかなと勘違いするくらいだ。


 こんなところで歩けるなら、たしかに記念受験勢も現れるはずだ。

 ウチでさえ、ちょっとテンションあがっちゃったし。


「みなさん、お名前を呼びますので、その順に並んでください」


 ボードを持った運営生徒が、着飾った候補者たちの名前を読み上げ始める。

 順番を待つ間、ウチは節子が近くにいるのに気づいた。


 認めるのは悔しいけど、正直、凡人と違うオーラはあった。


 太ってるのに、だらしなさがない。

 あんなに丸いのに、凛々しさがある。

 計算され、管理され尽くした肥満ボディって感じだ。


 不摂生デブというよりは、相撲取りに近いのかもしれない。


 ウチは隣で「ぜってーコイツを潰す」って闘志を燃やしてた。

 ……そのとき。


「二次も出てきたよ、あのブスたち……」


 声が聞こえてきた。


「絶対今回で落ちるっしょ……つかなにあのリップ」

「ヤバいよねぇ……イキリすぎ……」


 右から左から、クスクスと笑われる。

 わざと、ウチらに分かるようなトーンで。


 紗凪は、自分の黒い口を隠すみたいに俯いてた。

 ウチは、前を向いたまま言った。


「堂々としてな、紗凪。あんなの芋なんだから」

「……芋?」

「そ。じゃがいも。ウチらの美人さに比べたら、アイツらなんか畑に転がってるじゃがいもっしょ。例えば、道歩いててじゃがいもがブスって言ってきても、この芋喋れんのすげぇなぁ、くらいにしか思んでしょ? そゆこと」


 紗凪が「じゃがいも……」と感心したように繰り返す。


 セットの上では、司会者が二次審査の流れの説明をしているところだった。

 会場のざわめきは、観客の多さを物語ってる。


 ウチは、硬くなる紗凪を突っついた。


「それにね、紗凪がビビる必要ないんだよ。だってアンタ、ウチがコーディネートした服しか着てないんだから。モデルが笑われたら、それはウチのファッションセンスが笑われたってこと」

「……」

「だから、堂々と歩いてきてよ。んで、全員にウチのセンスの良さを見せつけてきて」

「……うん!」


 その返事に、ウチは安心する。

 紗凪の顔から、怯えの色が消えた気がした。



   ◇ 



 すべての候補者が一列に並び終わる。

 すると、司会がマイク越しに叫んだ。


「すべての準備が整ったようです! それでは、二次審査スタート!」


 司会の号令が響いた瞬間、体育館の照明が一斉に落ちた。

 驚いているうちに、いい感じの音楽がスピーカーから流れ始めて、ランウェイだけにスポットライトが当たる。


 本格的なショーの雰囲気のなか、列の先頭から、徐々に候補者たちがステージへ上げられ始めた。

 順番が来たモデルたちは、舞台裏から客の前へ消えていき、数十秒後に、再び戻ってくる。


 ウチは、その流れを見ながら、少しずつ緊張し始めた。


 別にウチだって、いつも百パー強気なワケじゃない。

 評価してくる人間たちの前に自分を晒すのは、やっぱり不安だ。


 でも……


 ウチは息を吐く。


 でも、負けたくない。

 だって……ウチは美人なんだから。


 ウチの真後ろに並ぶ紗凪は、頬をロウソクのように白くして、


 「じゃがいも……じゃがいも……」


 と何度も呟いてる。


 節子がランウェイに姿を見せると、客席からギャッと黄色い悲鳴が上がった。

 大半が女子だ。

 直接目にはできなくても、彼女が歩くだけで、ファンがバタバタ倒れていくのが簡単に想像できた。


 会場は、バチバチに盛り上がってる。

 このなかを、ウチらは進まなきゃならない。


 舞台袖の階段を上がる。

 ウチの前に並ぶ人間の数が、どんどん減っていく。


 いよいよ次がウチの番だった。

 順番を待つ間、ウチは紗凪に拳を当てた。


「自信持って行けよ」

「うん」


 ランウェイに出ていた候補者が舞台袖に戻ってくる。

 対岸にいる運営スタッフが合図を出すのが見える。


 ウチは、短く息を吐くと、眩しいステージへ一歩を踏み出した。


 途端に聞こえてきたのは……ブーイングの嵐だった。



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