第37話 美少女JKモデル、ガチで二次審査にケンカ売る①


 当日。


 控室用に用意された空き教室には、外見自慢のデブたちが詰まってた。

 当然だけど、エグい体脂肪率。


 そんな教室の隅で、ウチら三人は机の上に立てた鏡を覗き込んでた。


 鏡の中心に映ってるのは、衣装を着て、髪を上げた紗凪。

 ウチが彼女に舞台用の化粧をしてやってる最中である。


「大体こんなもんっしょ」


 ウチはメイクブラシを置いて、製作物の出来を眺める。


 紗凪に施したのは、もちろん、ウチ基準でブサイクにするための化粧なんだけど、彼女の美貌はそれでも押さえきれてなかった。

 こっちはメイクのせいできっちりブスになってんだけど、どゆこと? 普通にキレそうなんだけど。


「すごい……こんなの、わたしじゃないみたい……」


 彼女は鏡の中にいる自分の姿に目を奪われていた。

 ウブな反応がかわいい。


「なに言ってんの。まだ一番大事なもんやってねぇから」


 と、ウチがポーチから取り出したるは、とある高級リップ。

 蓋を開けて、クリクリと口紅部分を出していくと、察した紗凪が静止した。


「……ちょ、ちょっと待って⁉︎ それ、わたしつけるの⁉︎」

「そうだよ」

「だって、りりあちゃん、それ、真っ黒……!」


 期待通りの反応に、ウチはついニヤニヤした。


 ウチの手にあるのは、ブラックリップだった。

 わざわざ今日この日のために買い求めたものだ。前の山崎りりあがこんなん持ってるわけないしね。


「そりゃ、黒リップだもん。黒いべ」

「こ、こんな色、わたしみたいな陰キャには似合わないよ!」


 紗凪はあたふたと両手を振って身を引く。

 ウチは大きくため息をついた。この乙女は、なにもわかってないんだから……


「……あのね。性格とファッションはなんも関係ねぇから」

 ウチは肩をすくめた。

「アンタは顔がハッキリしてるし、身長も高い。しかもブルベ冬。だからこういう派手なもんが似合うの。逆に、ウチは肌が暖色系だからそういうの合わない。本当はウチも派手なのつけたいよ? でも、色選びってのは、見た目に沿った色にすんの。性格に沿った色じゃなくてね」

「はぁ……」

「アンタが陰キャだろうがなんだろうが、黒はアンタを一番引き立てる必殺の色なの。大舞台でぶちかますには、これ以上の色はない。だって、他の奴らは絶対つけらんねぇもん」

「必殺の色……」

「そう。つか、このリップ込みでメイクも服も決めてんだから、今更嫌とかないんよ。だから良い子にしてろ」

「あうっ、りりあちゃん……!」


 ウチは問答無用で紗凪を押さえ、彼女の唇に艶やかな黒を塗りつけていく。


 その間、十数秒。


「……終わり。見て」


 ウチは体をどかして、鏡を指さす。

 紗凪は、鏡にホラー映画でも流れてるのかという感じで細目で視線をやった後、次第にキョトンとして、段々と驚きに目を見開いていった。


「す、すごい……っ!」

「かっけーっしょ」


 ウチは自慢げになってしまう。

 やっぱウチ、人が綺麗になって喜ぶ瞬間は、結構好きだ。


「こんな攻めた色、わたしなんかがつけちゃダメだと思ってたのに……」


 紗凪はまだ信じられないといった感じで自分の黒い唇に見入っている。


「自分が持ってるもんを最大限に活かして、自信持って勝負すんだよ。そうしないとミスコンじゃ勝てない。ウチもそう。全力で綺麗になんなきゃ、周りに潰される」

「う、うん……!」


 紗凪が頷く。

 隣では、よしひとが怪しげな動きでスマホをいじってた。

 多分、今のウチの言葉をメモしてSNSに貼る気だ。

 ウチは誇り高くなる。


 化粧も髪のセットも終わった頃、運営側生徒が控室に顔を出した。


「そろそろ時間になりまーす。候補者の方は体育館まで移動してくださーい」

「だって。紗凪、行こ」

「うん……」


 緊張した顔で、紗凪は立ち上がる。

 でも、その手はしっかりと握りしめられてた。



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