第36話 美少女JKモデル、ガチでバズり始める


 ブスと認めよう。


 それがウチの上に降ってきた最高のアイデアだった。


 渋谷も、原宿も、もはやウチのホームではなくなってた。

 若者の街であるはずのそこには、サイズの合う服さえ用意されてなくて、ウチらはまるで、白い服についたソースみたいに悪目立ちした。


 そして、ブスの先輩である紗凪は、自分を傷つけることでなんとか生きている。


 そんなツラい状況を目の当たりにして、ウチはようやく心の底から認められた。

 この世界においては、りりあはブスなのだ。

 誰にケンカ売ったって、どう吠えたって、それが現実。


 それは気に食わない結論ではあったけど、そっくりそのまま希望にもなった。


 だって――世の中は、美人よりブスのほうがずっと多いんだから!



   ◇ 



 よしひとにこのひらめきを伝えた翌日から、早速ウチらはSNSの運用を変えた。


 ターゲットは、紗凪みたいに、自分のブスさに苦しんでる人たち。

 その人たちに向けて、ウチらは美容情報をいっぱい発信し始めた。


 少しでもマシになるためのメイク講座、少しでもボディラインを太く見せる服の選び方、自信の持ち方、お悩み相談――。


 たとえ、この世界の美人観がひっくり返っていても、女の「綺麗になりたい」って欲望は絶対に変わらない。

 なら、それを手伝ってあげればいいだけだ。


 外見に関する動画は、ウチの持ち合わせのスキルで充分補うことができた。

 ファッションはウチの一番自信あるジャンルだったし、メイクはいつもの逆を考えれば済むので、応用も簡単。

 ウチは自分に自信があるから、顔出しだって怖くない。ガンガン動画で実演してみせた。


 よしひとも、調べたり宣伝することには詳しかったので、情報収集とか営業活動は彼女の担当。

 紗凪は配信環境を作ってくれたり動画の編集をしてくれた。

 家にすごい高いパソコンがあるんだって。さすが人気Vtuver。


 今までテキトーだった運営にようやく一本の軸ができると、これまでの人気のなさが嘘のように、それぞれの得意を活かしたアカウントは、秒で伸びてった。


 そりゃそうだ。

 ブスな連中は、ブスだからこそ、自分のコンプレックスを隠す技術を血眼になって求めてる。

 その必死さは、美人の向上心さえ上回る。


 今日までは、美人とブス両方からドン引きされてたりりあちゃんだけど、心を入れ替えた今、ブスと呼ばれるグループが全員、ウチのファン予備軍になった。


 動画をあげたら、すぐにいいねがつく。熱狂的な固定ファンがどんどん増える。

 当然ブス嫌いのアンチも出てくるけど、それへの反論コメントが数倍ぶら下がって押し潰していく。


 ウチは知ってる。

 バズり始めたっていうんだ、この感覚を。


 そんな調子で、ウチらは二次審査までの間、SNSをガンガン更新していった。

 よしひとが言うには、二次は実質人気投票らしい。

 だから、今のウチらが確実に抜けるには、応援してくれる人を増やすしかない。


 フォロワーはみるみる増えてくけど、残り期間もみるみる減ってく。

 本番までに間に合うか……


 確信が持てないうちに、二次審査の当日はやってきた。



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