第16話 美少女JKモデル、ガチで茶色に怯える①
ミスコンエントリーをバキバキにキメた、その放課後。
特別棟に向かうウチに、見知らぬデブ男二人がウチを指差してきた。
「あれって、例のミスコンエントリーしたブスじゃね?」
「うぅわマジだ。あんなガリなのによく出れるな……勘違いしすぎだろ……」
もうウチがミスコン出るって話は、たった数時間で学年全体に知られちゃった。
高校って狭い世界だし。噂はすぐ広まる。
それでもコイツら、知り合いでもねぇ女子に、よくもまぁブスだのガリだのと……
「はぁ? テメェら人のこと言える顔面してねぇだろ⁉︎ あぁん⁉︎」
ウチがキレると、男どもはギクリと身を引いた。
ふん。悪口言うなら、返される覚悟しとけヴァーカ。
ウチは上履きを鳴らして、廊下をズンズン進む。
節子に煽られてからというもの、カリカリが一向に治らない。
今のウチは、触れるものすべてを傷つけるぱない刃物だ。
ぶっちゃけ、ちょい冷静になった今は、節子にまんまとハメられたんじゃね……? っつー気がしないでもない。
でも、噂が広まっちゃった今となっては、このケンカを降りたら、ウチはアイツよりブスだって自分で認めることになるし。
そんなのは、想像するだけでも耐えられん……
ところで、クソウザい授業から解放されたはずの放課後にわざわざ特別棟に向かってるのは、よしひとから
「放課後、家庭科室に集合で!」
っつー連絡をされたからだ。
なんでも、ミスコンに向けた作戦会議をするらしい。
今までのアイツの行動からして、ろくなことじゃなさそうなんだけど……なにするつもりなんだか……
ウチは一階の角にある家庭科室のドアを、派手な音を鳴らして開ける。
なかには紗凪しかいなかった。
いやよしひといねぇのかよ……
ブスッとしたまま、丸椅子に乱暴に座る。
「や、山崎さん……なんか怒ってる……?」
「おこだよ。激おこ。てかおこすぎてキレそう」
ウチは、向かい側の紗凪に向かって愚痴る。
「節子よ節子! 千代田節子! アイツマジなんなの? キモいんだけど! 不良のリーダーやっといて、ミスコンなんか出やがってさぁ! ああいうの、汚いことのは全部手下にやらせて、自分では絶対手ぇ出さないんだよ。あ〜マジ鳥肌立つ。ウチ、ああいうズルい奴が一番キライ!」
「そう……かな」
紗凪は、男だったら一発で落ちそうな上目遣いでポツンと呟く。
「千代田さんはなんとなく……いい人な気がするんだけど……」
「い、いい人⁉︎ んなワケなくね⁉︎ 紗凪、アイツにイジメられてた張本人じゃん!」
「ご、ごめんなさい……でも、なんとなくそんな気がして……」
「ストックホルム症候群じゃないっスか、それ?」
よしひとの声がする。
どこから聞こえるのかと思ったら、奴は準備室から顔を出してた。
手には、霜のついた袋を持ってる。さっきからずっと準備室にいたらしい。
「あー」
紗凪はなんか理解したみたいだけど、ウチにはさっぱりわからん。
「なにその、スットコドッコイみたいな言葉」
「ストックホルム症候群っス。誘拐とかされた被害者が、犯人にちょっと優しくされた結果、その人に信頼とか恋愛感情を抱いちゃう心理的現象のことっスよ」
「恋愛感情? なに、紗凪アイツのこと好きなの?」
「そ、そういうことじゃないけど……」
「まぁでも、千代田節子に敵対心が湧かないのは、ちょっとわかるっス。芸能人でスしね」
準備室から出てきたよしひとの一言に、ウチは目を丸くする。
「え、芸能人なんアイツ⁉︎」
「そうっスよ、知らなかったんスか? 去年、大手事務所にスカウトされて、有名ミュージシャンのMVとかに出てるっス。誰だこの美少女は、ってネットでバズってるんスよ」
「はぁ〜、ネット終わってんな」
ウチは頭に手をやって、ボヤく。
マジこの世界ブス専すぎ。ついてけんわ。
よしひとは、備え付けの電子レンジの前でなんかやってた。
「つか、アンタなにやってんの? 作戦会議するんしょ? 早くやろうよ」
「あ、そっスね! じゃあまず、一次審査の説明から始めるんスけど」
ピッと電子レンジをスタートさせた指を立てて、よしひとが口を開く。
「一次は、これまでの学業成績と体重の審査になるっス」
「い……⁉︎ 成績⁉︎」
ウチは固まる。
「って、ちょーヤバくねそれ⁉︎ りりあ、結構おバカなんだけど……」
「あの、それは大丈夫だと思うよ」
紗凪が隣でおずおずと話した。
「今までの山崎さんは、学年トップだったから……」
「え、そうなの⁉︎」
「うん……」
「やったぁ! ウチ、一回頭よくなって順位表に載ってみたかったんだよねぇー! え、ていうかさ、じゃあ前のりりあって、暗くて友達いなくてガリ勉だったってことだよね? メチャクチャ陰キャじゃん! ガチウケる〜!」
「そうだね……」
紗凪は苦笑いで答える。
「だからみんなビックリしてるんだよ……」
「あっしも、成績は心配してなかったっス。問題は体重審査だと思ってました」
よしひとが紗凪の言葉に頷いた。
ウチはその言葉に引っ掛かる。
「え、なんで? それこそ心配する必要ないっしょ。信じてないかもしんないけど、りりあ、前の世界じゃマジでモデルだったんよ? ずっと体重には気をつけて――」
「だからっス、りりあさん」
よしひとが手をかざして、ウチの話を止めてくる。
「え、なに」
「思い出してくださいっス。ここはりりあさんの価値観とは反転してるんスよ」
「……だからなに? どゆこと?」
首を傾げるウチに、隣の紗凪が補足する。
「あのね……このミスコンだと、規定体重を『超えてないと』いけないんだ。痩せてたらダメなの……」
「は、はぁ⁉︎ なにそれ! そんなミスコン、きいたことないんだけど!」
「これがこの世界の常識なんスよ」
よしひとが嫌そうな顔をして呟く。
そのとき、レンジがチンッて音を鳴らして、なにかが温まったのを知らせてきた。
同時に、揚げ物のベタついた匂いが鼻についてくる。
嫌な予感がする……
「お、ちょうど終わったっスね」
よしひとはレンジを開ける。
なかからは、そこそこ大きめの白い皿が出てきた。
茶色の固形物を、山のように乗せている。
「それなんなん……」
「これっスか?」
よしひとは、ラップを取って数十個と積み上げられた茶色い料理を披露する。
「徳用冷凍唐揚げっス‼︎」
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