第15話 美少女JKモデル、ガチでカースト最上位ブスに遭遇する②


「ち、千代田節子っス……!」


 よしひとがオバケでも出たみたいに叫ぶ。

 でも、不良女は、ふふっ、と上品に微笑むだけだった。


「ごめんなさい。驚かせちゃって」


 初めて間近で対面したその女は、意外なくらい小さかった。

 平均的な身長のりりあの顎辺りにつむじが来てる。

 前ならえで前から数えたほうが早いレベルだ。


 今まで気づかなかったのは、日傘の分と、彼女から溢れ出てる自信のせいか……


「……なんの用だよ」


 ウチは威嚇する。

 けど本心では、彼女の放つなにか空気感みたいなものに押されてた。


 太いのに、なぜか引き締まったように見える脚。

 ホワイトシルバーの静かなネイル。

 鼻をくすぐるセンスのいい香水の香り。


 男も女も、節子をチラチラ横目に見ながら通り過ぎてく。


「別に? おもしろい話してるなぁと思ったから、素直に口にしただけだけれど」


 節子は、音が鳴りそうくらいツヤツヤした黒髪を優雅に揺らす。

 ブ、ブスがオシャレしやがって……いけすかねぇ……


「山崎さん、貴女ミスコン出るの?」


 節子は、もはや短い首を傾げる。


「出ねぇから。コイツが勝手に言ってるだけだし」


 隣のよしひとを顎で示す。

 すると、節子は肩をすくめて、


「そうなの。残念。山﨑さんが出場するとこ見たかったのに」

「節子さんはもちろん出るんスよね?」


 よしひとが横から口を挟んだ。

 さっきから、芸能人に会ったみたいに、体をピョコピョコ上下させてる。

 コイツもガチでウザい。お前はウチの味方側だろ。

 

「えぇ。そうしないと、周りがうるさいからね」

「なぁにが周りがうるさいだよ……チビデブブスのくせに……」


 ウチが床に向かって呟くと、


「私、アナタが羨ましい」

「あ?」


 節子は、唐突に訳わかんないことを言う。

 意味わかんなくて、ウチはまるで怒ったらすぐ気を逸らされる犬のような気持ちになる。


「……急になんの話だよ」

「容姿の影響を受けないで生きてこれたなんて、羨ましいわって話をしてるの」


 彼女は太い腕に巻いた時計を確認しながら、話を続ける。


「きっと山﨑さんは、容姿がどれだけ強い力を持ってるのか、わかってないんでしょ?」

「はぁ? そんなんメッチャ知ってっから。顔さえよけりゃ男も女も勝手に寄ってくるし、人生イージーだって」

「ほら、わかってない」


 節子が肩をすくめる。

 コイツの話し方も動きも、いちいちムカつく……

 ウチはもうカリカリの最高地点に辿り着いてた。

 

「その意味では、ミスコンに出ないのは懸命な判断かしら。負け戦には挑まないほうがいいものね」

「……さっきからなにが言いてぇの? 遠回しに言ってもりりあバカだからわかんないかんね。スパッと言えよ」

「山崎さんがミスコンで私に勝つのは、万に一つも有り得ないってこと。たとえ、貴女と私の容姿が逆だったとしても、ね」


 そう節子が告げたとき、まるで彼女に合わせたみたいにチャイムが鳴った。


 節子は黒髪をシャランと靡かせ、上品に去っていく。


 後には、むくれたウチとよしひとだけが残された。

 よしひとが、同情するように肩を叩いてくる。


「節子さんはああ言ってるっスけど、あっしは勝てると思ってるっスよ? だから、まずこの用紙に名前を書いてもらって――」

「……舐めんな」

「はい?」


 ウチの呟きに、よしひとがパチパチ瞬きする。


「りりあは現役JKモデルだぞ……」


 ウチは独り言のように怒りを吐き出してた。


「容姿が逆でも勝てないだぁ⁉︎ そもそもりりあは、お前より、ずっとかわいいんだよ‼ バーカ‼︎︎」

「お、おぉ……!」

「……やってやる。やってやるよ。アイツを引きずり降ろしてやる!」

「そうっスそうっス! その意気だ!」


 ウチは、煽るよしひとに問いかけた。


「どうすりゃいいの、ミスコン出るには……」

「生徒会室の前に箱があるっス! そこに名前を書いた応募用紙を入れれば――」

「行ってくる」

「あ! あっしもいくっス〜!」


 ウチは煮えたぎる怒りを抱えながら生徒会室に直行すると、

 

 ――ミスコンエントリーはコチラ

 

 と書かれた質素な箱に、ウチと紗凪の名前を書いた用紙を叩き込んだ。

 勢い余って箱を少し押し潰してしまったけど、関係ない。

 

 今に見てろよ、千代田節子……!

 お前の自信、このりりあがへし折ってやる……!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る