第17話 美少女JKモデル、ガチで茶色に怯える②


「いやだから、なんで冷凍唐揚げなんて持ってるんスかって……」

「もちろん、太ってもらうためっス」

「はぁ??」

「ちなみに、まだまだあるっスよ。大量買いしてきたっスから」


 彼女が黒板前の机を指さすと、そこには同じ見た目の冷食の袋が積まれていた。

 恐怖に、体が震え始める。


「お前……ブス扱いをひっくり返すとか言ってたじゃねぇかよ……」

「そうなんすけど、まずは土俵に上がらないと、戦えもしないじゃないっスか」

「いやそうだけど……」

「でも、安心してくださいっス。体重測定は、最低限の足切りなんで。さすがに五十キロ以下なんて、普通に生きてたらならないっスもん。だからこれは万一の保険――」

「五十キロ……︎」

「え、りりあさん……まさか……」


 紗凪とよしひとの視線を受けて、ウチは吠える。


「だ……だって、しょうがないじゃん! 今まで必死に四十キロ台維持する努力してたんだから! 普通に生きてなくて悪かったな!」

「唐揚げ作戦! 決行っス!」


 よしひとが高らかに宣言する。

 同時に、ウチにその悪魔の皿を押し付けてきた。


「さぁ! まずはこれ、全部消費するっスよ!」

「た、食べないからね、りりあは! この体型キープすんのにどんだけ苦労してきたと思ってんの!」

「それ、この世界で最も無駄な苦労っス!」


 よしひとは躊躇なく切り捨てる。


「いいんすか? 規定体重いかないと、千代田節子に負けることになるんスよ!」

「ぐっ……」

「戦う前に負け犬決定っスよ! 一次で落ちたなんて、鼻で笑われること請け合いっス!」

「うぅぅぅ……」

「が、頑張って……!」


 紗凪は、ウチの隣でガッツポーズをしてきてた。

 その行動に、ウチは疑問を持つ。


「ちょっと待って。紗凪はなんでそんな他人事なの?」

「え……だって他人事だから……」

「いや、紗凪も出るんだけど」

「……へ?」


 キョトンとする紗凪に、よしひとが説明する。


「あ、この人、紗凪さんの名前も勝手に応募箱に入れてたっス」

「えぇぇぇ……ッ⁉︎」


 紗凪は、背中から床に崩れ落ちた。


「紗凪さん⁉︎」

「ぅぁぶぶぶぶぶ……」

「うわぁ! 泡吹いて倒れてるっス!」


 近くに駆け寄ると、紗凪は虚ろに呟き続けてた。


「なんで……勝手に……」

「いやだって、当たり前じゃん。アンタもブス扱いされてんだから」


 ウチは膝の先で壊れる紗凪に教え込むように言った。


「ウチらで常識変えてやんだよ。アンタだって、調子乗ってるブスどもぶっ飛ばしたいでしょ⁉︎」

「そんなこと……思ったことない……」


 ウチらに抱き抱えられて、なんとか椅子に戻ると、紗凪は死んだ目で宣言した。


「今日から断食します……」

「うわっ! 一次落ち狙いっス……!」


 紗凪は既に真っ白に燃え尽きてた。

 ウチは心のなかで舌打ちする。

 

 チッ、戦力にはならないか……


「まぁでも、つまり紗凪さんは今の時点で五十超えてるってことっスね。タッパもあるし、きっと問題ないっス」

「身長が憎い……」


 今にも死にそうな紗凪を尻目によしひとは納得げに頷くと、ウチに再び向き直った。

 もはや悪魔にしか見えない。


「じゃあ、残るはりりあさんっスね。まずひとつ目、はい、あ〜ん」


 よしひとは、フォークで刺した唐揚げをウチの前によこしてきた。


 熱々の揚げ物がみるみる迫ってくる。

 白い湯気と茶色の衣が、脂の存在を視覚と嗅覚で伝えてくる。


 近い……!

 カロリーが、近い……!


「ぅ、うわーッ! 太るなんてヤダーッ!」


 ウチは思わず、全力ダッシュで家庭科室を飛び出してた。



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