第11話 美少女JKモデル、ガチで輝く女に出会う①


 この世界に飛ばされて、一週間が過ぎた。

 世界が元に戻るような気配は、1ミリもない。

 相変わらず、両親も芸能人もクラスメートもデブだらけでマジしんどみ秀吉。


 ここまでいろんな人間をブス扱いしたからか、ここ最近の朝は、上履きから画鋲を捨てる作業から始めなきゃなんなかった。


 今まで生きてきて、こんな扱いは受けたことない。

 カースト最上位だったりりあが『される側』に回るなんて、想像もしてなかった。


 全員クソブスのくせに……絶対許さねぇ……


 ウチは、怒りに震え、世界すべてにガチで反抗した。

 そんときは、世界でいちばんウチが鬼ロックだったと思う。


 この一週間、教室や廊下で散々ロックにキレ散らかした結果、ウチはあっという間に職員室の常連になってた。


「どうしたんだ、山崎……そんな奴じゃなかっただろ……」


 担任の男が、デスクの前で棒立ちしてるウチに、いつもと同じ言葉を投げかける。


 その日の放課後も、ウチは呼び出しの真っ最中。


「反省してまーす」


 ウチは耳をほじくりながら答える。


 そんな奴じゃないのは当たり前だわ。実際別人なんだから。


 今日も適当に担任の声をきき流しながら、


(暇だわ。今日も紗凪誘ってどっかいこ)


 なんて考えてたら、ふと別の島でりりあのように怒られてる生徒がいるのに気づいた。

 もちろん、りりあの知らない人間だ。


 短髪で微妙だけど、胸がわずかに出てるのでたぶん女だと思う。

 体型はこの世界には珍しく、少し太いか? というくらい。


 なんでそいつに目がいったのかっていうと、そいつがメチャクチャ眩しかったからだ。

 その女の制服は、スパンコールと電飾まみれだった。

 どこに電池を隠しているのか知らないが、季節外れのクリスマスツリーみたいに光り続けてる。


 遠目に見ても、奇抜な女だった。

 オシャレっつーか、ぶっ飛んでるっつーか、評価不能なファッションセンスだ。


「どうして普通の格好しないの……」


 彼女の前に座る教師は、叱るというより、見るからに困惑していた。

 それに対して、電飾女は教師を教え導くように告げる。


「先生、普通ってなんスか……? それ、統計の皮を被ったただの経験則による思い込みっスよね? 本来、普通の定義は人によって違うっス。アフリカにはまだ上半身裸が普通の部族もあるっスよ。布を着てるだけありがたいと思ってほしいっス」

「お願いだから今後も布を着てね……」


 なんだか、ヤバい話をしてる気がする。ウチは耳をそばたてる。


「川門前さん、あなたミスコンの応募箱にも細工したらしいじゃない……」

「虫のフィギュアめっちゃ置いただけっスよ」

「どうしてそんなことしたの……運営委員の人たちが困ってたわよ……」

「だって、くだらないじゃないっスか! 学校一の美女を決めるなんて!」


 女は部屋全体に響くような声で叫ぶ。


「美人の概念だって、結局『普通』と似たようなもんっスよ。時代と社会で揺れ動く集団幻覚みたいなもんっス。そもそも、美人の定義が『太ってること』になったのは、つい最近の話っスよ。平安まで遡れば痩せてる人間こそ美人だったんスから」

「お願い……百年単位で話をしないで……」


 お手上げといった感じで呻く先生。


 その瞬間、ウチの直感が電流みたいに走った。

 

 痩せてる人間こそ美人?

 

 おいおいおい……間違いねぇ……

 きっとアイツもウチと同じ、女神に飛ばされてきたヤツだ……!


「え、ちょっ、山崎⁉︎ どこ行くんだ⁉︎」


 ウチは、担任の声を無視して、例えじゃなくてガチで光り輝く職員室の一画へと向かう。

 電飾女と困り果てる教師が同時にウチに視線を移すなか、ウチは彼女に話しかけた。


「ねぇ、アンタも、この世界に飛ばされちゃった系?」


 電飾女は、急に話しかけられてビックリしたように瞬きをした。


「え、なんすか……そういうごっこ遊びっすか……?」


 教師もウチを見上げてポカンとしてる。

 それどころか、職員室にいる全員がウチを見てる。


 ……自分の顔がパッと赤くなったのを感じた。

 

「ま、紛らわしいこと言わないでくんない⁉︎ 恥かいたんだけど!」


 ウチは逃げるように職員室の出口に駆け出した。


 乱暴に扉を開けて、外に出る。


 最悪……マジ恥ずい……


 廊下を早歩きで歩きながら、火照った顔を冷ましていると、


「待ってくださいっス!」


 後ろから、さっきの女の声が届いた。


 振り返ると、先ほどのクリスマスツリー女が、追いかけて来てた。

 走るたびスパンコールが落ちて、まるで妖精が通った跡みたいになってる。


「なに……バカにしに来たの……」


 ウチは突き放すように答える。


「そんなことで走ってこないっスよ〜。名前、きこうと思って」


 彼女はすごい爽やかないい顔で笑いかけてた。


 派手な装飾に目を取られるけど、近くで見ると、彼女が金色のイヤリングをしてるのに気づく。

 モチーフは貝の化石だが、唯一センスがいい感じ。


「……山崎だけど」

「下の名前は?」

「りりあ……」

「っスよね〜! 知ってたっス!」

「はぁ?? なんなの一体! ケンカ売ってんの?」

「違うっス違うっス!」


 女は笑いながら手を振って否定した。


「あっし、りりあさんの噂、耳にしてから、ずっと話してみたかったんスよ」

「噂?」

「美人の先輩捕まえては、ブスだって叫んで大暴れしてる狂った先輩ってきいたんすけど、ホントっスか?」

「はぁ? 誰が。狂ってんのはこの世界だよ」

「わぁ〜! ホンモノっす〜!」


 彼女は、クリスマスプレゼントに喜ぶ子供みたいに目を輝かせると、ウチの手を取った。


 「あっし、川門前よしひとっス」


 勝手に自己紹介まで始める。

 やっぱり変なヤツだ。元の世界なら、相手にもしないだろう。

 けど、今のウチには話し相手が足りてない。


「……あっそ。男みたいな名前だね」

「あ、でも名前の漢字は『美人』なんスよ。『美人』って書いて、よしひとって読むっス」

「やぁば。親なに考えてんの」

「同感っス〜! 生まれたばっかの子供に初手プレッシャーかけてくんの勘弁してほしいっスよね〜!」


 まるで他人事みたいに、カラカラ笑う。

 良いヤツっぽそうではあった。


「……何年なの、アンタ」

「一年っス」

「ずいぶん変な格好してんね」

「イケてます?」

「あー……ウチにはわかんねぇけど。手はかかってそうだよね」

「わかるっスか⁉︎ いやー、これ作るの大変だったんスよぉ」


 その数秒後には、ウチは話を振ったのを後悔してた。

 よしひとと名乗った彼女の口は、一生止まらない。

 階段を上がっても、ウチの教室に戻ってさえも、問答無用でついてきて、この服のテーマはなにかとか、どの部分に苦労したかとか、興味のないことを延々ウチに浴びせ続ける。


「ねぇ、きいてるっスか。りりあさん。ねぇー」

「きいてるきいてる」


 ウチはもう一言一句を右から左に受け流しながら、窓枠から体を出して、スマホをいじってた。


 フロアのどこにも、紗凪が見当たらない。

 LINEも既読にならない。

 いつもなら、教室でウチのこと待ってくれてるのに。


 よしひとの言葉を無視しながら、電話しようかと思ってると、当人が中庭を歩いているのが見えた。

 ……不良たちに取り囲まれ、どっかに連れ去られるとこだった。


「アイツら……ッ!」


 ウチは教室を飛び出す。

 また紗凪に手ぇ出す気か!


「なんスかなんスか⁉︎ あっしも行くっス〜!」


 まるでピクニックにでも行くと思ってるみたいに、よしひともスパンコールを撒き散らしながらついてきた。



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