第2章 りりあとドブスな仲間たち
第9話 美少女JKモデル、ガチでカースト最下位になる①
あのふざけたバニラのトラックに轢かれたとき、ウチはガチめに死を覚悟した。
それがどうして、こんなイミフな世界にいるんだろう?
理由はさっぱりわからない。女神のせいって思ってるけど別に証拠もない。
ただ、寝ても覚めても変わらないその世界こそが、今のウチの現実だった。
この世界に来てからの日々は、マジでキチィことばっかだった。
紗凪の勧めで、とりま地元のでっけぇ病院に行ったウチは、脳外科でなんかでっけぇ機械にくぐらされたり、精神科で「イカれてますか?」って聞いてくるテストを受けたりした。
診断結果は、どれも至って健康。異常なし。
でも、明らかに異常は起こっていた。
家に帰れば、見知らぬ人間二人がりりあの親を名乗ってんだから。
テレビとか広告とかにでてるタレントも、一般人と同じくデブばっかだった。
なかでも、女性芸能人なんか、健康が心配になるほど、恰幅がいいのばかり。
対して、ブサイク芸人ってバカにされてる奴らの、顔のいいこと……
「……あぁー、マジで」
ウチは、バラエティが流れるテレビをあぐらをかいて眺めながら、ついぼやいてた。
「りりあ、なんか悪いことしたぁ……?」
――この世界では、美人の価値観は逆さになっている。
いじめられっ子の超絶美少女、生駒紗凪が教えてくれた法則は、既にその翌日から洗礼となってウチに襲いかかってきた。
「山崎ぃ、お前最近ヤバくね?」
朝、席について真っ先に声をかけてきたのは、チャラついた男だった。
丸々とした顔面に、イキって染めた髪が痛々しい。
「『なんだこのデブ教室!︎』ギャハハ!」
そいつの背後には、ヨイショ役みてぇな奴らが、ウチの真似をして笑ってる。
クラスメートの相当数が、ウチを興味本位でチラ見してるのがわかった。
マジでイラつく……
「あぁ、この前ね。お前らがクサすぎて教室いられなかったんだわ、ゴメンね〜。太りすぎてて湿度異様に高ぇしさぁ。つかお前ら、エイトフォーかけすぎじゃね? 気にしすぎててむしろキモいよ。しかも汗臭いの消えてないし」
彼らは、まさか言い返されると思っていなかったのか、
「は……シ、シーブリーズだし……」
とかよくわかんねぇ言い訳をして、ウチの前から退散した。
その後数時間、ウチに話しかけてくる奴は一人もいなかった。
赤ちゃんの頃から美人と言われてきたウチにとって、それは大変なショックだった。
どうやらウチは、正真正銘、クラスカースト最下位へ転落をしたらしい。
◇
昼休み。
ウチは一人、プリプリしながら食堂の列に並ぶ。
こんな美人を誰も昼に誘わないってマジ⁉︎ 信じらんないんだけど!
前の男がビビっているのも構わず、床を踏み鳴らして舌打ちする。
ウチに媚売ってくる女もいないしさ。つか、男もこんないい女が転がってて、チャンスだと思わないワケ⁉︎
今めっちゃ傷心だよ⁉︎
まぁデブから迫られてもキモいだけだけどさ!
怒り心頭のまま、やけに痩せた食堂のおばちゃんにサラダうどんを頼み、屈辱的なひとりランチをキメる。これも人生で初体験。
話し相手もいないランチタイムはヤバいくらい暇で、ウチはうどんをすすりながら、用もないのにスマホを開く。
初めて家で確認したときは驚いた。
スマホのなかは、同じJKの持ち物とは思えんほどアプリがなくてガチで空っぽだった。
カレンダーとか以外に、入ってるのは勉強系のやつだけ。
そもそもSNSアプリが全然入ってないし、LINEは友だちの数がそもそも10人もいなかった。
んな数見たことねぇんだけど。
「マジ前のウチ使えね〜……」
ため息が出る。
クラスで誰も話しかけてこないし、元々この世界にいた山崎りりあは、友達もいないクソ陰キャだったみたいだ。
ウチと代わる前に、友だちくらい作っとけよなぁ。
ひとりきりの昼食はサッサと終わらせ、必要以上に床を踏み鳴らしながら二年の教室前まで戻る。
と、向こうから目の覚めるような美人が手を振ってきた。
紗凪だ。
デブで埋まる廊下をすり抜けながら、ぎこちない笑顔で近づいてくる。
その途端、ウチの心はパッと明るくなった。
あ〜、鬼ブスだらけのなかにいると余計輝いて見えるわ〜。
「山崎さん。お、おはよ」
「あ〜、美少女……」
拝むウチに、紗凪はすぐにシーッと唇の前に指を立てて、周囲を見回す。
「や、やめて! 特に学校ではやめて!」
「いや、不可抗力っしょ。こんなキモい世界にいたら、紗凪見るくらいしか目が休まんないもん」
「あの、諸々大丈夫そう?」
ウチが人目を気にしないのを悟ったのだろう。
美少女は小さい汗を飛ばしながら、無理やり話を変える。
「大丈夫なワケねぇべ? この空間にいるだけでデブりそうだわ……」
「あはは……それはいいね……」
「いや全然よくねぇから。なに、紗凪太りたいの?」
「それはもちろん……太りたいよ……女の子は誰でもそう思ってるよ……」
彼女は、気弱そうに右腕をさする。どうやらそれが彼女のクセらしい。
その様子に、ふと疑問を持った。
「なら、太ればいいじゃん」
「え?」
「いやだって、太るなんて別に簡単じゃね……? 食えばいいんだから。痩せるより全然楽っしょ」
ウチは窓にもたれて思い出に耽る。
今までウチがどんだけ1キロ減らすのに苦労してきたことか……
「それが……わたし太れない体質みたいで……頑張って食べてるんだけど、量もそんなに取れなくて……ダメなの……」
世界が違えば自慢にとられるような言葉を、紗凪はまるで恥であるかのように呟いた。
ウチは、紗凪がカロリーセットを半分残してたことを思い出す。
さらに紗凪は、切なげに付け足した。
「ついでにわたし、食べても肉が全部胸についちゃうみたいで……サイアクだよね……」
「殺す……」
「ひぇッ⁉︎」
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