第7話 美少女JKモデル、ガチで美女を救う③


「せんせー。アレって体育倉庫にあるんだっけー。いくつ持ってくのー?」

 

 別に知ってる声ではない。ただ体育の準備をしに来ただけだろう。

 でも、ウチにとっては救いだった。


「やば。節子戻ろ」

「お前の相手はまた今度な」

「はー、おもろすぎ……山崎さんバイバーイ」


 不良たちは、ゲラゲラと笑いながら去っていく。


 ウチはその後ろ姿を睨みつけながら、内心は複雑だった。


 救われた……けど、不本意すぎる……

 こんな屈辱、生まれて初めてだ……


 彼女らが去った後には、地面にへばりついてる美少女だけが残された。

 ウチは自分の気持ちを脇に置いて、彼女に近づく。


「……アンタ、大丈夫?」


 近寄ると、その女はウチ以上にデカい目をキョロキョロ動かして、


「慣れっこなので」


 と地面に向かって鬱々と答えた。

 透き通るような綺麗な声だった。


 この女、悔しいけどあらゆる素材がウチ以上の、とんでもない逸材だった。


 卵形の小さな輪郭に、輝く二重の大きな瞳。

 小ぶりな鼻は外人みたいに高くて、血色のいい唇は端に行くにしたがって持ち上がっていく。


 そんな激ヤバ美少女だっていうのに、海みたいな青さのヘアピンからは髪がほつれて、長袖シャツが土に汚れているのが、さらにウチの心を怒らせた。

 

「なんなの、あのブスたち……身の程を知れよ……」


 ウチが吐き捨てると、生駒と呼ばれてた少女は恐ろしげに周囲を警戒しながら言った。


「そ、それ、千代田さんたちに聞かれないようにしてくださいね……肝が冷えます……」

「千代田って誰よ」

「日傘さしてた方です……後ろのほうにいた……」

「あぁ、あのドブスね」

「ひぇ……」


 一気に青ざめる少女を置いて、ウチはさっきのリーダー格を思い浮かべた。

 一際デカくて、醜いあいつ。

 なんであんなんが偉そうにしてんだか。


「アンタさぁ、あのブスたちに弱みでも握られてんの?」

「え、い、いえ……」

「んじゃ、なんでいじめられてんのよ。アンタのほうがよっぽどカースト上でしょ。ちょっと仲間に頼めば解決すんじゃん」


 ウチが言うと、美少女の口がポカンと開いた。


「え? わ、わたしがカースト上? あ……皮肉を言ってらっしゃる、みたいな……」

「は? 言ってねぇけど。アンタくらい綺麗な子、さすがのウチでも見たことないし」

「え、ちょっ……!」


 今まで青かった女の顔が、ボンと今度は真っ赤になった。

 そして、ついに立ち上がって、体育倉庫の前も後ろも確認し、ため息をついて戻ってくる。


「誰もいない……よかった……」


 ウチはイラっとした。


 なんなんコイツ……さっきからビクビクして……

 せっかく同類に会えたのに、話が通じないの……?


「正直に褒めてやってんのになんなんその態度。ウチが認める奴なんてそうそういないよ?」

「いやいやいや。だって……だって私が美人なワケないじゃないですか……!」


 彼女は、両手をふりふり、主張し始める。


「わたしなんて、全身絶望的ですよ。顔は小さいし、目は二重だし、おっぱいは大きいし、くびれはすごいし……」

「急に自慢しまくるじゃん」

「いやいや、わたしはむしろ自慢できない部分を……」


 と言いかけて、彼女は息を止めてウチを見上げた。


「……さっきから変だなと思ってたんですけど。もしかしてそれ、本気で言ってるんですか……?」

「はぁ? 当然っしょ」


 ウチは眉を顰めて続ける。


「ウチらレベルの美人なんて、芸能人でもそうそういないし」


 ウチの言葉が、空に響く。

 目の前の美少女は信じられんって感じで目を丸くして固まった。

 そして――急に「プッ」と吹き出した。


 はぁ〜⁉︎

 さっきから不愉快なんですけどコイツ〜〜〜⁉︎


「なに笑ってんだよ……」

 

 ウチのイラついた顔に気づいて、慌てて少女は頭を下げた。でも、笑いは堪えきれてない。


「あ、その、ごめんなさい……でも、おもしろくって。だって、わたしたちが芸能人って……ふふっ、いったいどこの国の話ですか……?」

「……知らねぇよ。車に轢かれて起きたらこうなってたんだから」

「え?」


 あ、やっべ。

 

 ウチは口にしてから気づいた。


 これ言ったら、おかしいヤツだと思われるんじゃね……?


「起きたらこうなってたって……」

「い、いや、なんでもない。つかさぁ、ウチガチで腹減ったんだって!」


 ウチは慌ててごまかす。


「えっ、は、はぁ……」

「なんか暴食したくね? 昨日からマジでストレス半端ないし……デザート……いや、ジャンクだな。ガチでマックだわ。ほら、アンタも行くよ」

「え……わ、わたしもですか……? でもまだ授業が……」

「授業とかサボればよくね? 別に嫌なら来なくてもいいけどさ」


 そう言い捨てて先に外へ向かう。

 すると、美人は慌てて体勢を立て直そうとして……

 

「ひゃう……⁉︎」


 コケた。

 どんくさいな、コイツ。


「そういやアンタ、名前は?」


 ウチが振り返って、再び地面にへたりこんだ少女にきく。


「あ、生駒紗凪です……古い名前ですよね、はは……」


 彼女は、長袖の上から右腕をさすって答える。


「なに言ってんの、いい名前じゃん」


 先にブラブラと外に出る。

 日差しが眩しい。


 紗凪は体育倉庫の陰でまだしばらく迷っている風だったけど、結局ウチの後ろをヒヨコみたいにトコトコついてきた。



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