第6話 美少女JKモデル、ガチで美女を救う②


「おい生駒〜。お前ブスのくせになにうちのカレシに色目つかっての?」

「痛っ……すいません……」


 生駒と呼ばれた少女が、長い黒髪を掴まれて呻く。


「勘違いブスが一番うぜぇんだよ。死ね」

「すいません……生きててすいません……」


 イキったバケモンどもが、輝く美女を寄ってたかっていじめてる。

 異様な構図を目の当たりにして、ウチはしばらく呆然とした。


 なにこの地獄の光景……

 あのブスども、なんの権利があってカースト上のヤツいじめてんだよ……

 ていうか、なんであの美人も抵抗しないワケ? 弱みでも握られてんの……?


 ウチは親によく、考えなしと言われる。

 その意味はよくわかんないけど、とりま目の前の理不尽な景色には、頭よりも先に、口が動いてた。


「おい、デブども!」

「あぁ?」


 呼ばれた彼女たちは、獲物漁りを邪魔されたライオンみたいに、地べたの美少女からウチへと注意を向けた。

 ネイルした爪、染めた髪。

 格好からして、教師の言うことを聞かない不良生徒なんだろう。

 それがまたイラっとする。


「ブスのくせになに人のこといじめてイキってんだよ! テメェらにその権利ねぇだろ!」


 ウチが喧嘩を売ると、不良連中はウチをチラ見してから、鼻で笑った。


「あ? なんか違うブスがケンカ売ってきたんだけど」

「こいつ知ってる〜。7組の山崎だよ〜、クソ陰キャのブス」

「あー、つまりブス仲間を助けに来たってワケね? ブスの友情ウケるw」


 脳内で、ぷちーんと血管の切れる音がした。

 こいつら、よくも超絶かわいいりりあちゃんに向かってブスブスブスブスと……


「はぁ? お前ら目ぇ腐ってんの⁉︎ こっちは現役JKモデルの美少女だぞ!」


 ブチギレて返す。

 決まったと思った。


 しかし、彼女たちはぽかんと顔を見合わせると……一斉に爆笑し始めた。


「ギャハハ! はぁ?? モデル?? 美少女???」


 一際でかい茶髪が大口を開けて笑う。


「え、待って本気で言ってる?︎ 山崎さん、自分の顔鏡で見たことある? っていうか鏡って知ってる?」


 ぶりっ子なツインテールが高い声でバカにしてくる。


「ガリの妄想がw 図々しすぎんだけどw」


 中途半端な黒髪がウチを指さしてくる。


 彼女たちは、腹をくの字に曲げて息も絶え絶えになって笑い転げてた。


 ゲラゲラゲラ。


 笑いの的にされ、ウチはカッと頭に血がのぼるのを感じた。

 なんで、りりあがこんなデブ連中に馬鹿にされないといけないんだ……


「うっせぇよブスどもが! 早く消えろ!」

「え〜⁉︎ なんか、怒ってんだけどぉ! キモ〜!」

「顔真っ赤じゃん。虚言癖のブスとかキツすぎるでしょ」

「節子ォ、このイキリブスどうするー?」


 黒髪が後ろに問いかける。

 今まで気づいていなかったけど、不良たちが振り返った先には、白い日傘を差してる女がいた。


 この2日何度も驚いてきたけど、そいつを見た瞬間が一番の衝撃だった。

 そいつは、ドラムさえも超えたクソブスだった。


 妊婦みたいに突き出た腹と、それに不釣り合いな低い身長。

 その上に乗っかる顔はデカくて、おまけに目は豚みたいに小さい。


 神様が遊びまくったみたいな極端なブスであり、彼女の容姿で、ウチが気に入った部位なんかひとつもなかった。


 それなのに、女は、不良のリーダー格っぽいのだ。

 ひとりだけ円から離れているが、存在感があった。


 女は、肉に埋もれた首を傾げて、


「やる気なら、相手してあげたら?」


 それだけで、場の空気が変わった。

 不良全員がウチに一歩近づいてきた。


 ドンと効果音が聞こえそうな迫力に、ウチは思わず後ずさる。

 さすがのりりあちゃんでも、その圧倒的体格差に気づかざるを得ない。


 こっちは超軽量なのに、あっち全員無差別級じゃん……

 どしよ……


 と、


 不意に、誰かの声が聞こえてきた。




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