第4話 美少女JKモデル、ガチで転生する③
体型がバグった自称岩瀬ちゃんの女は、ウチがとりま元気ではあるってことを確認すると、
「ごめんね。他の子が来るかもしれないから」
と、ウチを保健室から追い出した。
仕方なくウチは外に出て、扉を閉める。
外の景色は、保健室と同じで、変なとこはなにもなかった。
廊下の見た目も、記憶とおんなじ。
教室前に立ち並ぶロッカーも、床の色も、奥行きも、匂いも、なにもかもが一緒。
窓の外に広がる川と住宅街の景色も、ふつー。
岩瀬ちゃんだけがバグってる。
ウチは、これからどうするか迷った。
とりまウチはスマホを取り出す。そんで、ようやく気づいた。
今の時間は、4時間目が始まってるタイミングだった。
「……いやそれおかしくね⁉︎」
廊下にウチの声が響く。
ウチの記憶が正しければ、車に轢かれたのは昼休み終わりのはず。
4時間目なんてありえない。
え、おかしくね……?
翌日か……?
でも、日付は同じだ……
困惑してると、一人の女子生徒が通りかかった。
腹の出た、結構なデブだ。
保健室前に突っ立ってるウチを横目に見ながら、通り過ぎてく。
んだよ、ブスが。こっち見んな。
マジ不摂生。キモい。
「山崎さん、どうかした?」
後ろからまたあの自称岩瀬ちゃんの声がする。
ぶっちゃけ、もうあのデブには会いたくない。
ウチは保健室前から逃げた。
しゃーなし、とりま授業に出よう。
ウチは歩きながら、そう決めた。
出席日数やばいし、まぁ窓見て時間潰せばいいっしょ。
そう考えて、クラスに向かってちんたら歩いてると、またデブ生徒が現れた。
さっき通りかかったのとは違うデブだ。
向こうから廊下を歩いてくる。
ウチは舌打ちしながらすれ違う。
女子でアレとかありえないんだけど。恥とか知らんのかな。
つか、スカート短すぎ……キッツ……ガチ大根じゃん……
心のなかで悪態をつきながら、階段を上がる。
すると、上から再びデブが現れた。今度は男子生徒だ。
「はぁ〜⁉︎︎ なんなの⁉︎」
突然叫んだウチに、男子生徒がギクッと体を揺らした。
ウチはおこ状態のまま階段を上がる。
いや、デブ大発生かよ!
1日1人見れば充分なんだが……⁉︎
本当なんなの今日⁉︎
つか、これ以上デブ見たら目が腐る……早くクラス帰ろ……
ウチは急いで、2年の教室フロアへ上がる。
廊下には誰もいない。
各クラスからは、授業を行う教師たちの声が漏れて混ざってた。
いつもの景色だ。
ウチはようやく息をつきながら教室の扉に手をかけ、マジ最悪な日だったなと思いながら、クラスのドアを開けた。
そして……
教室全体に広がる光景に、面食らった。
教室にいる人間のほとんどが、デブだったのだ。
丸々と豚のように太った人間たちが、一箇所に詰められて、前方に垂れたスライドを眺めてる。それを解説する教師まで太ってる。
まるで豚小屋だ。
「なんだこのデブ教室は……⁉︎」
思わず上げてしまったウチの悲鳴に、太り気味から太りすぎまで、バリエーション豊かなデブたちが、一斉に眉を寄せてウチを振り向いた。
見えない圧力に、ウチは思わず後ずさった。
この空間……贅肉が多すぎる……
「や、山崎? どうした?」
たぬきの置物よりでかい腹を抱えたオッサン教師が、こっちに向けて驚いた顔してる。
でも、ウチのほうがもっとずっとビックリしてっから。
なんで?
ここ、ウチの教室だったよね?
ウチは一度外に出て、ドア上のプレートを確かめる。
――2-7
確かにウチのクラスだ。
「山崎、大丈夫か? 保健室行ったんだよな……?」
「行った。つか、お前誰? 不審者?」
「え、お前の担任だろ……」
教室がざわつく。
「いや笑う。担任そんなデブじゃないんだけど。つか、全員なんでこんな太ってんの?」
「いや、本当にどうした……ちょっと一度職員室に……」
「来んじゃねぇよ!」
近づこうとした教師を吠えて止めると、ウチは一人で考え始めた。
これ……やっぱ夢……?
説ある。
あとは、やっぱふつーに死んでて、ここ天国とか。
それも説ある。
でも、女神が生き返らせてくれたんじゃねぇの?
……待って。そういや、なんか言ってたなあの女神。
ウチはバニラトラックに轢かれた後のことを思い出す。
すると、脳みそにふと女神の言ってたことが浮かんできた。
――ちな、どこに飛ばされても文句言わんでね〜
嫌な予感に、脇汗がめっちゃ流れてきた。
おいおいおい、嘘っしょ……
ウチは、慌てて部屋を飛び出した。
廊下の景色も、聞こえる音も、何も変わらない。
でも、ウチは隣の教室のドアに飛びついて開けた。
なかにいた全員が振り返る。
ウチは、ショックでひっくり返りそうになる。
隣のクラスの生徒たちも――みんなデブだった。
「ど、どうかした……?」
教師の困惑も放っといて、ウチはまた外に飛び出し、2年の教室を次から次へ開け放ってく。
しかし、どの教室を開けようが、光景は変わらない。
デブ、デブ、デブ……
どの教室も、やっぱデブだらけだった。
なにここ……デブの惑星……?
ウチは数クラス開けたところで、立ち尽くした。
もしかしたら、轢かれた衝撃で脳みそが変になっちゃったのかな。
戸惑うウチの先で、声が聞こえた。
まだ開けてない教室だ。
「じゃあ次は特別教室へ移動します」
途端に、教室が椅子を引く音や話し声で一斉に騒がしくなる。
そんで、急にその教室に押し込められていた生徒たちが、堰を切ったみたいに廊下に溢れ出してきた。
「――っ!」
その光景の衝撃を、ウチは一生忘れないと思う。
顔も、体も、引き攣ってた。
右も左も、ウチの視界に入るすべてが、デブ、デブ、デブ……
廊下がみるみるうちに、圧倒的な肉量で埋まっていった。
「なんだこれ……脂肪だらけじゃん……」
ウチは、熱にやられたときみたいにうわごとを言ってた。
どうなっちゃってんの、この世界……
視界がグラグラと揺れて、天と地がひっくり返る。
うっ……気持ち……悪い……
ウチはまたぶっ倒れた。
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