第3話 美少女JKモデル、ガチで転生する②



「ん……んん……?」


 暗闇にあった意識が戻ってくる。

 ウチは瞼を開ける。


 目の前には、カーテンレールと、謎に穴の空いたベージュの天井。

 見慣れた光景だ。


「……保健室じゃん」


 なんでこんなとこで寝てんだっけ、と思った途端に、黄色い世界での出来事を思い出した。


 そういや、バニラトラックに轢かれて、女神に復活させてもらったんだっけ。


 体を起こすと、ポッキーみたいに折れたはずの体はピンピンしてる。

 あれ夢だったんじゃね……?


 ウチは考える。


 だって、女神がウチでギャルだったし、呪文が全部ブランド名だったし……バニラだし……

 いや、明らかに夢説あるな……


「あら、起きた?」


 ウチの声が聞こえたのか、カーテンが控え目に開けられる。

 白衣がチラと見えたので、養護教諭の岩瀬ちゃんだろうな、と思う。

 

 けど、実際に現れた顔にウチは思わず後ずさりして壁に頭をぶつけた。


 カーテンから顔を見せたのは……白衣を着たアメリカンサイズのデブだった。

 

「ひぇぇっ⁉︎」

「な、なに……⁉ 山崎さんどうしたの⁉︎」


 ウチの反応に心配げに近寄ってくる。

 彼女は、とてつもない太ましさだった。

 白衣の下から、大きな腹が迫り出してる。


 年齢はおなじくらいだろうけど、痩せ型美人の岩瀬ちゃんとは似ても似つかない。

 だ、誰だ、こいつ……!


「ほ、保健室の先生は……⁉︎」

「え……? 私だけど……山崎さん大丈夫……?」

 

 彼女は怪訝そうに眉を潜める。

 ウチはデカ女と、開けっぱなしのカーテンを交互に見る。

 カーテンの隙間から見えるのは、記憶となにひとつ変わらない保健室だった。

 ただ、白衣を着た人間だけが変わってる……

 

「え、いや、え……? いや、保健室の先生は岩瀬ちゃんじゃん」

「はい。だから岩瀬ですけど……」

「いやいやいや嘘つくなって。お前は岩瀬ちゃんじゃないじゃん。だって、岩瀬ちゃんは痩せてるけど、お前信じらんないくらいデブだし」

「ヤダ、そんな褒めないでよ」

「なんだこのポジティブババァ……」


 図々しいな。


「ちょっと山崎さん、なんか変よ……? なにかあった? またいじめられた?」

「は? また? ウチ、いじめられたことなんか一度もないし」

「……うん、うん。そうだね」


 岩瀬ちゃんを名乗る不審者は、同情するみたいに頷くと、


「ちょっと混乱してるのね。山崎さん、今日はどうしても眠いって言って休みに来たのよ」

「……」

「きっと疲れちゃってるのよ。もう少しお休みしていきなさい」


 そういって、ウチに布団をかけてもう一度寝かせると、静かにカーテンを閉める。

 その手つきだけは岩瀬ちゃんみたいに優しかった。


 そうだ、今日のウチは色々あって疲れてるんだ。

 寝れば元に戻るっしょ。


 元々考えんのがクソタルい性質のウチは、とりま言われた通りに目を瞑る。

 すると、秒で寝れた。



   ◇



 ……それから、どのくらい時間が経ったんだろう。

 遠くにチャイムが鳴って、もっかいカーテンから人が現れる。


 それは、待ち望んでた岩瀬ちゃん……ではなく、相変わらず白衣のデブだった。

 ウチは、思わず頭を抱えた。

 

 全然痩せねぇじゃんコイツ……





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