第15話 正義のロジック

 カラ狐とダガーを引き連れ村を出てたオレは、アクデモール軍とやらの方へと向かって歩く。


「主様、あのような弱き者どもを助ける必要が本当におありで?」


 オレの右隣を歩く始祖ヴァンパイアのダガーが不服そうに聞いてくる。


「貴様……主様に対してなんたるもの言い。立場をわきまえよ、露出狂の変態女が」


 するとすかさず左隣を歩くカラ狐がダガーをとがめる。

 ちなみに、なぜか二人ともオレの腕に腕を絡ませ体を押し付けている。


「あぁら? 私は闇の眷属を統べる漆黒の女王。たとえ相手が主様だろうと、言いたいことは言うわぁ。あんたのような獣混じりとは格が違うのよ、格がね」


「なんだと貴様……!」


 オレの両隣でヒートアップしかける二人。

 ま、こいつらの小競り合いは挨拶みたいなものだ。


「カラ狐よ」


「ハッ!」


「お前はどう思う? 忖度そんたくなしに思ったことを正直に答えろ」


「……では、お言葉ですが」


 カラ狐は顔を伏せたまま話を続けた。


「『異世界へ送り込む先兵』として吸収するのであれば、さきほどの村よりも戦力の優れたアクデモール王国軍の方が、より異世界の兵を削れるかと」


 なるほどね。

 こいつらは、元々世界を滅亡させようとしてた奴らだ。

 わりと脳筋なのだろう。


 吸収するなら村か。それともアクデモール王国か。


 ここで「オレたちが村の方につく」という明確な理由を示してないと、もしかしたら後々面倒になるかもしれない。

 といって、「異世界の推しに似てる子がいるから」「村人が可哀想だから」「アクデモール王国の奴らにオレがムカついたから」なんて言っても、こいつらには全く伝わらないだろう。

 こいつら魔物だし、脳筋だし。

 ってことで。

 ここは一つ、この先のことも考えて「オレたちがどんな道理で動くか」のロジックをここで組み立てておく必要がある。

 ロジック──すなわち、オレが「推し」を守るための建前たてまえを。


「なぁ、カラ狐」


「ハッ……!」


「話を聞く限り、アクデモール王国ってのは義理も人情も持ち合わせてねぇ、味方だって平気で捨て駒にするような奴ららしいじゃねぇか。そんなやつらを吸収したところで信用できると思うか?」


「……いえ。ですが下等な人間なぞ、我々が恐怖で支配してやればよいかと」


「恐怖、ね。たしかに、恐怖で一時的には従うかもしれない。だが、それは長くは続かない。恐怖の先に待ってるのは──衰退だ」


 アイドル現場だってそうだった。

 怖い警備員セキュリティーをフェス会場の警備につけ始めてからアイドルシーンはしぼんだ。

 どんどん新しいコールやMIXを生み出し続けてきた元気なオタクたちが萎縮したからだ。


「なぁ、カラ狐よ。想像してみろ。萎縮し、怯え、衰退した先兵にどれだけの戦果が期待できると思う? それよりも、調子に乗らせ、おだて、褒めすかし、のびのびと育てた方がいい先兵になるとは思わんか?」


 額に汗を浮かべたカラ狐が戸惑い気味に問い返す。


「し、しかし……それであれば、やはり戦力の高いアクデモール王国の方を育てたほうが……」


「それは無理だ。なぜなら、奴らには『義理』がないからだ」


「義理……ですか」


「そうだ。人間も魔物も殺し、あまつさえ自分たちの味方さえも殺すような奴らだ。しかも天使を使って悪魔を使役してる。そんな何の主義も正義も持ち合わせていない奴らを調子に乗らせても謀反を起こされるのが目に見えている」


「なるほど……」


 顎に手を当て感心するカラ狐。


「あっ! ってことは! さっきの村には『義理』があるから、調子に乗らせても支配できるってこと!?」


 ダガーが、クイズの答えがわかった小学生かのようにはしゃぐ。


「そのとおりだ。オレたちに命を救ってもらった『恩義』。やつらは、それを一生忘れない。そして、その恩を感じてる限り、あの村を今後どれだけ発展させても絶対にオレたちを裏切ることはないってことだ」


「なるほど……! 流石は聡明なる我らが主! その海よりも深きお考えに及びもせず、生意気なことを口にしてしまい大変申し訳ございませんでした!」


「んん~! 主様は相変わらずスゴイっ! あぁ……主様……! この戦いが終わったら、ぜひその高貴な体液をどうか私めの口にィ……!」


 どうやら道理は通ったようだ。


「それに、あそこは魔眼城から一番近い人間の村でもあるからな。きっと今後、あの村はオレたちにこれから多大な利益をもたらすだろう」


 まぁ、一番の理由はこの世界で見つけた「推し」を守りたいからなんだけどね。

 と、そうこうしてロジックを完成させているうちに、向かいの緩やかな丘の上に。

 アクデモール軍本隊とおぼしき、おどろおどろしい一団が見えてきた。

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