第13話 瞬殺、殲滅

 現実世界でオレが推してたアイドルグループ『27時のエスカレーション』のセンター久留里くるりりんちゃんに激似の村娘。

 彼女に言われた。


「助けて!」


 助けるでしょ!

 そら助けまくっちゃう!

 ってことで、オレは村を守ることにした。

 かたや、村で一方的に虐殺してる鎧マンたち。

 かたや、逃げ惑い、オレに助けを求めてくる女子供。

 しかも来里りんちゃん似。

 こんなの迷うわけないよなぁ?

 オレはかっこよく前に手を掲げる。


「助さん角さん……もといっ! カラ狐、ダガー! やっておしまいなさい!」


『ハッ!』


 オレの両脇にいたカラ狐とダガーが前に出る。


「な、なんだこの女ども……! オレたちが誰か分かってるのか……!」


 得体の知れないものを目にした恐怖からか、腰の引けた鎧マンが震えた声で叫ぶ。


「貴様らが誰か、だと……? はて……? そもそも貴様らの方こそ、偉大なる我らが主を誰だと思っておるのだっ!?」


「あ、あるじ……? なんだこいつら、頭がおかしいのか……!? クソっ……てめぇらから先に殺してやるっ!」


 血の付いた剣を振りかぶる鎧の男。

 その──。


 ボゥ──。


 中身が焼ける。

 

「うわっ! あちっ! あじっ! あじぐぁぁぁあ! なにしやがっ……!」


 ぽつ。

 ぽつ。

 ぽつ。


 カラ狐の周りに、青い狐火が浮かんでいく。



閻羅遠来えんらえんらい怪怪落虚かいかいらっきょ……舞えや舞え舞え、踊れや歌え、舞えば稲穂のさざなみ揺れる、一尾開放──狐火乱舞きっからんぶ」 



 カラ狐が、まるでうたを奏でるかのように唱えると、宙に浮かんだ狐火が男たちの鎧の中へと転移していく。


「うぎゃああああああああああ!」

「ぐわっ! あっぐぁ、がッ……!」


 一瞬で焼きただれ、生気を吸い取られたかのように白骨化していく男たち。


「ん~……吐き気がする味だけど、その命、仕方なく貰っといてあげるわぁ」


 ガシャァン!


 崩れ落ちる鎧たちを見た男の子が声を上げる。


「ひっ──ばけも……むぐっ!」


 その口を、久留里りんちゃんそっくりの少女が塞いだ。


「……!」


 オレたちを見て固まる少女。

 そらそうだ。

 怖いよな。

 いきなり出てきた怪しい奴らが、得も知れぬ妖術的なもので人を殺したら。

 でもな。

 村を見る。

 煙。

 悲鳴。

 叫び声。

 逃げ惑う人々。

 動けなく──いや、もう人たち。

 その人たちの中には、子供やお年寄りの姿も多い。


(こんなの……一方的な虐殺じゃねぇか……!)


 ギリッ……!

 

 オレは怒りを歯で噛み潰すと、ゆっくりと怖がらせないように少女たちにそっと歩み寄る。


「……っ!」


 目をギュッとつぶり、体をこわばらせる少女。

 その頭に。


 ぽん。


 オレは優しく手を置く。


「大丈夫。オレたちは味方だ」


 この子達を護る力……なにか……。

 ふと、頭に浮かんだ言葉を唱える。



『VIPエリア』



 シュワァ……!


 緑色の聖なる光が二人を覆っていく。


「これは……?」


 高額チケットを買った者だけが入場を許されるVIPエリア。

 貧しいオレが、現実世界で一度も足を踏み入れることの出来なかった聖なる領域。

 それが、きっとここでは彼女たちを守ってくれるだろう。

 なぜかそう確信を持てる。


「ここにいれば安全なはずだ。すぐに片付けてくる、ここで待ってて」


 無言でコクリと頷く二人。

 二人を残し、オレたちは惨殺が行われている村の中央へと進み出る。


「な、なんだぁ、こいつら……!?」

「紫髪っ……! なんと不吉な……!」

「いい女が二人も! こいつぁラッキーだぜ!」

「ぐへへ! ちったぁいい思いできそうじゃね~か!」


 一斉に下卑た視線を向けてくる鎧ども。

 ダガーが吐き捨てるように言う。


「チッ、千年経とうが人間というのは本当に……!」


 鎧の一人が叫ぶ。


「オイっ! まずはあの気持ちの悪い紫髪をぶっ殺せ!」


 その言葉に。


 プチン!


 と、ダガーのなにかがキレた音がした。



「……絶対魅了パーフェクトテンプテーション



 静かにダガーが唱えると、空間が微かに歪んだ気がした。

 そして、鎧男たちの動きがぴたりと止まる。


「ぐっ……! ガッ……! 体が……!」

「あがが……! 勝手に……!」

「おい……! 何してる貴様……!」

「おい! やめろ! やめ、うわああああ!」

「ち、違う……! やりたくないのに体が勝手に……!」

「ぎゃああああああ!」

「うわあああああああああ!」


 鎧男たちは勝手に同士討ちを始めていき──。


「主様、終わりました」


 オレの両脇にひざまずいた、カラ狐とダガーがそう告げた時には。

 鎧の男たちは、全員が息絶えていた。

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