第10話 天輪愛眼で魔眼開眼!
しばらくの間、オレが死ぬことはない。
たぶん。
そんな微妙な安心感を胸にいだいたオレは、マンゲとカラ狐を置いて一人で残りの階層を見て回ることにした。
第四階層。
『ヘル・コロシアム』
そこでは阿修羅のカプサイシンと、デュラハンのビスマルクが両軍に分かれて決闘を繰り返していた。
といっても部下は全員骨なので軍としての戦いはなく、ボスの二人が直接戦っていた。
その戦いっぷりは、もうやべーのなんの。
自分が死なないことを確信できてなかったら、さっさと逃げ出してたねってレベル。
この二人だけで世界滅ぼせちゃうんじゃね? って感じ。
勝った方が闘技場の名前を決められるらしく、現在はデュラハンの命名した『ヘル・コロシアム』になってるらしい。
阿修羅が勝ったら『地獄闘技場』なるんだって。
ちなみに周囲には訓練所なんかもあり、全体的に戦闘員専用の軍施設のフロアって感じだった。
これ以上むさ苦しい男どもを見てても仕方ないので次に移動。
第五階層。
『闇』
な~んもない真っ暗なとこ。
始祖ヴァンパイアのマダガスカルがミスト状になって体にまとわりついてきてオレの汗やその他の体液を舐めようとしてきた。
ちょっと興奮したけど、噛まれて吸血鬼になるのも嫌なので、逃げるように次の階層に移動。
第六階層。
『居住区』
管理者はイケメン竜人のミョーホントゥスケ。
ヤクザが住むような要塞みたいな家に引きこもったミョーホントゥスケが半開きのドアの隙間からボソボソとやる気なく話した言葉を要約すると。
居住区域の広さは約百五十キロ。
北は寒く、南は暖かい。
東方は和風、西方はヨーロッパ風。
ということだった。
ちなみに「キロ」って単位は千年前に主様──つまりオレが伝えたらしい。
そりゃキロ単位になるよね。
これ以上イケメンと話してても気分よくないので次に移動。
……っと、言うのを忘れてたけど、始祖ヴァンパイアのマダガスカルがオレにまとわりついたまま階層巡りツアーについてきてる。
まぁ、このマダガスカル。
性格と種族的にはかなりヤバい女なんけど、見る分には顔もスタイルも服装も抜群にいいので連れてて悪い気はしない。
なのでそのまま連れて行くことにする。
少なくともマンゲよりはマシだ。
第七階層。
『鋳造・工房』
管理者はイフリートのアペ。
ああ、火の精霊だから火力の調整なんかがお手の物なのね。
なるほど、適材適所。
あとは職人を連れてきたり、イフリートの部下の肉体を取り戻させたら、色んな工業が発達しそう。
最終的には火力発電所とかも作れるんじゃね?
この世界、魔法で色々出来るみたいだけど電気も電気でほしいもんね。
ということで次に移動。
第九階層。
『絶対防衛階層&宝物殿』
管理者はケットシーの猫ちゃん、チャペ。
仮に侵入者がここまで来たとしても、絶対にケットシーがここで殺すらしい。
煉獄十将のトップの座、第一の将を務めるだけあってどうやら最強らしい。
なんでも絶対幸運の力で負けることはないんだって。
絶対幸運の力……。
ラッキーなマン的な?
えぐっ。
その力、オレがもらって現実に帰りたいわ。
そうすりゃオレも世界に羽ばたくグラフィックデザイナーになって、偶然町中で出会った「推し」と結婚してることだろう。
ちなみに、宝物殿の内部には入れてもらえなかった。
なんでも千年前のオレが「来るべき時にのみ入るように」って言ってたらしい。
ま、いいか。
オレの言うことだ、きっと間違いはないだろう。
ということで、はい、次。
第十階層。
『オレの私室』
超広い。
ベッド、超でかい。
泊まったことないけど、ホテルのVIPルームってこんな感じじゃないの?
メイド服を着たガイコツが三人部屋に控えてたけど、ガイコツでなんか気持ちが悪いから「帰っていいよ」って言ったら悲しそうに帰っていった。
なんかごめん。
発情して理性を失ったヴァンパイアのマダガスカルにベッドに押し倒されかけたりしつつも、とりあえず自室は後からいくらでも見れるってことで最後の階層に向かうことに。
第十一階層。
『滅亡の砂時計』
そこには置いてきたはずのマンゲとカラ狐が待ち受けていた。
「おぉ、我が主よ……! きっとおいでになると思ってここでお待ちしておりました!」
「主様を失望させてしまい申し訳ございませんでした……!」
二人は肩を落としてシュンとしている。
ものすごい落胆っぷり。
オレの隣で勝ち誇った顔をしてるマダガスカルに食ってかかる気力もないみたい。
「うむ、今後はあまりくだらぬことに私を付き合わせるなよ」
「ハッ……!」
そんなことよりも気になることが。
このピラミッド状の魔眼城。
その頂上に浮遊している──。
巨大な砂時計。
なんだ……これ?
ぽかんと口を開けたオレにマンゲが言う。
「主様、今も我らの
「ふむ。アワーグラス・オブ・ドゥーム……それがどのようなものか、今一度カラ狐とマダガスカルに言い聞かせることを許可する」
「ハッ、では
へ~、そうなんだ。
「で、その宿願というのは?」
そもそもなんで世界を滅ぼしたいの、こいつら?
「ハッ! ……はて? なんだったでしょう……?」
「は? 覚えてないのか?」
「申し訳ございません! 我ら千騎、地中深くに封印されし際に肉体と名を失い、さらには記憶のいくつかが抜け落ちているのです……! なにとぞご容赦の程を……!」
「ふむ……」
ま、どうせ、この先いつかオレは過去にタイムスリップするんだ。
その時にそこらへんのこともわかるだろう。
「まぁ、よい。じきに思い出すであろう」
「申し訳ございません……!」
世界の破滅、かぁ。
どうせなら、あんまり人とか殺したくないなぁ。
だってほら、異世界でしょ?
かわいい子とかいるわけじゃん。
いろんな種族のさ。
でさ、その中にオレが推せる子とかもいるかもしれないわけだし。
っていうか、オレが現実に帰る方法を探るためにも、あんまり人々に死なれちゃ困るんだよ。
帰り方わからなくなっちゃうじゃん。
「なぁ、マンゲエターナルよ」
「ハッ」
「この世界だけじゃ、つまらんと思わんか?」
「は……?」
「異世界も視野に入れてみたらどうだ? その滅亡させる相手に」
「異世界……あの次元を超えたところにあるという全くの別の世界のことですか?」
「うむ、不服か?」
「いえ、とんでもない……! ただ、その……申し上げるのが大変お心苦しいのですが……異世界への渡り方がわかっておりませんで……」
「ならば探せばよい。世界を滅亡──いや、征服していきながらな」
「……! 単に国や種族を滅亡させるだけではなく、情報を吸い上げ、奴隷として使役し、そやつらを先兵として異世界へと送り込む! 送り込まれた連中は死に、同時に異世界の戦力も削れる! まさに一挙両得! そういうわけなのですね!?」
「う、うむ……そのとおりだ」
ど、奴隷? 先兵?
まぁ、殺すよりはいいか……。
「嗚呼、流石は我らが偉大なる主ッ! なんというスケールの大きさ! なんという合理的なお考えッ! このマンゲエターナル! 自分の矮小さがあまりに恥ずかしくございますッ!」
「主様ぁ! なんと素晴らしいお考えなのでしょう!」
「ハァハァ……! 主様、あらゆる種族の血を私が吸い尽くしてみせましょうッ……!」
ヤバい。
この三人、興奮して瞳孔が開きまくってる。
怖いからちょっと話を変えよう。
「うむ! では、さっそく近隣の調査へと向かうがよい!」
これでこいつらはそれぞれの仕事に向かうはず。
「であれば主様ッ! 魔眼城の真なる力をご解放くださァい!」
え? 真なる力?
またMIX入れる系か?
えっと、魔眼城……魔眼……眼……目?
目といえば……これか?
まぁいいや、別に間違ってもオレは死なないわけだし。
いっちょ打ってやりますか!
天輪愛眼MIXを!
『愛眼眼眼、愛眼眼眼っ!
天っ! 輪っ! 愛っ! 眼っ!
目っとぉ! メガネと! コンタクトぉ!
補聴器もぉ!
オッケェェェェェェェェー!』
ピッカァーーーーーー!
魔眼城が輝きに包まれていく。
そして、その外壁に刻まれた無数の目が。
バチコーン!
と開いた。
「さすが主様ッ! 素晴らしい魔力ッ! 見事、魔眼城の魔眼がすべて開眼いたしましたァ! さぁ、これで城の半径五十キロ圏内が手に取るようにわかるハズですッ!」
お、おう……。
半径五十キロ圏内……。
ただ、なんだろう……?
ピラミッドにいっぱいついた目という目、その全てからサーチライトが空に向けて照射されててさ……。
マジで、ここだけ近未来&悪の本拠地感がハンパないんだけど……。
「ささ、では主様! この画面から見たいところをお選びください!」
気づくと、オレの目の前に宙に浮いた魔法のディスプレイが表示されていた。
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