第7話 モード淫徳、悪魔回廊!

 フォン──。


 まっすぐに伸びる石畳の大通り。

 左右に広がるレンガと木造の建物。

 そんな中世ヨーロッパ風の街の入り口に気づいたら立ってた。


「おぉ! 無事に着きましたなっ! 流石は主様のテレポーテーションんんっ!」


「はぁはぁ……! 主様の魔力が私の体の隅々に……あぁんっ!」


 相変わらず騒々しい二人に若干じゃっかん引きつつも、マンゲに説明を促す。


「マンゲエターナルよ、改めてこの階層の説明をすることを許そう」


「ハハッ! ありがたき幸せッ!」


 馬鹿丁寧に頭を下げたマンゲが、くるくると踊る。


「ここは私、根源の悪魔ことマンゲエターナルの管理せし悪魔回廊っ! 飲んでのまれてノマれて呑んでっ! 嗚呼、素晴らしきかな、めくるめく人生っ! 酒と女で怠惰の限り! ここは禁断の永久回廊! 何も知らぬ冒険者が入り込んきたら、性も根も思考も命も! カラカラになるまで全てが吸い尽くされるでしょう! 一度迷い込んだら二度と出ることが出来ない! それが、この悪魔回廊でございますッッ!」


「女……ということは娼館なんかもあるってことか?」


「ハッ! もぉ~ちろんでございますっ! 今はこのような普通の町並みでございますが、一度侵入者が入り込めば……」


 パチンッ!


 マンゲが指を鳴らす。

 急に薄暗くなる。

 軒先に下げられた照明がピンクに、紫に、妖しく光り出す。


(うぉっ……! これも魔法……!? っていうか……)


 なんか気分がやべええええええええええ!


「このように【モード:淫徳】へと変化します。我らが悪魔族の濃厚な魔力に触れた侵入者どもは、精神が壊れ、堕落し、もはや生命とは呼べない『モノ』へと成り果てるでしょう」


 オレが、そのモノへと成り果てそうなんですけどおおおおおおお!?

 効いてる! 超効いてる!

 悪魔族の濃厚な魔力が見事にオレに精神干渉してきてる!

 理性が壊れ、堕落しかけてる!


「? 主様? どうかされましたか?」


 マンゲが不思議そうに尋ねてくる。

 やべぇ……!

 今、オレに精神干渉が効いちゃってることがバレたら、主様じゃないことまでバレるかも……!

 ね、なんとかして誤魔化さないと……!


「マンゲエターナルよ……」

「ハッ」

「見よ、この街の様子を」

「ハッ……」

「わからぬか?」

「……と申しますと?」


 うん、オレにもわからない。

 ただそれっぽいことを言って時間を稼いでいるだけなんだ。


「街にいる貴様の部下たちの姿を見てまだ気づかぬと? 貴様には、ほとほと失望したぞ!」


 やべぇ……意識が朦朧とする……。

 そろそろもう限界かも……。


「ハッ……! もしや──!」

「フッ……やっと気づいたか」


 いや、何に?

 わからないけど意味ありげに笑ってみる。


「私の部下たちの姿が不完全なドクロ姿だからっ!」

「そのとおりだ!」


 そうなの?


「侵入者を魅了すると言っておきながら、肝心の魅了する役目の悪魔たちがドクロのまま……。これでは魅了の効果も半減……いや、千分の一ほど。このような不完全なものを完璧なる存在──主様のお目に入れてしまったこと、深くお詫びいたしますっ!」


 え、千分の一?

 千分の一の魅了の効果で、オレ今こんなに死にそうになってるの?


「よい、誰にでもあやまちはある。貴様を許そう、マンゲエターナル。ただ、詫びるよりも前にすることがあるのではないのか?」


「ハッ! なんという深い慈悲のお言葉! なんという寛大なお心遣い! 不肖マンゲエターナル! これから先、身を粉にして此度こたびの挽回をしてまいります!」


 パチンッ!


 マンゲが再び指を鳴らすと階層は明るさを取り戻し、オレの精神を圧迫してた魔力的なプレッシャーも消える。


「これから私めは、部下の肉体を顕現させるべく一刻も早く功をなします! そして、次こそは主様に完璧な悪魔回廊の姿を……!」


「うむ、期待しているぞ」


「ハッ!」


 ふぃ~、助かった。

 今後はここが「モード:淫徳」の時には絶対に近寄らないようにしよう。


「うむ、では次に向かうぞ」


 九尾のカラが「ぷ~くすくす」とマンゲを嘲笑あざわらう。

 マンゲはショボ~ンと肩を落とし、可哀想なほどにしょぼくれている。

 そんな二人を引き連れて、元のテレポートの位置へと戻ってきた。


「では主様。次は気分を変えるために、第三階層の暗黒大森林へと向われてはいかがでしょう」


 森林?

 城の中に森林があるのか?

 まぁ、指を鳴らすだけで「モード:淫徳」なんてものに変化するようなところなんだ。

 森林くらいあっても不思議じゃないのかもしれない。

 森で二酸化炭素を補給してリフレッシュってのも悪くなさそうだ。

 ただ……「暗黒」ってのがちょっと気になるけど。


「よし、では第三層へと向うとしよう。……リフト」


 フォン──。


 う~ん、このリフトの合言葉……まだ少し口にするのが気恥ずかしいなぁ……。

 そしてオレたちは光に包まれ──悪魔回廊を後にした。

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