第6話 狐お姉さんと行く魔眼城見学ツアー!

「ここが湯殿でございます」


 着物姿の狐娘「カラ」が艶めかしく告げる。

 ここは魔眼城地下一階に広がる大浴場の入り口。

 外観は完全に日本の銭湯風で、表には暖簾のれんがかけられていて男湯と女湯に分かれている。


「おおっ、我が主っ! 不浄な人間世界のけがれた空気をさっそく洗い落とそうとは、なんたる意識の高さっ! 素晴らしいッ! ぜひこのマンゲエターナルにお背中を流させて、くっ! だっ! さぁいっ!」


 そして、カラと一緒に連れてきたのは、この騒がしいホスト風悪魔マンゲエターナル。

 まるでムーンウォークでもやり出すんじゃないかってくらいに背中を反らせ、冗談とも本気ともとれないおぞましいことを言っている。


 さてさて。

 なぜオレがカラとマンゲを引き連れて大浴場に来ているかというと……。


 魔眼城の中を探索してみたかったから!


 ほら、世界を滅ぼすとかよくわかんないけどさ、とりあえず自分がこれから暮らす家のことくらいは知っておきたいじゃん?

 で、なぜこの二人を連れてきたのかというと……。


 どっちも参謀役っぽいから!


 あと、どっちもオレにすげー陶酔とうすいしてるでしょ?

 だから話を引き出しやすいかなって。

 オレが変なこと口走ったとしても、勝手に勘違いして補完してくれそうじゃん。

 ってことで。

 まず手始めに、魔眼城地下に広がるという大浴場を二人に案内させているのであった。


「マンゲエターナルよ……背中を流す、だと? 貴様は以前、そのようなことをしていたか?」


 なるべく主様の威厳を壊さないように気をつけながら問いかける。

 こういう何気ない会話から、色々情報を引き出していこうって算段だ。

 う~ん、えてる、オレ! イェイ!


「! いえっ……出過ぎたことを申し上げてしまいました、すみませんっ!」


 慌てた様子でソッコーで否定するマンゲ。

 どうやらこいつに背中を流させる必要はないようだ、助かった。


「主様の身の回りお世話は、私の部下『十全』の役目。千騎にはそれぞれに与えられた千の役割がございます。私の役割は内部からしっかりと組織を作り上げること! このマンゲエターナル、これからも主様のために身を粉にして働かせていただきます!」


 ふ~ん、さっきも言ってた『部下』ってそういう感じなんだ?

 それに、どうやらこいつらにはそれぞれ役割が決まってるらしい。

 なら、その役割とやらも把握していかないとだな。

 オレがこの先──主様になりすまして生きていけるように。


「うむ、ではその『十全』にも名をつけたほうがよいのか? 今はまだ骨のままなのだろう?」


 骨にお世話されるってのもゾッとしないし。

 どうせお世話されるんだったら骨より生身の方がいい。


「いやはや、ご冗談を! 未熟な者たちに主様の魔力を与えた日には、そのあまりの強力さに耐えきれず消滅してしまいます! ゆえに、なにとぞご容赦を……! その代わり、私が職務を果たした際に主様よりいただくスキルを通じ、部下たちは肉体を顕現させますので。それまでどうかご勘弁くださいませ」


 へぇ、スキル。

 うん、わからん。

 スキルを「与える」ってのもよくわからん。

 ま、すぐに必要になりそうな情報じゃなさそうだし、今は放置でいいか。


「まぁ~ったくっ!」


 九尾のカラが甘ったる声を張り上げる。


「じゅうぜん……十全ですって? ハッ! 笑っちゃうわぁ! 十人も部下がいなきゃあ、ろくに部隊を管理出来ないだなんて! あぁ、可笑しい! 可笑しすぎて、へそがぷくぷく茶を沸かしちゃうわぁ!」


 ん? 十全ってのは十人なのか?

 え~っと、『終世の千騎』は『煉獄十将』が管理してるわけで……。

 十人の将に、それぞれ百人ずつが部隊として配属される、と。

 で、マンゲを除いたら奴の部隊は残り九十九人。

 さらにその中の『十全』が残りの八十九人を管理してる、と。

 そこで、カラは「お前んとこ中間管理職が多すぎんだろ、バ~カ」って言ってるってことか?

 う~ん、なんだかわかるようなわからんような理屈だ。

 こいつらの中では、なるべく一人で多くの部下を統率できた方が有能ってことなんだろうか。


「なぁにを! この女狐がッ! 貴様の『三尾』など、たかが三匹の獣崩れではないか! 我が十全は、全員が『原初の十大魔物』だぞ! 半魔半獣の半端者とは比べることすらおこがましい!」 


「あぁ!? なんだって!? やるってのかい、この軟弱ふにゃふにゃ野郎が! どうせアソコもふにゃふにゃなんだろ? あ?」


 グゴゴゴ……ときしみ音を上げながら、カラは巨大な狐へと。

 バキバキ……と皮膚を突き破る音を立てながら、マンゲは禍々しい悪魔へと。

 それぞれ姿を変えていく。


(うおっ、こわっ! めっちゃバケモンじゃねぇか、こいつら!)


 巻き添えをくらっちゃかなわん。

 ここはひとつ話題を変えるとしよう。


「こ、この大浴場の湯は、どのようなものなのだ?」


 うおおおおおお!

 とっさに口に出したとはいえ、話題が年寄りくせぇぇぇぇぇ!

 しかし、意外にも二人はこの話題に食いついてきた。


「主様ぁ! はい、この湯殿は私が管理を務めておりますゆえ、いついかなる時にでも、その時の主様のご体調に合うように私が責任を持って調合いたしておりますわぁ! このご案内が終わった後に、ここの地盤と源泉を調べてすぐにご報告いたしますっ!」


 狐耳をぴょこぴょこと動かして嬉しそうにまくしたてるカラ。


「くっ……主様がこんな女狐の風呂に興味を……! 主様っ! 次は私の管理する悪魔の酒場へとご案内いたしますっ! さぁ、早く! それ早く! やれ早く! こんな発情狐の階層にいたら頭にピンク色のモヤがかかって馬鹿になってしまいますっ!」


 へぇ、マンゲは酒場を管理してるのか。

 どうやら、この魔眼城にはそれぞれ十将が管理している区域があるようだ。

 うん……もしかしたらこれは……。


 意外と快適な生活が送れちゃいそうじゃないか?


 ってことで、他の階層もチェックしたいぞ。


「うむ、それも悪くないな」


「さぁ! では、第二階層! 悪魔回廊へと参りましょううう!」


 あ、悪魔回廊?


『根源の悪魔』の管理せし『魔眼城』の『悪魔回廊』


 厨ニがすぎる……!

 しかも……。

 ちょっとかっこいい……!

 う、うん……悪魔回廊……。

 これは行ってみたいぞ……!


「うむ。では、ここへはまた後で訪れるとしよう。今は他の階層も確認しておきたい」


 立ち去ると言われて気落ちするカラ。

 自分の管理地域に向かうってことでウキウキのマンゲ。

 そんな対象的な二人についていくと、周囲の壁三方が凹状にへこんだ場所へとたどり着いた。

 足元には、なんか古代文字的なものが刻まれている。


「ここは……?」


 上に立ってみると、文字が明るく光りだした。


「主様専用のテレポートゲート、どうやら今世でも正常に稼働しているようです! ささっ、主様! どうぞ合言葉をお唱えください!」


 は? 合言葉……?

 そんなもの知らないんだが……?

 え、もしかして……ここでわからなかったら、オレが主様に成りすましてる偽物だとバレてジ・エンドだったりする……?

 オレの脳裏をさっき見たおっかない九尾の狐と根源の悪魔の姿がよぎる。

 やべぇ……一体どうすれば……。


「ささ、主様! 私達に遠慮なさらずにどうぞ!」


「はぁ~主様のテレポート……千年ぶりですわぁ! あの主様の魔力に包まれる感覚……! あぁ、今でも私の体の中に忘れられず刻まれております! はぁはぁ……! あぁ、主様……!」


 二人から期待と興奮を込めた目で見つめられる。


(うぅぅ……! これはもう……イチかバチかでいくしか……!)


 考えられる選択肢は三つ。


 □ 今までに二回なにかが起こった「イェッタイガー」

 □ 上がるといえばオタ芸の「リフト」

 □ ヤケクソでなにかのキーワードが引っかかるまで永遠MIX


 う~ん……。

 上がるといえば……。

 これしか思いつかねぇ……!


「リ……リフト」


 ボソリとその言葉を口にした瞬間。

 オレたちの体は──光に包まれた。

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