第5話 チャペアペカラキナ煉獄十将

 光が収まると、中から肉体を得たらしい九体の魔物が現れた。

 一堂にひざまずいたまま、そいつらは一人ずつ自己紹介を始める。


「我が主! 我らを蘇らせていただいたこと! そして新たな肉体と名を与えてくださったこと! 心よりお詫び申し上げますにゃ!」


 ……にゃ?

 どうやら一番端の小さな猫が喋っているようだ。

 黒と白のハチワレ。

 頭には気取った中世の騎士みたいなツバの長い帽子を被っている。

 正直……。

 かわいぃ~!

 めっちゃかわいい!

 気取った感じの喋る猫ちゃん!

 情緒不安定なホスト風男のマンゲエターナルとは段違いな愛くるしさだ。


「煉獄十将が一人。第一の将、ケットシーのチャペ。部下は一獣いちじゅうを従えておりますにゃ。どうぞよろしくお願いしますにゃ」


 うむうむ~。

 こちらこそよろしくなのにゃ~。

 殺伐としてた魔眼城に現れた猫ちゃんに思わずにんまり~。

 と、にやけていると二人目が話しだした。


「我が主! 再び私をこの世界に蘇らせていただいたこと! 感謝申し上げます!」


 う~ん、口の部分だけ空いた仮面。

 赤毛のロン毛。

 上半身裸の筋肉ムキムキ男。

 なんなんだ、この変態野郎は……。


「煉獄十将が一人。第二の将、イフリートのアペ。部下は双炎そうえんを従えています。この世界を地獄の業火で包んでみせましょう!」


 えぇ……地獄の業火はイヤだなぁ……。

 イフリートって、あれだろ?

 炎の精霊的な。

 大体気性が荒いんだよなぁ、この手のは。

 眉をしかめていると三人目が話しだした。


「我が主、再びお目にかかることが出来て嬉しゅうございます。また、素晴らしき名まで頂き感謝申し上げます」


 おぉ、着物姿のおねぇさん。

 しかもめっっっっちゃくちゃセクシー!

 めっちゃ谷間見えてるじゃん!

 エッッッッッ!


「煉獄十将が一人。第三の将、九尾の狐のカラ。部下は三尾さんびを従えております。謀略、策略、色仕掛け、また肉欲をぶちまけられたい際には、ぜひ声をお掛けくださいませ」


 言ってる内容もエッッッッッッ!

 声も甘ったるくて最高!

 声優やったら絶対天下取れるよ!

 狐耳も尻尾もモフモフでたまらんっ!

 興奮冷めやらぬうちに四人目が話しだした。


「わ、我が主、私なんかを蘇らせていただいて……あの、その……ありがとうございましゅ……あひゃぁ! か、噛んじゃったぁ……! あ、ご、ごめんなしゃ……はぅ……」


 緑色の小柄なドジっ子ロリ娘キタ~!

 猫、えっちなお姉さん、ロリっ子と、この世界も華やかになってきたな!


「えっと……煉獄十将が一人。第四の将、アルラウネのキナです。部下は四天してんっていうのがいます、はい、一応……。後方支援とか、薬草とか、毒薬とか、頑張ります……はい……」


 うむうむ~。

 よいぞよいぞ~。

 ロリっ子なのにスタイルも抜群!

 自信なさげな上目遣いも可愛い!

 なかなかいいじゃないか、煉獄十将!

 と、悦に入っていると五人目が話し始めた。


「……諸々感謝する。煉獄煉獄十将が一人。第五の将、竜人のミョーホントゥスケ。部下は五竜ごりゅう。引きこもっていたいので、用があったらできるだけ部下に直接命令してもらえると助かる」


 頭から短い二本の角を生やした褐色肌の黒髪男が早口でボソボソと喋る。

 引きこもり希望だって。

 まぁ、竜人とかクソ強そうな上に、こいつクソイケメンだから引きこもってくれてた方がいいかもしれない。

 なぜなら、オレがかすむから。

 こんなイケメンに周りをウロウロされてたら、オレの存在感がゼロになっちゃう!

 しかもミョーホントゥスケっていう変な名前だし。

 まぁ、その変な名前つけたのはオレなんだけどね……。

 なんとも言いがたい複雑な思いに駆られていると六人目が話し出した。


「我が主! この日をずっと心待ちにしておりましたぁ! また共に、この世を乱世に陥れましょうぞぉ!」


 腕が六本生えた男。

 うん、そういう暑苦しい系ね。


「煉獄十将が一人! 第六の将、阿修羅のカプサイシン! 部下は六刀ろくとうぉ! ぜひッ、戦いの最前線に投入を!」


 おぉ~、肌も赤いしカプサイシンっぽい。

 これは名前がぴったりハマった気がする。

 なんか争い事が起きたらこいつに任せとけばいいか。

 非常にわかりやすくてよし。

 はい、次。七人目。


「我が主、まずは再びお会いすることの出来た歓喜を。次に、また共に覇を夢見ることの出来る感謝を。そして最後に、主様に対する変わらぬ忠誠を。この名槍グリンゴルの名の元に伝えさせていただきます」


 小脇に頭を抱え、反対側にでっかい槍を持った鎧男。

 うん、これあれだ、知ってる。


「煉獄十将が一人。第七の将、デュラハンのビスマルク。部下は七本槍ななほんやりを従えております。騎士としての栄誉ある戦いで必ず戦果を上げましょう」


 そう、デュラハン。

 頭を抱えてるメリットがよくわからないやつ。

 あれ……っていうか、もしかして……。

 さっき表で空にいた人間軍たちを槍で串刺しにしてたのって、こいつ……?

 ってことは……多分めっちゃ強いよね?

 というか馬に乗って空飛んでたよね?

 う~ん……騎士の信条に反することとかやっちゃって揉めないように気をつけないと……。

 背中に冷や汗たらり。

 続けて八人目が話し始める。


「あぁ、我が主! おしたい申しております、恋い焦がれております! 主様の汗を……いえ、排泄物だろうとなんだろうと構いません! 舐めろとご命令いただければ舌が千切れるまで、永久とわに舐めさせていただきます! 嗚呼、なんでもいたします! お願いです、後生ですから……千年ぶりに主様の体液を……あぁん……!」


 ボンテージ姿のボンキュッボンのエロエロお姉さん。

 なんだろう……オレは今まで特にモテてきた経験とかないんだけど、ここまでグイグイ来られると……なんというか、引く。


「こほんっ」


 なので、ここはひとつ咳払いなんかをして牽制してみる。


「……ハッ! こ、これは大変な失礼を……! どうか……どうかお許しくださいませ主様!」


 頭を床に擦り付けて許しを請うボンテージ女。


「よい、今回だけは大目に見よう。それよりも……再会の挨拶がまだのようだが?」


 ボンテージ女は、青ざめた顔で再びひざまずく。


「ハッ! 煉獄十将が一人。第八の将、始祖ヴァンパイアのマダガスカル。部下は八之牙やのが。夜間に留まらず日中でも活動が可能ゆえ、些事さじでもなんでもお気軽にお申し付けください」


 ヴァンパイア。

 しかも始祖だって。

 これって相当な最強クラスじゃないのか?

 ヴァンパイアなのに日中も活動できるとかチート級では?

 こんなのが第八席的なポジションなの?

 なんかマダガスカルなんて名前にしちゃって罰当たり感すらある。

 あと……あれだな。

 ちょっと変態っぽいところがあるから注意しとかないと怖いな。

 ヴァンパイアに噛まれると吸血鬼になるんだっけ?

 それは勘弁願いたい。

 元の世界に戻った時に、日中の野外フェスに行けなくなるのは困る。

 もしチェキ撮影の時に推しの血なんて吸っちゃったら出禁どころか刑事事件だよ。

 そんなあらぬ妄想を膨らませていると、九人目が話しだした。


「我が主、蘇らせていただいたことに感謝を。そして新たな名にも重ねて感謝を」


 黒いドレスの女。

 頭から被ったレースのローブで目元が隠れている。

 が、そのレースの隙間からはうねうねと無数の蛇が蠢いているのが見える。


「煉獄十将が一人。第九の将、クイーンメデューサのディスティネーション。部下は九蛇くじゃです。どうぞ、今世でもお見知りおきの程を」


 メデューサクイーン。

 なんだかすごそうだ。

 これも第九席なの?

 なんか序列的なものおかしくない?

 たしかメデューサって見たものを石に変えるんだよね?

 だから目をレースで覆って隠してるわけか。

 うっかり見られないよう気をつけないと。

 もし石になったりしたら、もうどこの現場にも行けないじゃん。

 MIXもヲタ芸も打てないし。

 オレのこれまでの楽しみが全て奪われてしまう。

 気をつけよっと。


「主様ァァァァ! 復活の感謝を! 再来の感謝を! 煉獄十将との再会の感謝を! 世界を滅ぼす事のできる感謝をォ! ここにッ! 申し上げまぁすッ!」


 赤いスーツに身を包んだ情緒不安定系ホスト風男──マンゲエターナルが十人目、挨拶の最後を締める。


「煉獄十将が一人ッ! 第十の将、根源の悪魔マンゲエターナル! 部下は十全じゅうぜんです! さぁ、蘇りし十人の将と共に! この世界を滅びへと導きましょうぞ! 我らが主ィ!」


 こ、根源の悪魔ぁ……?

 やだ、めっちゃ強そう……。

 こんなにウザいキャラなのに……。

 マンゲエターナルなんて生き恥と言ってもいいような名前なのに……。

 っていうか、こいつらがさっきから言ってる部下は「◯◯」みたいなのってなんだよ……。

 よくわからん。

 よくわからんが……。


(ううっ……ま、眩しい……!)


 煉獄十将たちが、キラキラとした曇りのない瞳でオレを見上げている。

 オレは、これまでその場のノリだけで生きてきたような人間だ。

 だから、ついついこいつらの期待にも応えたくなってしまう。


「うむ、よくぞ千年の時を超え集ってくれた。嬉しく思うぞ」


 はわわ~! とでもいうような表情で送られる溶けるような熱視線。

 オレはそのキラキラと目を輝かせている煉獄十将に、さらなる見得みえを切る。


「くくく……なぁ、貴様らよ? 今度こそは完遂してやろうではないか! この世界の全ての国家、種族、生物を──蹂躙し、支配し、なぶり殺し、殲滅せよ!」


 うん。

 もう、ノれるものはノッとこう。

 もしオレが主様じゃないってバレたら秒で殺されちゃうわけだし。

 ってことで……完璧に演じきってやるぜ! お前らの主様とやらをな!


 オレの言葉を聞いたケットシーは「にゃーにゃー」と歓声を上げ。

 イフリートは「うぉぉぉぉ!」と吠え。

 九尾の狐はニヤリと笑い体をしならせ。

 アルラウネは「はわわ」と目を白黒させ。

 竜人は無言のままで。

 デュラハンは、なんか槍を掲げ。

 始祖ヴァンパイアは、うっとりと脱力しきって失禁し。

 メデューサクイーンはモゾモゾと太ももをこすり合わせ。

 マンゲエターナルは弓のように体を反り返らせて得体のしれない叫び声を上げていた。


 うん……オレは、これからこの変態軍団を率いていくのか……。

 うん、がんばろ……。

 うん……。

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