第4話 国の名前はワールドカオス

 マンゲエターナルの後について、魔眼城の中へと足を踏み入れていく。


(うへぇ……不気味な門だなぁ……)


 まるで来るものを拒絶するかのような毒々しい色のつたがぐるぐると巻き付いた門。

 おそるおそるそれをくぐる。


(おお……これは……!)


 すると、見えてきたのはかなりの広さの庭園。

 立派な噴水もあるし、石畳もきれいに舗装されてある。

 ただし──。


 グネ……グネグネ…………。


 生えてる植物が明らかに食虫植物!

 っていうか数メートルサイズのものもあるから食人植物?


「なぁ……マンゲエターナル? ここって前からこんな風だったか?」


「ハッ! 千年前と変わらぬ見事な絶景でございます!」


「ふむ、そうか……」


 どうやら魔物にはこれが絶景に見えるらしい。

 オレの目には、気持ちの悪い配色の不気味な巨大植物がウネウネ動いてるようにしか見えないんだが……。

 っていうか、こんな大きな植物の餌って……なんだ?

 たまたま飛んできた虫だけを食べてるってだけじゃ……。


(ま、まさか……)


 そんな考え込むオレの様子を見たマンゲエターナルが、急に花壇に頭をぶつけだした。


「嗚呼ッ! 私としたことがッ!」


「え、ちょっと!? マンゲエターナル!?」


「主様の質問の意図を汲み取れなかったばかりか、主様のお顔まで曇らせてしまうだなんて! このマンゲエターナル、万死にも値する愚行を行ってしまいました!」


 え、なんなのマジで。

 情緒不安定すぎて怖いんだけど。

 やっぱり「マンゲエターナル」なんてふざけた名前をつけたから、こんな子になっちゃったのかな……?


「つまり主様は、こうおっしゃりたかったのですよね!? 『以前は頓挫した世界を滅亡へと導く我らが作戦。此度こたびこそはつつがなく行えそうか?』と! そして、それをこの庭園の様子から判断せよと!」


「う、うむ……」


 わかってる。

 こういう思い込みの激しい人に正論や反論を投げかえしちゃいけないのは経験上わかってる。

 なので適当に話を合わせておくことにする。


「そのとおりだ。よくぞ気がついたな、マンゲエターナル。褒めてつかわそう」


「あぁぁぁぁ! 主様っ! お褒めに預かり光栄至極ッ! そして主様のご質問に答えるのであれば、その答えは! 是っ! 是ッ! 絶対的な是の嵐でございますっ!」


「ふむ……どこを見てそう判断した?」


「はいっ! こちらのゲルセミウム・エレガンスを御覧ください!」


 ゲルセ……?

 見ると、なにやら小さくて可愛い黄色いお花が咲いていた。


(へぇ~……こんなきれいなお花もあったんだ)


 そう思って近づこうとすると。


「この世界最強最悪の毒を持った殺人植物ゲルセミウム・エレガンスですが──」


 うぉい、マジかよっ!

 思わず顔を近づけかけたわ!


「これを上から見ると……」


 destruction。


 そう読めるように並んで咲いている。


「ディストゥラクション! 滅亡! そう、こんな小さな植物でさえ、この世界の滅亡をすでに確信しているのです! それほどまでに我々と魔眼城を蘇らせた主様の魔力は圧倒的ということっ! もはや千年前の失敗など恐れるに足らず! 我々の向かうところまさに敵なし! で、ございますっ!」


「うむ……及第点、としておこう。マンゲエターナルよ、これからも貴様の『一を聞いて十を知る』その機知に期待しているぞ」


「ハッ! ありがたき幸せっ!」


 うん……バカなのかな?

 お花が「destruction」と咲く?

 だから世界の滅亡が確定?

 ちょっと何言ってるかわかんないですね……。

 はぁ……。

 とりあえず、どっかで一息つきたいな……。

 もう、魔眼城の中とかでもいいからさ。

 これ以上の会話は一旦ノー。

 私、疲れました。

 座ってお茶でも飲みたい。

 実家の安い緑茶が恋しいよ。


 トコトコトコ。


 どうやらこっちから話しかけなければ、マンゲエターナルの方から話しかけてくることはないらしい。

 こいつと会話は面倒なので黙ったままついていくことにする。

 食人植物や食人木、明らかに意思を持って動いている毒水の噴水のを横を通り過ぎて庭園を抜けると、そこにはまるで中華ドラマのような巨大な石段が広がっていた。


(おぉ~、なんか映画のセットみたいだ)


 そんなことを思いながら石段を途中まで登っていく。


(ふぅ……)


 何気なく振り返ってみる。

 後ろからは膨大な数のガイコツたちが一列になってついてきている。


(うお~、こっからだとよく見えるな。しかしすごい数だな、このガイコツたち。一体どんくらいだ? Zepp東京のスタンディングフロア埋まるくらい? 千人、いや千匹……千骨くらい? そういや、こいつらって最初に『終世しゅうせい千騎せんき』とかなんとか言ってたような……)


 そんなことを考えていると、いつの間にか石段を上りきっていた。

 目の前にはだだっ広い如何いかにも『謁見えっけんの間』といった空間が広がっており、その最奥には禍々まがまがしさ満点の玉座が鎮座ましましている。


「さぁ、我が主! ご帰還を果たされてください!」


 あの玉座に座れ……ってことかな?


「うむ」


 まぁ、いいや。

 ちょうど一息つきたかったし。

 玉座まで続く真っ赤な絨毯の上を歩いていく。

 天井が高い。

 吹き抜けになっているようで上空から光が射している。

 異様に高い背もたれ。

 いかにも悪の王が座りそうな玉座。

 そこにゆっくりと腰を下ろす。

 うん……座り心地は悪くないな。

 前を向くと、遥か遠くまでをまっすぐに見渡すことが出来た。

 おっ、なかなか壮観な眺めだぞ。


「では、我が主。改めて今世に根を張りし我らが支配領域に名前をお付けください!」


 名前?

 支配領域?

 要するにここをオレたちの国だって主張するってことか?

 国……国ねぇ。

 っていうかさぁ……。

 なんだよマジでこの世界……。

 なにからなにまでほんっとわけがわかんねぇ……。

 なんつーか、もう……そうだな、言うなれば……。


「……ワールドカオス」


 ぼそっと呟いたオレのその言葉を、マンゲエターナルは聞き逃さなかった。


「おおっ! ワールドカオス! なんという素晴らしい名前でしょう! まさにこれから世界を混沌の渦に落とす我らにぴったりの名前!」


 え……?

 ちょ、ちが……!

 それただの独り言なんだけど……。

 え、それが国名になっちゃうの?

 ワールドカオスが?

 ここ……ワールドカオス国?

 やだ、なにそれ、シュール。


「なぁ、マンゲエターナル?」


「はぃぃ! なんでございましょう、我が主ぃ!」


「えっと……」


 マンゲエターナルの歓喜極まってヨダレまで垂らしてるさまを前に、オレはそれ以上ワールドカオスについて触れるのがなんとなくはばかられた。


「これから私が最初にするべきこと……貴様ならどう考える?」


 なんとなく話変えちゃった!

 しかもなんか漠然とした質問しちゃったよ!


「そう……ですねぇ……」


 少し考え込んだ後、マンゲエターナルはパチンと指を鳴らした。

 すると、マンゲエターナルの背後にいた九体のガイコツが前へと歩み出てくる。


「我ら終世の千騎。それを統率せし十人の部隊長『煉獄の十将』。私以外の残りの九将の肉体を顕現するのが最優かと」


 カシャン。


 骨たちがひざまずく。


「ふむ、肉体を顕現……たしか、名前をつければよいのだったな?」


「ハッ」


「では……」


 今度は九人分の名前を命名かぁ~。

 なんだろうなぁ……。

 マンゲエターナルはちょっと失敗した感があるからなぁ~。

 う~ん……人数多いとさらに難しいな……。

 んんんんん~~~~~……思いつかん!


 ふと眼下に目をやると、マンゲエターナルが期待を込めた陶酔の眼差しを向けているのが見えた。


 う~ん……この飼い主に全幅の信頼を置いた柴犬のような表情……。

 はぁ……なんか力抜けるな……。

 うん、なんかもういいや、適当で。


「では、左からチャペ、アペ、カラ、キナ、ミョーホントゥスケ、え~っとそれから……カプサイシン、ビスマルク……ディスティネーション……マダガスカル! よし、これで九人!」


 思いつくままMIXのワードを並べていく。

 大丈夫かな?

 特にミョーホントゥスケとか。

 まぁ、なんとかなるんじゃないかな。

 ……多分。


 ピカッ──!


 魔眼城の玉座の間。

 そこで、チャペアペカラキナミョーホントゥスケたちの体が激しい光に包まれた。

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