第3話 飛びます、勇者の首!

 マンゲエターナルは両手を天に掲げ、ねっとりボイスを周囲に響かせる。


「さすがは我らが偉大なる主ッ! この世界の核と繋がりし魔眼城まがんじょうが見事に蘇りましたァ!」


 お、おう……。

 オレは、ただ「イェッタイガー」って言っただけなんだけどな。


「ささ、主様! どうぞ、魔眼城へとご帰還を果たされてくださいっ!」


「う、うむ……」


 周囲をガイコツに囲まれたオレは、仕方なく城の方へと歩いていく。


 ガシャン、ガシャン。


 骨の音を鳴らしながら、大小様々な無数のガイコツたちも一緒に歩き出す。


(こりゃ、ネズミ一匹たりとも逃げ出す隙はなさそうだなぁ)


 にしても──。


(どんっな趣味だよ、この外観!)


 魔眼城。

 城というよりピラミッド。

 しかも壁という壁に無数の『目』が描いてある。

 趣味わるっ!

 見るからに不気味で不穏!

 こんなとこに入りたくないんですけど!?

 それでもガイコツに囲まれたオレには進むしか道がない。


(くっそ~、絶対隙を見て逃げ出してやるんだからな!)


 そう心の中で誓った、瞬間。


 ガラッ──!


 めくれ上がった地面の中から「ぬっ!」っと手が伸びてくる。


「うぇぇっ!?」


 さらに、その手は「ガッ!」っとオレの足首を掴んだ。


「うぉおっ、マジかよっ!?」


 ガララッ……。


 瓦礫を払い、手の主が地面の下から体を現す。


(あれ、こいつって……)


「くそっ……! 皆の加護がなければ、きっとオレの肉体もたなかった……!」


 勇者じゃん。

 あの、ツンデレエルフとか酒飲みドワーフとかに慕われてた。

 人間軍のリーダー的存在の。

 生き残ってたんだ。

 たぶん、勇者ってことは……強いよな?

 もし今ここでこいつについていけば、ワンチャンここから逃げ出す機会もあるんじゃ……!

 よ~し、勇者頑張れ! 超頑張れ!

 と、オレは心の中で勇者を応援する。


「一体……貴様は何者なんだ!? 我ら人類軍と魔軍を一瞬で壊滅させた貴様はッ!」


 ……へ? オレ?

 これ、オレに矛先が向かっちゃってる?

 いやいや! あんたらを壊滅させたのって、このガイコツ共じゃ~ん!

 オレは、ただ「イェッタイガー」って叫んだだけじゃ~ん!

 無実! オレは全く無実! 無関係の異世界人だから!

 

「この世界のために、貴様だけは……今ここでほうむるッ!」


 キィィィィィィィン──!


 勇者の構えた剣に、ただごとならぬ神々しいオーラが集まっていく。


「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 ピカリーン!


 空の雲の間から剣に注がれる一筋の光。


「皆が集めてくれた世界の力……まさかこんなところで使うことになるとはな……。だが、ここに新たに現れた未知の脅威! 必ず打ち倒してみせる! 食らうがいい! 神より与えられし伝説の聖剣イカスカリバーンの最終秘技! 天裂け、地裂け、星砕けっ! ギャラクシアエクスプロ……」


「いや、ちょっとっ! ごか……」


 誤解だって。

 そう言おうとした瞬間。


 ビュルっ!


 マンゲエターナルの腕が鞭のように伸び──。


「くさい」


 ガッ!


 先端が巨大ハンマーへと形を変えたマンゲエターナルの拳。

 それが、しなりをつけて勇者の頭に真横から激突する。


 ブチッ。


 ヒュ~ン。


 キラ~ン!


 勇者の頭は無情にも体から引きちぎられ、遠いお空の彼方に飛んでいってしまった。


(………………は?)


「嗚呼ッ! 下等生物の臭い息を我らが主に吐きかけるとはッ! なんったる無礼!  身の程をわきまえよっ! 塵芥ちりあくたほどの価値もないゴミムシがァ゙!」


 まるで歩いてる途中で見つけた虫を踏み潰しでもしたかのような。

 それくらいの感覚で、ふきふきと拳をハンカチで拭いているマンゲエターナル。


(……は? 勇者でしょ? 人類の希望でしょ……? それをこんな……マジでなんなんだよこいつら! マジで逃げ出す隙ゼロじゃねぇか!)


「ささ、主様! くだらぬゴミは私が責任を持って排除いたしました! 今度こそどうぞ、我らが城へとご帰還ください!」


 ああ~……そうかい、そうかい……。

 ハハッ……わかった……わかったよ。

 勇者ですら一撃で殺すような化け物ども。

 そんな奴らから逃げ出すことが「不可能」ってことがな。

 なら──腹決めてやってやろうじゃねぇか。

 その「我らが主」とやらのロールプレイングをよ!

 このオレの現代に生きたオタク知識を総動員して!

 そんで、なんやかんや生き延びて元の世界に戻る方法を見つけてやる!

 そして!

 推しのアイドルグループ『Jang Color』のライブの続きを見るんだぁぁぁ!

 さぁ……となればさっそく「主様」ロールプレイの始まりだ。

 偉そうな感じで振る舞えばいいんだろ?


「うむ、では先を案内せよ、マンゲエターナル!」


「ハッ!」


 命令されたのが嬉しいのか、マンゲエターナルは湧き出る笑みを隠しきれない様子でひざまく。

 よしよし、どうやら出だしは順調みたいだ。

 見てろよ、振り切ったオタクは強いからな?

 調子に乗ったオレはさらに続ける。


「皆のもの! これより我らは魔眼城へと帰還する! ときの声をあげよ! この世界に滅びの刻が来たことを知らしめるのだ!」


『オォォォォォォォォォォォォォオオオオオオ!』


 さぁ、ガイコツ軍団を率いたオレの異世界ライフの始まりだ!

 待ってろよ! まだ見ぬ異世界!

 そして、待っててよ! 現実世界のオレの推し!

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