第2話 お前の名前はマンゲエターナル

「うぉいっ!? なんだよ、これぇ!?」


 めくれた地面の下から出てきた死霊の軍団。

 死霊って言ったらちょっとわかりにくいけど、要するにガイコツの軍団。

 それがドガァっとめくれた地面の下から湧いて出た。


(おいおいおい、勘弁してくれよ! 左から人間軍! 右から魔物! 今度は下からガイコツかよ!)


 そう思って左右を見渡して──気がついた。


「あれ……? 人間軍と魔物は……?」


 あれだけ騒がしかった両軍がいない。


「は? まさか……」


 ガラッ……。


 足元の小さな石ころが、めくれた地中へと転がり落ちていく。


「全員地面に飲まれた……ってこと?」


 え~っと……地面がめくれ上がってないのは、オレの立っているとこだけ。

 それ以外は、見渡す限り遥か遠ぉ~くの方まで一面の荒野と化している。


「なんだよこれ……まさかオレだけ奇跡的に助かったってのか? おいおい、それ一体どんな確率だよ……」


 とはいえ、とはいえだよ?

 一命をとりとめたとはいえ、今度はガイコツの集団に囲まれちゃってるわけで……。

 要するに、相変わらず絶体絶命の危機なわけで。


(そうだ、たしか空を飛んでた魔物や人間軍もいたはず……! そいつらに頼んでワンチャンこっから脱出ってことも……!)


 バッ!


 そう思って上空を見上げる。


 ガ~ン……。


「マ、マジかよ……」


 そこで目にしたのは。

 くっちゃくっちゃと飛んでた生き物たちを咀嚼そしゃくしている巨大な龍のガイコツ。

 そして、巨大なカマの先に無数の生物を串刺しにして「ケケケ……」と笑っている浮遊する巨大ガイコツ。

 さらに、ガイコツ馬に乗って空を飛び回り、槍で人間や魔物を突き刺しにしてるガイコツ騎士。


(ぜ、全滅……!)


 すぐに理解できた。

 こいつら……骨のくせにやべぇ!

 人類と魔物によって繰り広げられようとしてた関ヶ原の戦いっぽいやつ。

 それを一瞬で滅ぼすとかヤバすぎィ!


 ギロリ……。


 その骨どもが、一斉にオレの方へと顔を向ける。


「うぅ……!」


 ザッ、ザッ……。


 ゆっくりと、一歩一歩、骨たちはオレの方に詰め寄ってくる。


(いか〜ん! さっきより逃げ場なしじゃん! 状況悪化してるじゃん! あか~ん! 今度こそ本当に終わったぁ〜〜〜!)


 そう思って頭を抱えていると──。


 ガッ!


 突如ガイコツたちは、オレの前に一斉にひざまずいた。 


「……は?」


 オレの頭の中に声が響く。


「お待ちしておりました、我らがあるじ!」


「は? へ……? ある……じ?」


「ハッ、我ら『終世しゅうせい千騎せんき』! 封印を解かれる日をこの千年間、ずっと地中で心待ちにしておりました!」


「お、おう……」


 この骨たち、終世の千騎らしい。

 なんかわからんけど、そう言ってる。

 で、その千騎さん。

 なぜだか知らんが、オレの前にひざまずいてオレのことを『主』と呼んでいる。

 要するに──。


 人違いっ!


 人違いだけど、とりあえず一旦命拾いしたことには違いない。

 出来ることなら、この勘違いに紛れて逃げ出したいところだが……。


「あのさぁ、今オレに話しかけてるの誰? っていうかどうやって話しかけてるの?」


「ハッ、恐れながら『念話』をもって言葉をかけさせていただいております」


 先頭でひざまずく細身の骨が顔を上げる。


「あっそ。念話……念話ねぇ……。あのさ、これ気持ち悪いからやめてくれない? 頭の中に直接話しかけられるのってシンプルに不快だし」


 それに。

 なんかこっちの考えてることも読み取られそうじゃない、念話?

 もし読み取られたらさ、オレが逃げる気満々なこともバレちゃうじゃん。


「こ、これは失礼いたしました……! 私としたことが……! あぁ、主様に対してなんという非礼っ! くっ、一体どうやってつぐなえばよいものか……! そうだ! 今から腹かっさばいて……」


「いや、いいから。っていうかやめて? その念話をさ、ね?」


 まずは念話とやらをやめさせよう。

 なんか気色悪いし。


「ハッ、では恐れながら申し上げさせていただきます。大変厚かましい申し出ではございますが、私に『名前』を付けていただければ肉声で話せるようになるかと」


「名前? そんなのでいいの?」


「ハッ」


 ガイコツは、頭を下げたままこれ以上ないくらいに平伏している。


「ん~、そうだなぁ~……じゃあ、お前の名前はぁ~……」


 名前?

 なんも思い浮かばないんだが?

 う~ん……適当にMIXのワードから取るかぁ。


「マンゲエターナルで」


「マンゲ……エターナル……?」


 あ、ヤバ。

 適当に付けちゃったけど、さすがにふざけすぎてたか?

 普通マンゲは怒るよな、うん。

 そう思ってると、マンゲエターナル(仮)の体が激しい光に包まれ、蒸気を吹き上げ始めた。


「うおっ! ちょ、怒りすぎだろ、ヤバっ! ごめんて!」


 プシュゥゥゥゥゥゥ。


 次第に蒸気が収まっていく。


「え?」


 蒸気の中から現れのは──頭から角を生やした超美形の、イケメン男子。

 ホストのような赤い細身のスーツを着ている。


「主様ッ!」


 イケメンが叫ぶ。


「うおっ! そんなに怒らなくても……」


「ありがどうございまぁぁぁぁず!」


「え……? は?」


 イケメンは両膝を地面につくとオレの手を握り、大粒の涙をボロボロと地面にこぼし始めた。


「こんな……素晴らしい名前を戴けるだなんてっ! 光栄至極! 歓喜千般! ああっ、このマンゲエターナル! 今からまた千年の眠りについたとしても、なんの心残りもございませんッ!」


「お、おう……」


 めっちゃ感激されてる。

 でもマンゲでこんなに感激されたんじゃ、さすがにちょっと気が引ける。


「え、でもマンゲ……だよ? いいの? マンゲで」


「ええっ! 万華まんげとは数多く咲き誇る花。そして永遠エターナル。つまりは主様のお側で永遠に咲き続ける無限の花という意味と理解しました! これ以上ない栄誉でございます! 主様! 私は一生、この名の通り貴方のお側で咲き誇ることをお誓いたしますっ!」


「お、おう……頼りにしてるぞ……マ、マンゲエターナル……」


「はいぃ!」


 恍惚とした表情で空に向かって大声で叫ぶマンゲエターナル。

 太陽の加減なのかイケメンのオーラなのか、顔の周りがキラキラと輝いている。


(うおっ……めっちゃ陶酔してんじゃん。にしても、ヤバいな……。もし、こんな盲信してるハイテンションの奴に、オレが「主様」じゃないってことがバレたら……)


 ちょっと「さぐり」を入れてみることにする。


「ところで、マンゲエターナル? オレはこれから先、一体『何から手を付けるべき』だと考える?」


「ハッ……! 主様……! 私をお試しになっていらっしゃるのですね……! 私が、あまりにも矮小で! 愚かで! くだらない生き物だからっ! 本当に貴方様に仕える価値があるのだろうかとッ! そうお思いなのですねっ!?」


 おいおい、今度は自分を過小評価し始めたぞ。

 感情の浮き沈みが激しすぎるだろ、こいつ。


「うむ、その通りだ。貴様はどう考える? マンゲエターナルよ」


 とりあえずノっておくことにする。

 まずは情報収集して逃げる隙を見つけなきゃ。


「ならば主様! やるべきことは一つ! さぁ、後ろをご覧ください!」


 後ろ?

 振り向いたが何もない。

 めくれ上がった地面がどこまでも広がってるだけ。


「では、主様! 我らの封印を解いた禁忌のお言葉をもう一度お聞かせください! このっ! 滅びゆく世界にィ!」


 禁忌の言葉?

 よくわからんけど、思い当たるのはこれしかない。

 死ぬ前にもう一回言えるってんなら言ってやろう。

 オレは拳を振り上げ、魂の叫びを荒野に響かせる。



「イェッタイガァァァァァァァァ!」



 ズドドドドドドドドドド……!


 すると、今度は地中から。


 え? は? なんか……。


 城が湧き上がってきたんだけど!?



──────────

【あとがき】

 二話まで読んでいただいてありがとうございます。

 次から毎日一話ずつ更新していきます。

 ☆☆☆やレビュー、各話ごとの❤などいただけたら大変励みになります。

 この先も「オタ芸師」家虎くんの活躍をお楽しみに!

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