異世界の禁忌の魔法がすべてオタ芸用語でした。オレにしか使えないオタ芸魔法で闇の城主として魔法無双だぜ! と思いきや、あまりにもこの世界がクソすぎたので最強部下1000体で滅ぼすことにします

祝井愛出汰

第1話 イェッタイガーで終わる世界

 オレの名前は村崎家虎むらさきいえとら、二十三歳。

 世間からダサいとバカにされている三流デザイン学校を落第ギリギリで卒業後、な~んの仕事にも就けなかったので学生時代から続けてる建設業の日雇いバイトで食いつないでる、いわゆる「その日暮らしマン」だ。

 そんなオレの唯一の楽しみは、地下アイドルや声優のライブで『MIX(※注 よくオタクが「ジャージャー」とか叫んでるやつ)』を入れること。


 そしてオレは今、その楽しさを全身で味わってる。

 なぜなら!

 新進気鋭のくっそイケてるアイドルグループ『Jang Color』のライブの最前でマサイ(※注 ピョンピョン飛び跳ねること)しながら「イェッタイガー(※注 色んなMIXとかで使われる叫び声)」をキメてるところだから!

 ああ、オタク最高!

 オタクに生まれてよかった!

 オレは今、最高に生きてるっ!

 よっしゃ、もう一発続けてキメてやるぜ!


「イェッタ──」


「こらっ! なにやってるんだ!」


 ガッ!


 ドサッ!


 チ~ン。


 オレは死んだ。

 マサイで飛んでるところを警備スタッフに掴まれてバランス崩して頭から着地して首ゴキ。

 チ~ンです。

 マサイ禁止なライブなのをうっかり忘れてた。

 はぁ~、そっか~、とうとうオレ死んだか~。

 死んだのはまぁ自己責任なんで仕方ないとしても、せめて言いかけてた「イェッタイガー」だけは最後まで言いたかったな~。

 っていうか……。

 今、この反省会みたいなのをしてる時間って、なに?

 そう思った瞬間。

 視界がパッと開けた。



 ◆



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ドドドドドドドドドッ!


 激しい土埃を上げながら走ってくる甲冑姿の集団。

 なんか馬に乗ってるのとか、空飛ぶ恐竜みたいなのに乗ってるのもいる。


「はぁぁぁぁぁぁっ!? なんっだよこれぇ!?」


 迫力ヤバい。

 そして土埃がケムい。

 つーか、甲冑マンの数が多すぎて地鳴りヤバすぎ。

 すると、反対側からも声が聞こえてきた。


「グギャギャギャギャ~! ここが天王山だァ! 人間どもをひとり残らずぶち殺せェ!」


 おいおい、なんだよ人間どもをぶち殺せって。

 それじゃまるで言ってるのが人間じゃないみたいじゃないか……って。


 くるり。


 振り向いたオレは真顔になる。


 え、あっ、うん……。

 人間じゃ……ないね。


 オタクだからわかる。

 ミノタウロスとか、なんかガーゴイル的なやつとか、とりあえずなんか魔物。

 それがブワァ~っていっぱいいる。

 巨人とかもいる。進撃してきてる。

 こっちに向かって。

 さらに甲冑マンたちの話し声が聞こえてきた。


「みんな! よく集まってくれた! これだけの大陸のツワモノが手を取り合ったのだ! 必ず悪を打ち倒せる!」

「ああ、当然だ! まさかオレらが手を結ぶことになるとは夢にも思わなかったぜ!」

「まさに夢の人類大連合軍ですね! 最初は誰も信じてませんでしたよ、あなたがこんな壮大な夢物語を提案した時はね!」

「でも、それを実現しちゃうところがさすが勇者って感じ! ったく……ほんとにカッコいいんだから……」

「ウヒョヒョ! この戦いが終わったら美味い酒でもおごってもらわねば気が済まぬのう!」


 えぇ~、なんか「勇者」とか言ってるし。

 なんか勇者のこと好きそうなエルフがツンデレしてるし。

 典型的な酒飲みドワーフとかもいるしさ。

 しかも人類大連合軍らしい。

 こいつらめっちゃ冒険しまくって、世界中渡り歩いて、同盟結んでんじゃん。

 めっちゃ絆深まってるじゃん。

 もうクライマックスじゃん。

 それがこっちに向かってきてんじゃん。


「ギャハハハ! ここで勇者を殺せば幹部入り間違いなしだぞォッ!」

「殺せッ、犯せッ、なじれッ、ほふれッ! 人間どもに地獄を見せてやれェッ!」

「勇者ァ! てめぇにつけられた傷が痛むぜェ!」

「勇者……貴様との因縁、今ここで決着をつける……!」

「くっ……! 私の心は一度は勇者に囚われたというのに──結局、どちらかが死ななければ幕は引けぬということか……!」

「キャハハっ! ねぇ、あいつ殺していい? 殺しちゃっていいの?」

「おで、お腹すいた」

「この日のために魔王様から授けられし新たな力……今ここに顕現けんげん!」


 魔物側も魔物側でなんかドラマ描いちゃってるじゃ〜ん。

 しかもなんか因縁抱えてるやつ微妙に多いじゃ~ん。

 なにかを顕現してるやつまでいるしさぁ。

 で、その因縁抱えた魔物軍団もこっちに向かってきてるし。


「むっ……なんだ、あいつは?」

「グギギ……? なにか動くもの、発見……」


 人間軍と魔物軍が同時にオレに気づく。


「おぉ~い! ストップ! ストォォ~ップ! 人でぇ~す! 無関係な人がここにいまぁ~す! あ、多分オレ異世界人でぇ~す! 今、転生──転移? してきたてのホヤホヤな異世界人がここにいまぁ~す!」


 ブンブンと両手を振ってアピールする。

 が、両陣営の勢いは止まらない。


「あの怪しげな格好! きっと人に擬態した魔物に違いありませんぞ!」

「キシシ、わらわの遠見の術で見る限り、あれは妖怪あやかしたぐい。敵軍の罠でありましょう」

「そもそも人類で今日の戦いを知らぬものなどおらぬっ! よってあれは敵に違いない!」

「あのブサイクさ……完全に魔物ね! へったくそな擬態しやがって! 私の弓で始末してやる!」

「いえいえ、わたくしの雷術で」

「投石機、使う!?」

「陰陽術もありますぞい」

「幻獣の用意、オーケーだよっ!」


 おいおい、めちゃめちゃ敵認定されてるじゃね~か!

 人類軍、マジふざけんなよ!

 と怒ってはみたものの。

 今、自分の格好を冷静に見て思った。


「あ、こりゃ敵認定もされるわ」って。


 だって。


 ライブで目立つことだけを考えて染めた紫色のロン毛!

 蛍光色のピカピカブルゾン&スウェット!

 馬鹿みたいに派手な厚底スニーカー!

 腰からは『Jang Color』のロゴが入ったタオルが腰みのみたいに垂れてる!

 しかもメンバーカラー全員分!


 あのさぁ!

 こんなのがさぁ!

 異世界にいたらさぁ!

 討伐対象でしょ、間違いなく!

 あぁ、くそっ!

 張り切ってイキった格好してきたってだけで即終了かよ、オレの異世界転移!

 あぁ~! じゃあ、どうする!?

 こうなったらもう魔物側にでもつくか!?


「グギャギャギャ! 人だ、殺せ殺せェ~!」


 って、こっちもシンプルに殺しに来てるし!


 ドドドドドドド!

 スドドドドドド!


 スピードを上げて押し寄せてくる両軍。

 空からは矢が、投石が、雷が、護符が、火が、水が、闇が、光が、一斉にオレ目掛けて飛んできている。

 うおおおおおお、終わった!

 オレの異世界転移、完ッ!

 ああ~~! わかったよ、こんちくしょう!

 それならそれで、オレは前世で叫びそこねたこれを言って終わってやんよ!

 聞け、異世界っ!

 オレの魂の叫びをッ!


 すぅぅぅぅぅぅぅぅ!


 オレは思いっきり息を吸い込むと、天に向かって拳を突き上げた。



「イェッタイガァァァァァァァーーーーーー!」



 ピタっ。


 空気の止まった音がした。

 直後。



 ガゴッ……ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!



 オレを中心に地面がめくれ上がると、その土の中から無数の死霊が現れて──。


 この世界は。


 終わった。



──────────



【あとがき】

 ここまで読んでいただいてありがとうございます!

 皆様の日々の空き時間などにクスッと笑いを提供できるような内容を提供できればと思っています!

 主人公がヒロインとうのは12話です!

 うん、ちょっと先ですね!

 でも、そのあたりめっちゃ面白く盛り上がってるので、どうかそのあたりまで読み進めてくれたら嬉しいです!

 ぜひ、今後とも「オタ芸師」村崎家虎の快進撃をお楽しみください!

 では、せ~の……『イェッタイガーーーー!(☆☆☆とハートくださ~い!)』

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