第34話 首謀者
蓋を開けてみると、王宮内部の警備はお粗末なもので、あっさりと制圧することができた。
国王夫妻、王太子夫妻は何事もなく無事救出された。
健康状態も良い。
ベリー伯爵から借りてきた騎士たちが素晴らしい働きをしたが、もしも国王夫妻が傷つけられてしまっては、元も子もない。
アレンが敵を一手に引き付けてくれたのが大きかった。
*****
一方ファルコの父親も、兵たちに床に取り押さえられていた。
国王夫妻と王太子夫妻が救い出されたという報告と同時に突入したファルコは、兵たちに抑えつけられる父親の姿を複雑な心境で眺めたていた。
「ファルコ!!!!この裏切り者め!!私が王になれば次はお前を王にしてやろうと思っていたが、止めだ!!親子の縁を切るぞ!!」
地面に押さえつけられながらファルコを見つけたブルクハルトが脅すように怒鳴る。
子どもの頃は、この声に逆らうことなど考えられなかった。
「・・・まだそんな事を言っているのですか父上。クーデターを起こすということの重要性を何も分かっておられないようだ。このような事を起こして、親子の縁も何もない。貴方も私も処刑されることでしょう。」
ファルコは既に覚悟をしていた。
国王夫妻と王太子夫妻を捕らえた王弟と、その息子がどうなるのかを。
「なんだって!!そんな事!!私は王弟だぞ。処刑などあるはずがない」
「王夫妻と王太子夫妻を処刑しようとしておいて、何を言っているのですか。」
「違う!!!私は騙されたのだ。隣国の奴に、私を王にすると。私こそ王に相応しいと。私はそんなことまで考えていたわけではない!!」
「法廷でそう証言されればどうですか。唆されただけだとね。証拠が残っていると良いですね。・・・・どちらにしろ処刑は免れないでしょうが。」
「ファルコ様、申し訳ございません。調査にご協力いただくため、ご同行願います。」
「・・・・分かっている。」
クーデターの首謀者である王弟の嫡子だ。
取り調べるのは当然のこと。
ファルコと一緒に来ていた王宮の警備兵たちが、気まずそうにファルコに声を掛けた。
分かっていた事だ。
国王夫妻と王太子夫妻が救われて、ブルクハルトを捕らえたら、ファルコも捕らえられる。
ファルコも素直に、腕を差し出したが、その腕に縄を巻く者はいなかった。
ただブルクハルトと共に、貴賓牢に案内されただけだった。
「ファルコ!!君が無関係なのは分かっている。絶対に悪いようにはさせない。」
「覚悟はできているよミハイル。クーデターを起こした者の嫡子を生かしていては後に禍根を残すだろう。それに父親を止める事が出来なかったのは、私の罪でもある。」
途中の道で、ミハイルとすれ違う。
子どもの頃は憎くて仕方がなかった従兄の姿を、処刑される前に見れて、嬉しいと感じたファルコだった。
――――あとあいつにも、最後にあっておきたかったな。
*****
「国王夫妻、王太子夫妻、救出されました!ご無事です!!」
レノックスの屋敷に王宮から一目散で掛けてきた伝令の一報。
「・・・・・・・・・よし!やるぞ。」
待っていましたとばかりにベリー伯爵とウィズダム侯爵が立ち上がった。
対してレノックス侯爵とルクセン侯爵は呑気に「気を付けてなー」などと言って見送る。
適材適所というものだ。
そうして、王都を占領する民衆たちは、あっという間に鎮圧された。
手加減をする余裕すらある、一方的な鎮圧劇だったという。
大人と子供どころではない。ゾウとアリのような戦力差だった。
所詮は素人の集まり。
あっけないものだ。
*****
―――革命軍の完全鎮圧の報が入るとほぼ同時に、レノックス家にある訪問者が現れた。
「あの、アレクセイ様。元奥様が、旦那様に会いたいと訪ねてきておりますが・・・・・・。」
「追い返せ。」
即指示したのはイヴァンである。
「いやイヴァン様。お気持ちは分かりますが、野放しにする訳にもいきませんから。」
冷静なツッコミをいれるユーグ。
皆追い返したいのは山々であるが、革命軍リーダーに近い人物・・・というかあの強烈な女を、世に野放しにできないだろう。
「アレクセイ!会いたかったわ。私はあの後、酷い目に遭ったの。あの男には従わされているだけ。あなたにずっとずっと会いたかった。」
約9年ぶりのダリアは、以前と変わらぬ美貌だった。
しかし装いは若いがよく見れば髪も肌も荒れているし、顔も皺が隠しきれていない。
そして内面の醜さがにじみ出ていた。
「私たち、愛し合っていたのに王家に引き離されてしまったわよね?貴方に会いたくてここまで来たの。これからはずっと一緒よ。あなたはこれから何も考えず、何の心配もしなくて良いの。」
絶対に会うなと言う周囲を振り切って、ノコノコとダリアを見に行ってしまったアレクセイに、言い聞かせるように優しく、ダリヤは語り掛けた。
腐っても侯爵。止められる者はいない。
唯一同格であるルクセン侯爵は、ダリヤに近づくアレクセイを、興味深そうに見ているだけで止めなかった。
「父上、止めないのですか。」
「これでまた騙されるようなら、もう侯爵領を任せておけないだろ。早々に引退に追い込んでナタリー嬢とミハイル殿下にお任せした方が世のためだ。」
ボーっとダリアを眺めるアレクセイ。
何を考えているのか見た目からは分からない。このまままた、ダリヤの言いなりになってしまうのか。」
と、その時。
「何してるんだアレクセイ!さっさとそのアホ女捕らえろ!」
イヴァンからの指示がとぶ。
この9年間聞きなれた声に、ハッと夢から覚めたように、目を見開くアレクセイ。
「あ、うん。捕まえておけ。」
条件反射で出されたその指示に、レノックス家の護衛があっさりと、あっけなくダリアを拘束する。
「なんで!どうしてアレクセイ。私たちあれだけ愛し合っていたじゃない。」
「・・・・不思議だね。君の事を愛していると思っていた。見捨てられたくない、私には君しかいないと。・・・・でも今はどうしてそんな風に思っていたのか、全然分からない。よく考えたら前から別に、君のことをそんなに好きではなかった気がする・・・・。」
――――ダメだこの男、ダメ過ぎる!!!
ナタリーを始め、様子をうかがっていた全員の心が一つになった瞬間だった。
「何よそれふざけんなぁぁーーーーーーーー!!!お前なんか!お前なんか私がいないと何もできないくせに!!!!一緒にいてやるといっているのよ!!」
「私は君がいなくても、もう大丈夫なんだ。」
周囲の呆れた視線に気が付かず、堂々と、自信をもって答えるアレクセイ。
「イヴァンに聞けば良いからね。」
「・・・・お前いいのかよ、それ。ウソでも一人でやっていけるって言えよ。」
「・・・・ナタリー。早く侯爵領継げるように、頑張ってね。」
「・・・・頑張ります。」
心底心配してくれる様子のユーグに、しみじみ、しみじみと答えたナタリーだった。
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