第29話 正義の革命

 2日後の10時、全員が無事にかささぎ亭に集まることができた。


 馬車でゆっくり行って3日の道のりだが、全員昨日の夜までには王都に着いていたということだ。




 店が開いたばかりの時間というのもあるかもしれないが、店内に他の客の姿はなかった。

 店員も少ないようだし、厨房にオルチさんの声もしない。

 買い付けの時など、オルチさんがいなくてもしっかりと店の味を守る料理人は何人かいる。

 今日の料理人はそのうちの誰かだろう。

 閑散としている。




 無関係を装ってテーブルを囲んでいる何組かの客は、全員ナタリー達の護衛だ。

 普段からプライベートでかささぎ亭を使ったことがある者を中心に選ばれた。



 暴動の関係もあって、無関係の平民は家に閉じこもっているのかもしれない。



「うちの屋敷の様子を遠くからうかがったけど、警備を強化していて、中の家族は全員無事なようだった。誰が見張っているか分からないから、俺はまだ接触していないけど。裏から人をやってこちらの無事は伝えたよ。」

「同じく。ルクセン家も無事だった。」

 アレンとユーグは大通りを行ったこともあり、大分早く王都に着いていたようだ。



「火事場騒ぎで、どさくさに紛れて襲撃された貴族の屋敷もいくつかある様子だけど、さすがに高位貴族はしっかりと守っていた。そのうちそれぞれの領地から兵が挙げられるだろう。・・・・・・でも国王夫妻と王太子夫妻が捕まっている為、誰も手が出せないようだ。」



 ナタリーの父も無事だった。

 まああの父親のことなんてどうでもいいけど・・・・・とは、さすがに思わない。

 ――――無事で、良かった。




「心配なのは、国王夫妻と王太子夫妻が処刑されるという噂があることです。さすがにリラリナ王国の国民は教育水準が高いので、裁判もなしに処刑をするのはただの反逆者だと分かっているようで、近々裁判をする予定だと。・・・・それまではご無事でしょうが。」


 先の王都で情報を集めてくれていたユーグ様の情報に、皆が息をのんだ。

 処刑?国王夫妻と、王太子夫妻が??






「ミケル!!!ナンシー!!!無事だったのね。」


 一瞬全員が黙り込んだ瞬間、泣き出しそうな、女性の悲痛な声が店内に響いた。


「ミア!元気そうで良かった。」


 かささぎ亭の店主、オルチの娘、ミアだった。

 出会ったときは幼い子供だったが、今は14歳になって、店で立派に働いている。

 あの後何度も通っているナタリーとも、友人だ。


 “ミケル”の来店を聞きつけてやってきたのかもしれない。




「ちょっと旅行に行っていたんだけど、王都に戻って来てビックリしたよ。大変だったね。ミアやオルチさんに怪我はないかい?」


 ミハイルは、ミアに様子を聞き出すことにしたらしい。

 平民の目からみた情報は、是非聞いておきたい。



「私・・・・私は全然。でも・・・・ミケル・・・・ミケルってお忍びの貴族でしょ?大丈夫だったの??」

「・・・バレているよね、まあ。」


 それはもう当たり前だが、ミハイル達一行が貴族であることはバレバレだろう。

 こんな平民いるかという話だ。


 ミハイルだけではない。

 ナタリーもジャックも、肌艶から髪の手入れから、平民とは根本的に違う。


 治安の良い王都の店に、お忍びで通う貴族は多い。

 ナタリーですら「あ、あのお客さんは貴族だな」と分かるくらいだ。

 わざわざあなた貴族ですね、なんて言う人がいないだけの事。

 かささぎ亭の店員たちも、通っている客も慣れたものだろう。






「ミケル・・・・どうしよう。お父さんが革命に参加しちゃった。・・・・ううん、参加どころか、担ぎ上げられて代表になっちゃってるの!!」


「・・・・なんだって?」




「私何度も止めたの。ミケルもナンシーも大好きだし。店に来てくれる貴族の人たちも皆良い人で。お父さんもそれを知っているはずなのに!良い人だからって、許せないことがある。死んでいく民を見捨てることは、許せないって!!」



 民を見捨てる・・・・不作の領では、食料が不足して栄養状態が悪く、そこへ運悪く季節の流行り病などがおこると、体力の落ちる老人や幼い子供が亡くなると言う。


 そういう領があることは、知ってはいた。

 他領での出来事、書類の上の数字によって。


 ―――――――――――――〇〇領、死者〇〇人―――――――――――


 自分の領のことだけで精いっぱいで、粗悪肥料を使い続ける他領のことは後回しだった。


 見捨てていない。

 とは言えないかもしれない。


 でも、レノックス領の備蓄や、他国からの輸入で、国内の食糧はまだ賄えているはずだった。

 まだ革命を起こすほどの状況では・・・・・・。




 革命。


 暴動ではなく。


 民衆から見れば、これは民を見捨てる王族や貴族を打倒するための、正義の革命なのか。




「ミア。オルチさんと話がしたい。」

「・・・・何度訪ねていっても相手にしてくれなくて追い返されるだけなの。ミケルが呼んでいるって言ってみるけど。」



「じゃあ、必ずオルチさんだけに、こう伝えてみて。『第二王子のミハイルが、話がしたいと言っている』って。」






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