第21話 黒い感情

 あいつと、幼いころからいつも比べられていた。






 第一王子のフェルディはまだ良い。



 フェルディは必死に勉強して、完璧な王子になろうと足掻いていた。私と一緒だ。





 ミハイルは・・・・勉強や剣術をしていないとはいわない。


 だが最低限をこなす以外は、率先して色んなお茶会に顔を出したり、出かけたりして遊んでいる。


 よく街へもお忍びで通っているらしい。

 ゾロゾロと護衛を引き連れて。




 あいつのそんな話を聞くたびに、ドロドロとしたものが心に降り積もっていく。

 周囲は皆、あいつの事を褒める。

 嬉しそうに集まってくる。


 話の中心、パーティーの中心はいつもあいつ。

 あいつは天使。

 私は黒天使だと。



 なぜだ。

 なんであいつはあんなに自分勝手にやっているのに許されるんだ。

 なんであいつだけ。



 あいつが第二王子だから?

 第一王子のスペアだから自由にして良いのか?


 だったら私はどうなる!!!

 スペアのスペアの、スペアだぞ!!!





 王族としていついかなる時でも完璧でいろ。

 一番になれ。

 遊んでいる暇などない。

 笑っている時間があれば少しでも勉強しろ。


 完璧であれ!完璧であれ!完璧であれ!!!








 ミハイルが婚約者候補を連れて街へデートに行っただと?

 ふざけるなよ!!



 消そうとしても、消そうとしても、次から次に湧いてくる黒い感情。

 勉強している時、眠れない夜、パーティー会場、楽しそうに笑うミハイルを見かけたとき、ふと思い出しては、叫びだしたくなる。






 ダメだ。

 こんな感情は王族として相応しくない。

 もっと冷静に振る舞わなくては。





 私は上手く振る舞えているだろうか。

 あれだけ勉強していたのに、試験でも平民の女性に負けてしまった。


 だが相手は国中から試験で勝ち抜いてきたのだ。仕方がない。

 それにアンネはいつ見ても常に勉強をしている。


 私と一緒だ。





 ・・・・本当に?

 アンネはあんなに楽しそうに勉強しているのに?本当に私と一緒なのか?


 王族として、相応しい姿とは、どんな姿だっただろう。


 アンネに負けた時、負けても相手を称賛するべきだったのかもしれない。

 でもあの時は、何も言わずにその場を立ち去る事だけで精いっぱいだった。






 先日もだ。

 ミハイルが嫌がる令嬢を有無を言わせず強引に連れだしたと聞いて、いつもは押さえていた感情が、怒りとなって溢れだしてしまった。





 そうしたら、その令嬢は実は強引に連れ出されて嬉しかっただと?

 ミハイルに感謝している????



 ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!!!


 なんでそんなことが分かるんだ。

 批判されるべきはミハイルの方だったはずだ。



 あいつは他人の目など一切気にせず、強引に思い通りにしているだけなのに、いつも称賛される。

 何でそんな人間がいるんだ。


 悔しい。羨ましい。私もあんな風になりたい。

 違う。羨んだりしてはいけない。



 冷静になれ。

 理性的であれ。

 完璧でいろ。


 幼いころから両親に言われ続けた言葉を、自分でも自分に言い聞かせる。








 今日も私は王族として相応しい行動がとれていただろうか。








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