第9話 驚愕

「ナタリー。少しだけ待っていてくれないか。一緒に王宮へ行こう。」




 入学式とオリエンテーションを終えたら、今日は午前中にもう解散だ。



 午後は王宮でミハイル様とジャックに、ユーグ様を加えて、ささやかな入学祝のお茶会をしようと約束していた。

 ジャックはさすがに王子の馬車に同乗しないようだが、ナタリーは婚約者候補という事で許される。

 もちろん2人きりではなく侍女も同席してだ。




「先生に呼ばれていてね。」

「かしこまりました。あちらのガゼボで待っていてもよろしいですか。」



 教室の窓から遠めに見えるガゼボを指さす。

 とても気持ちがよさそうだ。

 木の葉の間から陽の光が差す庭園はナタリーの好みだった。



「分かった。出来るだけ早く切り上げていくね。」

「いいえ、私のことはお気になさらず、ごゆっくり、なさってください。」



 先生との用事を切り上げるというミハイル。

 本当にさっさと切り上げかねないので、ナタリーは念押しした。







 ガゼボは思った通り、とても素敵な場所だった。

 さすが王国一の学園の庭園だ。

 木立があり、色とりどりの季節の花々あり。

 それらが絶妙なセンスで配置され飽きることなく眺めていられる。


 どの季節でも素敵だろうが、春先の今は特に豪華絢爛だ。



「はーるがきーたー

はーるがきーたー

どーこーにーきたー」



 気分が良くて思わず口ずさんでいた。

 今日は1年生しか学園に来ていないし、入学式の日に残っている人も他にはいない。

 小さな声で歌っていても聞く人もいないだろう。




「とーりがなーくーとーりが・・・・」




 バッタンッ!!


 気持ちよく歌っていたら、突然大きな音がして、反射的にそちらの方を向く。




「お・・・・お前。」

 そこにはガゼボに上がる少しの段差で躓いてこけたまま、驚愕の表情を浮かべて固まるアレン様がいた。

 痛そうだ。





「お前、日本人・・・・・か?」




 今度はナタリーが、驚愕する番だった。







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