第8話 入学式
ミハイル様と一緒に入学式が行われるホールへ入ると、もうほとんどの参加者が揃っていた。
式が始まるまでは少し時間があるので、まだ知り合い同士で固まったり話したりしている。
「ミハイル様!ナタリー!あとアレン。おはようございます。」
「ジャック。おはよう。」
「おはようございます。」
「私はおまけか?おはようジャック。」
私たちが来たことに気がついたジャックロードがすぐに近づいてきた。
仲が良い事は知っていたが、アレン様との気安さに驚く。
侯爵家相手に敬語でなく軽口を叩けるとは。
良い友人関係なのだろう。
その後も次々と知り合いが近づいてきて挨拶してくれる。
特に子爵家以上のAクラスのメンバーは、ほとんどが知り合いだった。
リラリナ王国には公爵家が3、侯爵家が8、伯爵家が58、子爵家が59しかない。
その中で同世代の子どもというと、上位貴族はほぼ知り合い同士だ。
ちなみに男爵家は、叙爵や爵位の返上が多く増減しやすい。
今は大体200前後。
幼少の頃、子ども達にも虐められてはいたが相手は主に元義姉の取り巻きだった。
この学年に遺恨のある人物はいない。
元義姉は入学前に社交界を去ったが、通っていたとすれば3年生。
同じ学園に通うことに思うところのある人物がいない訳ではないが、今さらどうこうしてこないだろう。
何人かと話しながら席に着く。
ふと来賓席を見たら父親がいた。
ナタリーが気づいたことに気づくとちょっと嬉しそうにして、ナタリーが目をそらしたらシュンと悲しそうにしている。
いい歳のおじさんだというのに、見た目は思わず守ってあげたくなるような儚げな美青年なのだ。
長年虐げられてきたナタリーとしては守りたくなるどころかもっとしっかりしてよとしか思えないが。
というか来るなら来ると言っておいて欲しい。
入学式に親は見に来ても良いが、来ない親も多い。
平民は王都に来るだけでも大変な出費だろうし、領地で暮らしていてよほどの事がない限り王都に来ない下位貴族もいる。
新幹線などない世界での移動は、時間もお金も桁違いでかかるのだ。
だから入学式を見に来ているのは、王都屋敷に滞在している上位貴族が多い。
今は社交シーズンなので来やすいのだろう。
議会も学園の入学式と卒業式には行われないのが通例だ。
来賓席にはナタリーも見覚えのある貴族達がズラリと並んでいた。
会場の後ろの方には裕福そうな平民の親が少数並んでいる。
教育に力を入れられる家庭というと裕福な家庭が多いのかもしれない。
一族揃って来ているような人たちもいた。
きっと一族の期待を背負って入学するのだろう。
学園長の祝辞、在校生代表による歓迎の挨拶、そしてミハイル様の新入生代表挨拶と順調に式が進行していく。
保護者代表の挨拶をしたのはアレン様のお父上だった。
・・・いる事に気がついてから、一応侯爵家だし、うちの父親が挨拶なんてしたらどうしようとちょっと思っていたナタリーはほっとした。
まあどうもしないのだけれど。
最後に担任の紹介があった。
厳しそうな年配の男性の先生がAクラスの担任だった。
式が終わったら教室へ移動してこれからの学園生活についてのオリエンテーション。
こうやって、ナタリー達の学園生活は始まった。
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