第6話 兄弟の絆

 王都に戻る帰りの馬車にて。




「マーシャ。学園に入学したら、日中は私は学校に行くし、マーシャも暇になるのではないかしら。」

「そうでしょうか。色々とやることはございますし。」

「マーシャもフランツも、3年間も一緒にいてくれていたけど、そろそろ私も一人で大丈夫だと思うの。」

「さようですか。」



「・・・・うん。2人とも王族に仕えるくらいとても優秀だし。王宮に勤めるのはとても名誉なことでしょう?そろそろ、戻っても大丈夫だよ。」

「ふふふ。王族の方の、とても大切な方をお守りする他に替えられない重要な任務を任されて、とても名誉な事でございます。」

「・・・・・・んん?」


「あ!ナタリー様ご覧ください。ダファディルの花が咲き乱れています。」

「まあ!本当。素敵ねー。」






*****






 コンコン。


 ドアをノックする音がして、ミハイルは本を読みながら振り返りもせず「どうぞ。」と返事した。

 いつものように、使用人の誰かが何かの用事で呼びに来たと思ったのだ。



「ミハイル。邪魔するよ。」

「兄上!?」

 慌てて振り向けば、珍しく兄のフェルディが立っていた。

 ミハイルのような華やかさはないが、柔らかい笑顔、優しい色の金髪は不思議と人を引き付ける。




 時間が合えばいつも一緒に食事をしているが、部屋まで訪ねてくるのは珍しい。




「どうされたのですか?あ、どうぞお座りください。」





 嬉しくなって走り寄る。

 二人で部屋の中央のソファまで移動して、侍女にお茶の準備を頼んだ。



「ミハイルももうすぐ学園に入学か。」

「兄上はご卒業おめでとうございます。一緒に通えないのが残念です。」

「入れ違いだからな。」


 12歳のミハイルは今年から6年間学園に通い、18歳のフェルディと入れ違いになる。



「婚約者候補がナタリー嬢に決まったらしいね。」

「はい。・・・・本人は嫌がっているようでしたが。」

「ははは。本当に面白い子だね。」



 12歳の学園入学時に婚約者候補を決めるという慣習は、慣習といっても実は兄のフェルディからのものだ。




 祖父母の代は周辺国との戦が絶えず、問答無用の政略結婚。

 生きるか死ぬかの時代に文句を言っている場合ではない。


 父母の代では戦は終わっていたが、変わらず貴族は政略結婚で幼いころから婚約者は決められていた。


 しかし、平和な時代に平和な学園生活を送る若者たち。

 婚約者が決まっていても、どうしても合う合わないが出てきたり、どうしても止められない恋愛ありで、いくつものドラマが生まれたらしい。



 それについてはいまでも小説や劇として伝説が数多く残されている。



 そのうち婚約破棄も自由恋愛も珍しいものではなくなっていき・・・・・。

 一応幼いころからの許嫁という風習は残っているものの、あくまでも「候補」ということにしておこう。


 となったのが兄のフェルディからという訳だ。



 実は余計なお世話だとミハイルは思っている。

 さっさと正式に婚約しないと気が気でない。



 フェルディにも12歳から婚約者候補の令嬢がおり、18歳の誕生日に無事正式に婚約。

 今春卒業して、半年後には国を挙げての結婚式の予定だ。

 羨ましい。




「ミハイル。いつもありがとう。君にはとても助けられたよ。」

「いえ?何のことですか。」

「小さいころから君はとても気を遣ってくれていたね。ミハイルが盛り立ててくれていたから、私は落ち着いて役目を果たすことができた。」


「・・・・・・何のことでしょう。」



兄がそんなことを考えていたなんて。ミハイルには予想外だった。

誰にも気が付かれずに、うまく無邪気な子供をできていたと思っていたのに。



「私はもう大丈夫だ。少しは自信もついてきたし、これからはずっとカタリーナが一緒にいてくれる。誰が何を言っても、何とか気にせずやっていくよ。」



その言葉から、生れた時から王太子になる運命を背負って生まれた兄の、そのプレッシャーの大きさと、決意が感じられる


優秀な弟が、「すごいですミハイル様!お兄様よりも〇年も早く習得されるなんて!」と口々に褒められているところを、今にも折れてしまいそうな目で見つめていた少年を思い出す。


でも兄は決して、勉強をサボったり、何かを投げ出すことはなかった。

自分のやるべきことを、毎日やり続けていた。




「よく分かりませんが、兄上は素晴らしい人だと思います。」



「ミハイルはこれから自分の思うとおりに、本当に自由に生きていって欲しい。そうできるように頑張るよ。」

「・・・・・・・・・・・・。」



「・・・・と、言いたいところだけど。あれだね。ナタリー嬢と出会ってから、私が言わなくてもミハイルはもう結構自由にやっているよね。」




 穏やかに笑うフェルディ。



「バレてましたか。」



 大好きな兄上にギューッと抱き着いてミハイルは言った。

 久しぶりに甘えてきた弟王子を抱きしめ返した兄王子。




 仲の良い兄弟はその日久しぶりに、夜が更けるまで語り合っていた。






*****







「あ、ナタリー様。あちらにコマドリが。」

「まあ本当!可愛い!!」






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