第3話 もう少し空気読んで!
「お・・お断りいたしますわ。」
どうもこんにちは。
私はリラリナ王国のレノックス侯爵家のナタリーと申します。
なんの変哲もない貴族令嬢ですが、1つだけ人と違うのは、日本と言う国で60歳まで過ごした前世の記憶を持っているところでしょうか。
9歳の時に意地悪な継母と義姉(とお父様)に苛め抜かれているところを助けられて以来、空気読まない天使と評判の第二王子、ミハイル様のご学友をしております。
助けられて以来頭が上がらず色んなお願い(という名の命令)でこきつかわれております。
・・・・・・・実は本当に嫌がることはさせられませんし、それだけ恩を感じているので自分からミハイル殿下のお役に立てる事ならなんでもしようと思っているのですけれどね。
でも今日ばかりは、いつものようにお受けする訳にはいきません!
「いいじゃないか。何も今すぐ結婚してくれと言っているわけでなし。卒業までの6年間、とりあえず婚約者候補となってくれれば良いだけだ。」
9歳の時もプラチナブロンドの天使だったが12歳になろうという今は背が伸び少しだけ男らしさが加わっていよいよ人外の美しさの天使がニコリと笑う。
この笑顔に勝てる人はこの世に存在するのでしょうか。
勉強が終わって、いつ来ても見事な王宮の庭園にあるお気に入りのガゼボでいつものメンバーでのお茶会休憩中。
何を言い出すかと思えば急に「あ、ナタリー。学園入学時に婚約者候補を決めなくてはならないのだけどナタリーなってくれるよね。」などとあっさりと言われたのだ。
暖かな陽気に色とりどりの若葉と咲き始めた花々を眺めながら心底リラックスしていたところに何でもないことのようにサラリと言われたので思わずうなずきかけてしまった。
危なかった。
「そんなに簡単にはいきませんよね?王子の婚約話がそう簡単に破棄できるとは思えません。一応私も侯爵令嬢ですし、一度婚約候補となったらそのままズルズルと結婚まで進むかもしれません。」
「大丈夫だよ。誰に何と言われても、僕は僕の好きにするさ。」
ですよねー。
ミハイル殿下なら侯爵令嬢と婚約破棄だろうが何だろうが、本当に愛する女性が見つかれば簡単にできますよね。
胸の辺りから何故かズキリ、と音がした。
ミハイル殿下は心配ないかもしれません。
入学前に婚約者候補を決めておく慣習に従い、とりあえず気心の知れた幼馴染を据えておいて、学園に通う6年間で本当に好きなご令嬢を探す。
普通なら婚約者候補を蹴って他のご令嬢に乗り換えるなんてよほどの事情がなければやらないだろうが、別に法律で禁止されてはいない。
ただ世間体が悪く王子(と相手の令嬢)の評判が下がるというだけだ。
そしてこの第二王子は評判だの世間体などはこれっぽっちも気にしないのだ。
「ナタリー嬢。私からもお願いいたします。ミハイル殿下とまともにやりあえる女性など他にいませんし、適当に爵位と年齢の合うご令嬢を見繕おうと思ったら、結局同い年で侯爵令嬢のナタリー嬢しかいないという結論に至りました。」
うぐっ。
申し訳なさそうにおっしゃるユーグ様に思わずたじろいでしまう。
実は私はユーグ様に弱いというか、前世からの好みと言うか、・・とにかくなんとなくユーグ様には弱いのです。
「うぅ。ユーグ様。ズルいです。」
「ん?ナタリー、なんでユーグにはそんな甘い態度なんだい?」
ニコリと笑いつつ威圧を放つミハイル殿下。
しかしこちらも伊達に3年間学友として一緒に過ごしてきていない。
少しは耐性ができている。
「とにかく、お断りいたします。」
ミハイル殿下の威圧にも、ユーグ様の悲しそうなお顔にも気づかないフリをしてキッパリと断る。
*****
この国は50年ほど前までは戦などが多かったようだが、ここ最近は周辺国同士で同盟を結んで平和な治世が続いている。
特に政権争いも起こらず、健康で才気あふれる18歳の第一王子と、少し年の離れた現在12歳の天使のような第二王子がいて世継ぎも安心。
そんな誰もが羨む王国第二王子の婚約者候補選びが難航しているのには理由がある。
第二王子があまりにも空気を読まないで思ったことをそのまま発言してしまうからだ。
嫌われている訳ではない。
むしろ人気はある。
最初は誰もが近づこうとしてくるが、誰もが思っていても言わないことを言い当てられて気まずいのか何なのか。
しばらく経つといつの間にか会った時だけ挨拶と立ち話はするくらいの程よい距離に落ち着いてしまうのだ。
私はといえば、3年前に助けていただいて以来、元義母と義姉はお父様と離縁して辺境の修道院へ。
レノックス家でよそよそしいながらお父様と2人の生活を送っているが、ミハイル様に手配していただいた侍女や使用人が何人かおり、定期的に健康についてや、遅れていた勉強の報告をしているうちに、そのままユーグ様やジャック様と混じって一緒に勉強させていただくことが増えて、いつの間にかご学友という事になっていた。
「一人だけ令嬢の学友ってそれもう婚約者候補の候補ってことだよね。」
「気づいていないのはナタリー嬢だけだな。」
ジャックロード様とユーグ様が何やら小声で話されているが、何を話しているかまでは聞き取れない。
「うーん。なぜイヤなの?」
「私などに王子妃が務まるとも思えません。恐れ多いです。」
「侯爵令嬢のナタリーにそんな事を言われては、僕は誰とも結婚できなくなってしまうよ。」
すぐに思いつく理由の一つを挙げたら、ミハイル殿下に速攻でつぶされてしまった。
たしかに身分の事を考えると、かなりつり合いが取れていると言わざるをえない。
そして自分で言うのもなんだが学業もマナーも問題ない。
やはり60歳まで生きた前世の記憶が活きているのだ。
「僕の事が嫌いなの?」
「そんなこと!絶対ありえません。」
冗談でもそんな事は言えない。
3年前に助けてもらったその日から、ミハイル殿下は私の大切な人でこの人の為ならなんでもするだろう。
ではなぜ婚約者候補となるのが嫌なのか?
自分でもその理由がよく分からない。
でもイヤなのだ。
今は遠巻きにしているご令嬢たちだが、どんどん成長して美しさに磨きがかかるミハイル様がこれからモテないはずがない。
歯に衣着せぬ言動も慣れればなんということはないし、何といっても優しいのだ。
一緒に学生生活を送っているうちに、皆それに気が付くだろう。
その時に、幼馴染の私が婚約者候補としていたら、邪魔をしてしまうかもしれない。
いや、殿下は気にせず婚約候補を変えるのだろうが。
「良かった!嫌いじゃないんだね。他に何かダメな理由はある?なければ決まりだ。」
「え、え、え。」
身分・・オッケー。学業マナー・・今のところオッケー。そして人として好き。
何も言えない!!
何も言えないけれど、これだけ嫌がっているのに!!
「あー良かった。」とニコニコ笑う殿下に言いたいことがある。
「それでは父上と母上に報告しておくよ。これからよろしくね。ナタリー。」
もう少し、空気、読んでください!!
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