勇者サイド 1
※勇者サイドの話は三人称視点となります。
「このどしゃ降りの中、よくもまぁ傘もささずにいられるもんだ」
シャインが窓の外を見つめながら言った。
彼は屋敷の外にマリオとメイドの姿を見ていた。
「それにしてもシャイン様。マリオがあれほど簡単に引き下がるなんて、わたくし少々意外でしたわ」
聖女ベルナデッタがシャインに寄り添いながら言った。
彼女はシャインの腰に手を回し、豊満な胸をその背中へと押し付けている。
一方のシャインも、背後にいるベルナデッタの尻へと手を回していた。
「あいつはお人好しだからな。こうやって切られても、あいつは俺を恨むことなく自分の中で折り合いをつけて生きていくんだろうぜ」
「まぁ。それは素晴らしい生き方ですわね。逆恨みほど見苦しいものはありませんから」
「ところで、新しい人形使いの手配は済んでるんだろうな?」
「もちろんですわ。侯爵閣下を通じて、軍将直属の人形使いに声を掛けていただきました。魔導ゴーレム一体で、北方を荒らすグールの群れを全滅させるほどの腕前ですわ。マリオなどよりよっぽど人形の扱いに長けているかと」
「ならいい。魔王を倒すにはまだまだ戦力が足りないからな」
シャインには目論見があった。
新たな戦力を求めていた折、強力な人形を二体も操るマリオと出会ったことはシャインにとって
半ば強引にマリオをパーティーへ引き入れたものの、生来の温厚な性格ゆえか、人形の潜在能力を引き出しきれていなかったのだ。
人形を
湯水のごとく金が湧く環境にある勇者パーティーならば、人形の修復などいくらでも出来るというのに、である。
シャインはそれを良しとせず、先の戦闘において、
結果、マリオは彼らを守るために人形を犠牲にせざるを得なかった。
人形はいくらでも修復できる。
そして、人形使いはいくらでも替えがきく。
極めて戦闘力の高い人形だけをマリオから奪い、それをより好戦的な人形使いに与えることで、シャインはパーティーのさらなる戦力アップをはかったのだ。
もちろんこの事実をマリオは知る由もない。
「8万ゴルト程度で修復を躊躇うかよ、馬鹿が。いただいた人形は最後まで徹底的に使い潰させてもらうぜ」
「ま。悪いお顔ですわね、シャイン様」
シャインは窓際から離れると、ベルナデッタの肩を抱いて部屋の隅に置かれた二体の人形へと向かった。
床に転がる二体の人形は見るも無残な有り様。
手足がもげ、胴体や頭部に激しい裂傷があるも、優秀な人形技師にかかれば修復は十分可能である。
こんなお宝をむざむざ置いていったマリオを思い出すと、それだけでシャインは侮蔑的な笑みを抑えられなかった。
「しかし、なんだってマリオみたいな田舎育ちのガキが、こんな上等な人形を手に入れられたのか不思議でならないな」
「偶然、骨董屋で見つけたと言っていましたが……本当でしょうか?」
「まぁどうでもいいさ。人形技師に直させるついでに、剣士人形には伝説級の武器を持たせ、魔導士人形には最高峰の魔導石を組み込んでやる。そうすりゃ魔王の手下どもを狩るのも楽になる」
「さすがシャイン様。用意周到ですわね」
ベルナデッタが笑う。
それはとても邪悪な笑み――その本性を物語るような表情だった。
「準備が整ったら、
シャインが声高に宣言した直後、それまでずっと本を読みふけっていた魔導士のジジが口を開いた。
「あ、そうだ。侯爵からの要望があったの忘れてた」
「なんだジジ? そういうことは早く言え」
「あの変態ジジイ――じゃなくて侯爵からの要望なんだけど、マリオのメイド人形をご所望だったよ」
「メイド人形? あのなんとかマリーって奴か?」
「そう。前に見かけた時に惚れ込んだとか言ってた。見た目がどんなに良くっても、中身は人形だってのに……本当、あのジジイ気持ち悪いよ」
「ご所望と言われても、メイド人形はマリオが連れて行っちまったぞ。こんなことなら、あれを取り上げる理由も考えておくべきだったな」
「断る選択肢はないよ。あのジジイの機嫌を損ねたら、色々と面倒だから」
「そうだな――」
窓の外で雷が鳴り響いた。
「――あれほど上等なメイド人形、盗もうとする奴が現れても不思議じゃないよな?」
雨は一層強く降りそそいでいる。
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