第2話 挫折

あのとき「大好き」って言ってくれたのに僕は「あ、ありがとう」としか言えなかったヘタレだ


彼女は導線を考えレイアウトを決めていく無駄を省き売り場にスペースを作った

「ここに入荷したばかりの新鮮なお花やおすすめギフトを置こー」

「値札には緩い文字で育て方とか書いてあげてっと」お店に色々な仕掛けを作っていく

廃棄になる分を計算したギリギリの仕入れではなく予め多めに仕入れては捌き切れなそうな分を廃棄前サービス品に回す

1年目はデータを取り2年目からが勝負!って悠長なことは言ってられなかった

一カ月目11月の仕入れ46万円売り上げ54万円…

売り上げは去年より上がった感じだったけど仕入れを見誤っていた

グミやんにとっては売り上げを見誤っていた


「生活費の壁は高い、どお?一緒に住んじゃう?」

一瞬、間を作ってしまったことに後悔

「なーんてね」


グミやんにはいつもドキッとさせられる

僕たちは付き合ってもいないし特に関係があるわけでもない実際手を繋いだり触れたことすらなかった


さてこれからどうしたら良いのか…

オーナーがいらなかったお店なんだ

スーパーに来るお客さんは安さと鮮度を求めている

ギフトで売りたいグミやんの戦略は機能しない

仕掛けのせいか母の日など物日は爆発的に売れるが極端に客数の少ないスーパーでは皆無

譲ってもらったと言ってもキーパーつまり冷蔵庫やボロボロでもレジやカウンターなど買い取ったので100万円の借金が残っている


半年で底が尽き金融公庫へ足を運んだ

「ゆうせいなら出来るぽんよ」

税理士さんからは無理と言われていたがグミやんの言うネット通販による事業計画書を伝えるとすぐに融資がおりた


グミやんは急いで通販サイトを作る

「あー終わった」

「ホームページといい通販サイトといいゼロからこれはすごいよ」

「私って才能あるぽんじゃね?笑」

「今度こそ軌道に乗るといいな」

「私はきっとお花屋さんをやるために生まれたって最近感じる」

「まさか笑」

「ね笑」


地元中心のネット通販窓口はお店の売り上げを抜く勢い1日300km以上配達することもあった

だけど交通費の関係かプラスには届かないプラマイゼロの損益分岐点は遠いペースは落ちたけどやっぱり日々の運転資金は削られていった


僕みたいな小心者が借金を背負う

ゆうせい「無理なことはわかっているこんなことで成功していたら誰だってやってる」「お金なんて減る一方でこんなんじゃ返せないよ」

今期最後の帳簿を郵送しようと準備していたとき耐え切れなくてぼやいでしまった


グミやん「そんなん数百万程度でなに言ってんの?」

「私が全力尽くしたってこんなんじゃ何も得られない、そんなの私の知ってるゆうせいじゃない」


「ごめん私が悪かった」「指示したのは私なのに融資の保証人は社長のゆうせいだもんね」

「そんなにイヤなら私をあげるよ臓器でもなんでも売ればいい」

僕は最低だ彼女に謝罪することも彼女を抱きしめることも出来ないヘタレのまま郵便局に向かった


帰ってくると微かだけどかすれ声が聞こえた

「うまい棒みたいな単価で小さく売ってちゃ生活費にも届かない、消費期限が短過ぎる、あーもーきっつい私だって全然知らなかったお花のこと」

ちょっと気まずいけど一応「ただいま」

「あ、おかえり」

彼女の目の周りがちょっと赤くなっていた

僕はグミやんの挫折を始めて見た


グミやん1級技能士一発合格

素敵なお花を作ったからって合格するわけではない

ざっくり言えば店頭で売れるものを最速で作ることが求められた

売れるものは安いものだから本数を抑えてもそれなりに見える特定の形状にしなければ…

最速で作るということは受験テストで例えると文字を書く速さまで求められ…

「これじゃ良いものを作るんじゃなくてそれなりのものを間に合うように作るって、考えがおかしい」

合格したのにグミやんの目にはいつものキラキラがなかった

「最低限生活費だけはプラスにしたい…時間をかけて良いものを作りたい…」

「もう単価を上げるしかない」


グミやんは独り言の後覚悟を決めた様子でPCの前に立ち『スタンド花すごいやつ』で検索すると

「…?」

え?そんなワードで本当に出てくるなんて僕は目を疑った

東京では何かが始まっている様子だ

グミやんを見ると目がキラキラしていた


「いったいどうしたらこんな注文が入ってくるのか疑問だよね」

僕も思った「東京だからって最初から需要があったわけじゃない」

お花にバルーンとか付けると良くなるのか?それとも良いものを作ることが結果的にバルーンを付けている?「なんだろこの違和感」

安っぽい風船を高級なお花に付ける意味は?

明らかに原価の安い風船と元々原価の高いお花

風船は大きいお花は小さい…


グミやん「ねね、ゲームに落とし込んでみると…理由とか見つけやすくない?」「例えば片手剣はどうして左利きなのかだっけ?」

僕は思い出した「理由はわからないけど向かって左側に当たり判定がくる立ち位置が正解かもしれないという仮説から探るってやつだね」

グミやん「うんうんそそ」

ゆうせい「つまり理由はわからないけどバルーンを付けるということは大きくしたい安く済ませたい…なのにバルーンだけじゃなくてお花も使われているということはお花あってのこと…という仮説から探るってことだね」「なるほど良いものを安く大きく…」

グミやんの目がキラキラしてる


僕たちはブログやYouTubeなどでバルーンを研究し原価が安いからこそ安っぽく見せない方法を考えたり赤字は続いたけど底が尽きそうになったらその都度銀行から融資を受けた

僕が怖気ついたら終わってしまう

これはギャンブルではない

格ゲーで例えるとガード後確定でダメージを奪える確定判定なんだ

つまり我慢して投資した分だけ得られるチャンスがあるということ

希望だ…


そうしているうちにスタイルが出来た

真似するのではなく真似て本質を見抜く

その本質を軸にして僕たちの都内配達が始まる

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