第28話
「魔術士か。そいつは厄介だね」
エレーネは話を聞いて、顔をしかめた。
「その殺しに魔術士がかかわっているとなると、何か目的がある。私たちには預かりしれない何かがね。そのあたりをはっきりさせないと、同じことの繰り返しになる」
「また誰かが殺されると」
「そういうことさね」
魔術士に襲われた翌日、竜之進はエルフ会館を訪ねた。
幸いエマの怪我はたいしたことはなかったが、敵の攻撃は強烈で、あやうく二人とも殺されるところだった。魔術の攻撃に竜之進は為す術もなかったので、今後の事も考えて、竜之進はエレーネに相談を持ちかけたのである。
「どうしたらいいですかね」
「と言われてもね。簡単にはいかないよ」
「でも、姐さんも魔術は使えるんでしょう。ヴェルテの時だって、結構すごいのを」
「風と水ぐらいはなんとかなるけれどね」
エレーネが手を振ると、小さな竜巻が起きて、机の上の花が揺れた。
「たが、本物が相手では厳しい。あいつらは、生涯を魔術の追求に賭けている。古の書物を読み、過去の魔術士が編み出した術を再検討し、知恵のかぎりを尽くして新しい術を生み出す。奴ら自身が魔術みたいなもので、にわか仕込みの私では相手にならない」
エレーネは、懐から白い袋をとりだした。
「たとえば、これ。閃光の魔術具だ。お前さんも使ったことがあるだろう」
「はい」
「これを作ることができるのは、魔術師だけだ。私たちは使い切ったら終わりだが、彼らはいくらでも用意できる。戦いの場で、それがどれだけ有利かわかるだろう」
竜之進はうなずいた。
「話を聞くかぎり、敵の魔術師は、何もないところから火や氷を放っている。かなりの上級者で、うかつに挑めば首を持っていかれるよ」
「そんな……」
「本当は様子を見るのが一番なんだけどね」
「そいつはダメですよ、姐さん。放っておけば、町の者が殺されるんでしょう。何の罪もないのに。それは、見過ごせませんよ」
竜之進の脳裏を、トーリの身内や同僚の姿がよぎる。
誰もが若い職人の死を知って深く悲しんだ。
母親はうずくまって大声で泣き、それを慰める妹の頬も涙で濡れていた。親方はあいつなら俺を超える職人になったのにとひどく嘆いた。
将来のある人の命が無惨に奪われる。そんなのは二度とごめんだ。
犠牲者は絶対に出さない。それが竜之進に科せられた使命だ。
「お前さんなら、そう言うと思ったよ」
エレーネは静かに息をつく。
「仕方ない。魔道士には魔道士をぶつけるしかない。一人、紹介してやるから、その女に話を聞くがいい。いや、もしかして、おぬしはもう知っているかな」
「どういうことで?」
「おや、聞いていなかったか。なら、話しておこう」
エレーネは思わぬ人物の名をあげて、竜之進を驚かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます