第9話
「なるほど、それでヒラニセが町からの追放となったのか。私は裁判に出ていなかったから、詳しいことはわからなかった」
「もう少し逆らうかと思ったんですがね。存外、おとなしなくて驚きましたよ」
竜之進は、河原での戦いを終えると二人を引っ立て、警邏隊に預けた。
調べを受けて、ヒラニセはすべてを白状し、罪を問われた。彼には女がらみで余罪があり、それも踏まえてヴァルドタントからの追放となった。
「それだけでよかったのか。もう少し厳しく罪を問うてもよかっただろうに」
「リコルノの一族が望まなかったのですよ。これ以上、事を荒立てたくないと。好きに余生を過ごすもよし、余所の地で店を立て直してもよし。どちらでもよいかと」
「なるほど。それで、余ったこいつがわたしの所に来たわけか」
エレーネは腕輪を指で回した。
「まあ、いわくつきの代物ですからね。引き取り手がどこにもなくて、こっちで預かっていたんですよ。で、世話になったからと思いまして」
「ひどいな。女への贈り物としては、最低ではないか。おぬし、向こうの世界ではさぞモテなかったであろうな」
「まあまあ、ここは丸く収めるためにも、もらってくださいよ」
「金属は苦手なのだがな。まあ、よかろう」
エレーネは腕輪をはめた。
途端に形状が美しい円になり、はめ込んだ宝石が輝きを放つ。それが彼女の美しさをさらに引き立てる。
「また、これでおぬしの名はあがったな。これから先も何かと面倒に巻きこまれるぞ」
「かまいませんよ。手前は、この町の臨時見廻りで。困っている民がいれば、助ける。それだけで十分でございますよ」
水野竜之進は同心であり、江戸でやっていたことをヴァルドタントでやる。それで十分だ。
「そうだな。それがおぬしらしくてよいかもしれぬな。必要とされているところで役目を果たすことができれば、それは倖せであろう」
「さようで……」
「お呼びもかかったようだしな」
エレーネが窓を見つめるのと、カン高い声が外から響いてくるのはほぼ同時だった。
「親分、てえへんだ。ヒサゴ商会で、ドワーフが暴れている」
竜之進が窓を開けると、下の大通りでオックが両腕を大きく振りあげていた。
「ドラゴンの皮を売りに行ったんだけど、安く買いたたかれたとかで。もう大変だ」
「わかった。行くぞ。案内しろ」
「合点でえ」
竜之進はエレーネに一礼すると、走って部屋を出た。
さあ、次はどうやって騒ぎを収めるかな。
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