第7話 友達

 翌朝。


 生活習慣とは恐ろしいもので、やはり同じ時間に目が覚めた。程なくして蒼依先輩も起きた。


 各々身だしなみを整えて、学校に登校する時間にはチェックアウトした。彼女は学校へと欠席の連絡をして、僕も時間を少しおいてから欠席の連絡をした。


 空を見上げれば、晴天で観光をするのに適しているのではないかと思う。


「昨日は海に行ったから、他の所へ行こうか」

「分かりました」


 彼女に付き添い僕達は色々な所へと足を運んだ。昨日は何も食べないままに就寝してしまったためまず腹ごしらえをするために、近くにあった海鮮を堪能できる所へと行くことになった。


 蒼依先輩がメニューと睨めっこしている姿は、学校にいる先輩とは似ても似つかなくて年相応の…それよりも少しだけ精神が幼くなったように見える。


 注文した料理が運ばれて、口に運ぶと嬉しそうに口を綻ばせている様子はきっと、学校の人が見れば驚くのだろうと思う。


 その後は、彼女に連れられ有名な場所を巡った。


 学校の事などすべて忘れて楽しんでいそうな彼女は、ほんの少しの自由を得られているのだろうか。


 僕はその助けになっているのだろうか、役に立っているのだろうか。僕には全く分からない。見当も付かない。


 観光スポットを粗方巡り終わると、もう時刻は17時を回ろうとしていた。


「終わったね、柊君」

「そうですね」


 彼女は寂し気に海の方をチラリと見た。


「何処か遠いところ、なんて言ったけれど所詮高校生の私たちにはこのくらいが限界なんだね。それに、私はあれだけの事をしようとしたのに親の事を心配している。将来はもっと…」


 そう言って止めて、海へと向けていた視線をこちらに向ける。


「柊君…柊君は、楽しいと思えた?」

「……分からないです」


 僕は楽しかったのだろうか。今まで観光なんてしたことがなかった。観光というものの楽しみ方も分からない。ただ、蒼依先輩がしたいことについて行って、蒼依先輩が笑っている所を見ていただけ。


「そうか」

「ごめんなさい」


 質問の答えとしてあっていたかと問われれば間違っていたのだろうということは何となくだが、僕でもわかる。本当に僕は気が利かないダメな人間だ。


「いや、いいんだ。それで」

「……え?」


 思いもしなかった返答に思わず、情けない返しをしてしまう。


柊君しゅうくんはそれでいい。これから先、楽しいとか、悲しいを見つけて行けばいいのだから。その手助けは勿論、私がするよ」

「それは.......でも」


 僕の事でこれ以上人様に迷惑を掛けてはいけない。それにそんな見つかるかも分からない、いつ失ったのかも分からない、元からなかったのかもしれないものを見つけるなんてきっと無理だとそう思った。


「ゆっくりでいいんだ。それに私たちはじゃないか」

「……ともだち、ですか?」

「あぁ、そうだよ。少なくとも私にとっては柊君しゅうくんは掛け替えの無い存在だよ。私の初めての友達なんだから」


 友達。


 昔、小学校低学年の頃はそんな風に呼べる人たちがいたかもしれない。だが、いつの間にか僕の周りからはいなくなっていた存在。


「.....良いんでしょうか、僕で」

「良いんだ、私は柊君しゅうくんがいい」

「分かりました、友達ですね」


 何をすればいいのかも分からない、友達なんて関係。だが、蒼依先輩がそうだというのならそうなのだろう。


「じゃあ、帰ろうか」

「分かりました」


 帰りの電車の中、僕は友達というものについて一生懸命小さい頭を振り絞って考えてはみたものの答えなんて見つからなかった。








 

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