第18話 初めてのモンスター
そのウサギは、赤い目でこちらの方を見ると、「バオゥ」と泣いてこちらを威嚇してきた。
普通のウサギはこんな風に鳴かない。ただの動物ではないのはあきらかで、こちらに対して攻撃の意思のある、敵性モンスターの一種だった。
「鑑定魔法、チェック」
俺は目の前にいるウサギのステータスを鑑定した。
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ブラッドラビッド
Lv3
HP 80/80
MP 20/20
物攻 7
物防 9
魔攻 6
魔防 7
敏捷 11
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ブラッドラビットのステータスを見て、俺は安堵した。
かなり弱い。これならレベル1の俺でも倒せそうだ。
ブラッドビッドはこちらを赤い目で凝視すると、俺を目掛けて飛びかかってきた。それを横っ飛びで回避し、自分がもともといた場所に剣を突き出す。ブラッドラビットの腹部に、剣先が命中した。
「グギャァァァァ!」
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ブラッドラビッド
Lv3
HP 37/80
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急所に当たったのだろうか。ブラッドラビッドは攻撃を受けた腹部をかばうようにして、草陰の方に逃げ出そうとした。
「逃がすか!」
剣を振りかざし、敗走するブラッドラビッドの背中に剣を突き立てた。モンスターの背中から血しぶきが上がる。
「グギャアアア!!」
ブラッドラビッドは断末魔を上げると、動かなくなった。
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ブラッドラビッド
Lv3
HP 0/80
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HPの表示が赤字で0と表示されていた。初めてのモンスター討伐、成功である。
「おめでとうございます、鈴原先輩」
パチパチパチパチと拍手をする古椎。
システムメッセージで『経験値40ポイントを獲得しました。経験値はパーティメンバーのユイナ・コシイと、半分ずつの20ポイントが付与されます』と表示された。
獲得した経験値は、戦闘の貢献度と関係なく、均等に分配されるようだ。
「あ、経験値もらえた」
どうやら、古椎の方にも経験値を獲得したという旨のシステムメッセージが表示されたのだろう。古椎は自分のステータスウィンドウを開きながらそう言った。
城を飛び出したときは、野生のモンスターが手に負えないほど強かったらどうしようかと思ったが、その心配はなかった。レベル1の俺たちでも十分倒せるようなモンスターは、野生にいるらしい。
とにかく、自分が倒せる強さの野生のモンスターだけを選んで倒し、倒せないモンスターからはとにかく逃げる。これが今後のレベリングの方針だ。
そのために習得した鑑定魔法である。鑑定魔法を使えば、モンスターのステータスを確認できる。
この世界はレベルの高さが重要なのだ。鑑定魔法は、この異世界の知識を持たない俺たちにとって必需品である。
「この調子でレベリングをしよう」
「じゃぁ、頑張ってください先輩」
「……黙ってつっ立ってても、経験値がもらえるからって。油断してるな、古椎」
「いや、そういう意味ではなく。私もモンスターと戦いたいんですけど、武器持ってないですもん」
「え? あの杖はどうした」
古椎と訓練場で会ったとき、彼女は赤い宝玉が埋め込まれた杖を持っていた。豊島と交戦した時も、古椎はあの杖で豊島を殴打して瀕死まで追い込んでいた。
「だって、あの時は急いでて忘れてました。それに、先輩を抱えながらあんな大きな杖、持てないですもん」
確かに、城から逃げてきたときに古椎はあの杖を持っていなかった。
「……素手で戦え」
「嫌です。手が汚れるじゃないですか。私、可憐な女子高生なんですよ」
「何が可憐だ。人一人殺しかけといて」
「先輩のためにやったことですからね!? 恩知らずに程がありません!?」
ガササ!
古椎と言い合いをしていると、再び背後の草陰が物音が聞こえた。
おそらく、野生のモンスターだろう。しかし、今度はブラッドラビットような雑魚モンスターであるとは限らない。
警戒を怠らず、剣を構える。
しかし、草陰から出てきたのは、またしてもブラッドラビットだった。先ほどの個体と同じく、レベルは3。俺でも倒せるモンスターだ。
俺は安堵して胸をなでおろす……が、しかし。
「「「ブオオオオ!」」」
数が増えていた。ざっと数えて、10体ほどもいる。先ほどのブラッドラビットの断末魔が仲間を呼び寄せたのだろうか。まるで弔い合戦だ、というように次々にブラッドラビットが襲い掛かってきた。
「うお、マジか!」
俺は剣を振り回し、とびかかってくるブラッドラビットを剣撃をくらわす。しかし、如何せん数が多い。一体一体の強さは大したことがないが、多勢に無勢だった。
「グギャアアアア!」
「よし、まずは一体!」
俺は何とか、最初に飛び掛かってきた一体のブラッドラビットを討伐することに成功した。
「いて!」
しかし、剣を振り下ろしている最中に、他の個体が横から俺に飛び掛かり、俺の腕を噛んだ。
ダメージとしては3ポイント。自分の最大HPが120であることを考えると、大したダメージではないが、10体の近くのブラッドラビットに囲まれていているのだ。これから立て続けに攻撃を食らってしまうと、そのままHPが吹き飛ぶ可能性もある。
俺は腕にかみついてきたブラッドラビッドを引きはがし、空中に放り投げると、腹部に剣を突き刺した。
急所に当たったのか、その一撃でその個体は絶命した。しかし、剣にブラッドラビットの死体が突き刺さった状態でも、他のブラッドラビットは臆することなく俺の方に突っ込んでくる。
剣からブラッドラビットの死体を外そうとするが、矢継ぎ早に襲い掛かってくるブラッドラビットたちはその隙を与えてはくれない。
「……クソ!」
もたもたしている間に、3回、ブラッドラビットに要る攻撃を受けてしまった。
一体どうすればいい……。
「先輩、サポートします! ヒール! ラピッド!」
古椎が白魔法を唱えると、俺の身体が白く輝く。ヒールで受けたダメージを回復し、ラピッドで俺の敏捷が上昇した。
「ありがとう、古椎!」
……ん? なんだが、先ほどよりもブラッドラビットたちの動きが鈍いような……。
そうだ、俺の敏捷は古椎の掛けてくれたラピッドによって上昇している。そのおかげで、先ほどより余裕をもって敵の攻撃を回避することができた。
ブラッドラビットからしてみれば、急に俺の動きが素早くなったように見えるだろう。
俺は剣から死体を引きはがし、襲い掛かってくる彼らを剣で迎撃する。
先ほどよりもブラッドラビットの攻撃がよく見える。また、弱点である腹部に剣を当てられた回数も増えていく。
「グギャアアアア!」
「グギャアアアア!」
「よし、この調子だ」
次々にブラッドラビットに断末魔を叫ばせながら、撃破していく。その間、何度も攻撃を受けたが、その都度古椎がヒールで回復してくれる。さすがは白魔術師。頼りになる。
そのまま休むことなく、剣を振り続けていくと、ブラッドラビットはだんだんと数を減らしていった。
「グギャアアアア!」
そして、ついに最後の一体を討伐した。
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