第14話 ステータスの差
慌てて古椎の部屋に来ると、鎖で四肢を拘束された古椎と、古椎の服に手をかけている豊島が居た。
俺は、その光景を一目見て何があったか察する。
古椎が今まさに、強姦されようとしている。
俺は体格の大きな豊島を前にしても、不思議と恐怖感を抱かなかった。ただ、古椎を救いたいと思う一心で言い放つ。
「古椎から手を離せ、豊島」
「……クソ、邪魔が入ったな」
俺の到来に気づいた豊島が、不快感をあらわにした。
俺の言葉を聞いても、豊島は古椎の服から手を離すことはせず、挑戦的な目つきをしながらこちらを振り返った。
「離さなかったどうするんだ」
その言葉に対し、俺は腰に携えていた剣を抜刀する。剣を両手持ちし、前方に構え、剣先を豊島に向けた。しかし、豊島はひるまない。
「お前のような雑魚に、一体何ができるってんだ?」
「……お前を殺す」
「……ふはははははは!」
俺の言葉を聞いた豊島が笑い飛ばす。万が一にも、俺に殺されることはないと確信しているのだ。
「やめとけ、お前に俺は倒せねぇよ」
「……やってみなきゃ、わからないだろ……!」
威勢よく言い放った俺のことを無視し、豊島は古椎の方を振り返る。俺のことなど眼中にないといったように。
「お前はそこで唯奈が俺に犯されていく様を黙って見とけ。お前が大事にしている後輩が泣き叫ぶのを見て、無様にシコってるんだな!!」
「……ふざけんなぁぁぁぁああああああああああ!!」
俺は激昂して豊島に剣を上段から振りかざす。しかし、豊島は俺の方に近づくと、剣を持っている俺の手首をつかんだ。俺は咄嗟のことで驚愕することしかできなかった。
「なに……!?」
「……お前のクラスは剣士だろう。剣を奪ってしまえば、どうということはねぇんだよ! このまま剣を奪って……!?」
困惑する俺を尻目に、勝ち誇ったような表情を浮かべる豊島。しかし、彼の表情はだんだんと曇っていく。
それもそのはず、豊島に手首を掴まれたはずの俺の手はじわじわと前進し、剣が豊島の頭に向って下がっていく。
「どうしてだ!? なんでこんなチビに力で勝てない!?」
そういって豊島は慌てふためく。日本にいたときは一方的に打ち勝てるだけの筋力差があったはずだ。
「鑑定魔法……チェック」
俺は騎士団員に教えてもらった鑑定魔法を使い、豊島のステータスを鑑定した。クラス剣士でも、魔法の習得自体は可能なのだ。
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レンヤ・トヨシマ
Lv2 クラス 黒魔術師
HP 210/210
MP 250/270
物攻 9
物防 16
魔攻 36
魔防 34
敏捷 22
ユニークスキル【模倣】
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次に、豊島との比較のために自分のステータスを参照する。
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ギン・スズハラ
Lv1 クラス 剣士
HP 72/120
MP 70/70
物攻 15
物防 14
魔攻 6
魔防 9
敏捷 11
ユニークスキル【譲渡】
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豊島は強い。俺よりもはるかに。総合のステータスなら、まず勝ち目はない。
しかし、この場において重要なのは物攻なのだ。俺は豊島のほとんどのステータスで負けているが、逆に物攻だけは6も上回っている。
豊島が俺に力負けしているこの現状も、その物攻のステータスの差が生み出しているのだ。
この異世界において、体格や筋肉量は関係ない。ステータスのみが重要なのだ。
「はぁ!!」
「うぐっ!」
俺は力を込めて、自分よりも大きな豊島を吹っ飛ばした。部屋の壁に強く背中を打ち付けた豊島が膝をつく。
日本にいたときはあり得ないだろうその光景に、豊島は目を白黒させている。
「そんな馬鹿な……」
俺はそのすきを見逃さまいと、剣を振りかざして豊島をめがけて走っていく。
「はぁぁぁああああ!」
「……バインド」
豊島がそうつぶやくと、俺の四肢は鎖のようなもでつながれ、豊島から引きはがされた。鎖を振りほどこうとしても、力がうまく伝わらず、拘束から逃れられない。
これがさっき、古椎が食らっていた魔法の正体か。
「馬鹿が! 俺より力が強くなって勝ったつもりか!? 俺は黒魔術師だぞ! 剣士のお前に力で及ばなくても、俺には魔法があんだよ」
豊島は自分の体を起こし、俺の頭に手をかざす。そこからは熱気のようなものが感じられた。……黒魔法を放とうとしているのだ。
「炎魔法……ファイアーボール」
豊島の右手に、炎が生成される。豆粒程度だった種火が、だんだんと大きくなり、ついには野球ボールほどの大きさになった。
「これで終わりだ、鈴原」
豊島が炎を俺に投げつけてくる。命中したら下手したら死ぬかもしれない。もうここで俺は終わりかと、そう思った瞬間。
「はぁぁぁああああ!」
「ぐわっ!」
古椎が体当たりで豊島の身体を吹っ飛ばした。意識の外から強い衝撃を受けた豊島は、地面にうつぶせになった。
「……どうして……? お前はバインドで拘束したはずじゃ!?」
「鈴原先輩にバインドをした後に外れましたよ。その魔法、一度に一つの拘束状態しか維持できないんじゃないですか?」
「……くそ!」
豊島は慌てて体勢を立て直そうとする。それを、古椎が上から覆いかぶさって抑えた。
「無駄だ! 女が俺に力で勝てるわけな……なんだと!?」
豊島は古椎を背中から振り下ろそうと必死に抵抗しているが、びくともしない。
「……この異世界はステータスが全てですよ、豊島先輩」
「だとしてもおかしい! お前は俺と同じ魔法職だろう!? しかもレベル1! 俺とお前にこれほど物攻の差があるのはおかしいだろ!」
確かに豊島の言うとおりだ。同じ魔法職の二人にそれほどの物攻の差があるとは思えない。
そう思い、俺はパーティメンバーの欄から、古椎のステータスを参照する。
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ユイナ・コシイ
Lv1 クラス 白魔術師
HP 250/250
MP 230/230
物攻 14 (9×1.5)
物防 18 (12×1.5)
魔攻 35 (23×1.5)
魔防 48 (32×1.5)
敏捷 45 (30×1.5)
ユニークスキル【逆境】
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俺は古椎のステータスを見て驚愕した。
なんと、ユニークスキル【逆境】のステータス強化の倍率が上昇しているのだ。てっきり1.2倍になるものだと思っていたが、ピンチの度合いで強化倍率も上昇するらしい。
俺がバインド状態で炎魔法を受けそうになっていたことが原因だろうか。
引き続き、必死に振りほどこうとする豊島だが、古椎は微動だにしない。
物攻9の豊島に対して、物攻14の古椎。どちらが強いかは明白である。
「さっきはよくも私を襲ってくれましたね……豊島先輩?」
「な、何をする気だ……?」
「何をって、復讐に決まってるじゃないですか」
古椎はそう言って、いつの間にか手に持っていた杖を持ち上げた。
「お、お前は白魔術師だろう!? 杖なんか持ってどうするんだ!? 白魔術じゃダメージを与えられないだろう!?」
「何言ってるんですか先輩。誰が白魔術なんか使うって言いましたか?」
古椎の発言に対し、何を言ってるんだと言わんばかりに疑問符を浮かべる豊島。
「こうするんですよ」
そう言って古椎は、豊島に向けて杖を叩きつけた。
バゴン!
「グバアァァァ!」
バゴン!
古椎が杖を振り下ろすたびに、鈍い打撲音と豊島の悲鳴が上がる。
「すまなかった! だからお願いだ、助けてくれ!!」
「……」
豊島の声を聞き入れず、淡々と杖を振り下ろし続ける古椎。一度杖で殴るたびに、豊島は10ポイントのダメージを受けている。その際も、豊島は必死に命乞いをしたていた。
もうそろそろHPが半分を下回ろうかといったところで、俺を縛っていた拘束が解かれた。度重なるダメージで拘束魔法が維持できなくなったのだろう。
俺はゆっくり立ち上がると、無心に豊島を殴打し続ける古椎の肩を叩いた。
「古椎、もうそこまでにしろ」
「何でですか!? コイツ、私の無理やり処女を奪おうとしたんですよ!? 許せるわけがないじゃないですか!?」
「……俺は古椎に、人殺しになってほしくない」
俺はそう言って、古椎の背中を抱きしめる。すると、古椎はようやく杖を止めた。
豊島はもう、とうに意識を失っていた。
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