第9話 ユニークスキル【譲渡】
ユニークスキル【譲渡】:他人に経験値を渡すことができるスキル
それが、俺が異世界転移で授かったユニークスキルだ。もちろん渡した分の経験値は俺からなくなる。
……正直言って弱い。何に使えばいいか分からない。
例えば二人パーティでモンスターを討伐したとしよう。
その時は経験値を二人で二等分となる。それで、俺がもう一人に獲得した経験値を渡しても特段いいことがない。経験値を渡した相手が独占する形となるだけで、そいつがソロでモンスターを倒した時と同じ結果になる。
しかし、俺が無双できるほど強かったら話は別である。俺が強いモンスターを一人で討伐し、育成が進んでいないパーティメンバーに経験値を譲渡すれば、弱点の克服、戦力アップが期待できる。
しかし、俺は戦闘の才能がなかった。異世界転移した五人でパーティを組むことを考えたとき、足手まといになりそうなのは俺のほうなのだ。
「ステータス、オープン」
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ギン・スズハラ
Lv1 クラス 剣士
HP 108/120
MP 70/70
物攻 15
物防 14
魔攻 6
魔防 9
敏捷 11
ユニークスキル【譲渡】
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分かりやすく言うと、ポ〇モンにMPという概念が追加されたような感じだろうか。MPは魔法などを使用した時に消費するもので、もちろん枯渇すると魔法は使えなくなってしまう。
物攻は物理攻撃のことで、剣や槍を用いた攻撃のダメージを上げるステータス。逆に物防は物理防御もことで、それらのダメージを減らすためのステータス。
魔攻は魔法攻撃のことで、魔法の威力、効果量を上げるステータス。逆に魔防は魔法防御のことで、それらのダメージ、効果量を減少させるステータス。
敏捷は素早さのことであり、これを高めることによって相手より先に攻撃を当てられたり、相手の攻撃をよけたりすることができるステータス。
クラスによって得意なステータス、レベル上昇の際に上がりやすいステータスが異なる。俺のクラスは剣士であり、物攻や物防が上がりやすい傾向にある。
剣士は異世界モノの花形だけど、やはり前衛職なので敵の目の前に立たないといけない。俺みたいな臆病なやつだと、相手と対峙した時点で足がすくんでしまう。
せめて近接戦闘しなくていい魔法職になりたかったなぁ……。
カキーン、カキーン!
富樫は先ほど倒した人とは違う騎士団員と剣を交えている。その騎士団員は王国の剣士学校を卒業しており、剣の修行歴も長いはずだが、異世界に来てまだ日が浅いはずの富樫は互角に勝負していた。
何故こんなに俺と富樫に差がついたのか。ここで富樫のステータスを見てみよう。
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アズマ・トガシ
Lv1 クラス 剣士
HP 219/230
MP 90/90
物攻 28
物防 21
魔攻 10
魔防 17
敏捷 20
ユニークスキル【心眼】
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俺と同じレベル1なのに、ステータスが2倍近くも違う。一体、何故なのか。
それは、自分の体格や戦闘の才能が初期ステータスに反映されるからだそうだ。また、体格の優れた人はレベルアップの際のステータス上昇の恩恵も、他の人よりも多くなるらしい。
せっかく異世界に来たのに、ここでも結局、体の大きな奴が有利なシステムなのだ。悔しいことこの上ない。
富樫は、ただえさえステータスが他人より恵まれているのに、更に与えられたユニークスキルも強い。
ユニークスキル【心眼】:相手の弱点を即座に見極め、すべての攻撃が急所に当たり、与えるダメージが上昇する。
はっきり言ってチートスキルだ。ダメージが上昇するところも強いが、この【心眼】の真髄は、すべての攻撃が急所に当たること。
この異世界の戦闘システムでは、急所に当たると相手にかけられた白魔法による防御バフや装備、装甲による物防の上昇を無視してダメージを与えることができる。
富樫を前にすれば、どんな守備も貫通されてしまうのだ。
カキーーーン!
「おっと、またアズマが騎士団員を倒したぞ!」
「すげー、さすが異世界人だ!」
「まだレベル1なのに、素晴らしい身体能力だ!」
また、富樫が勝利したようだ。周囲の騎士団員が口々に賞賛の言葉を紡ぐ。
ピコーン
その時、何か電子音がした。富樫は自分のステータスを参照する。
「おっと、俺のレベルが上がったみたいだ」
「本当か、早いな。どれ、見せてみろ。鑑定魔法……チェック」
そう言って、審判を務めていた騎士団員が鑑定魔法を富樫にかけ、ステータスを開示させる。
基本的にステータスは自分か、パーティメンバーのものしか見れないのだが、この鑑定魔法は相手のステータスを見ることができる魔法だ。
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アズマ・トガシ
Lv1+1→2 クラス 剣士
HP 230+20→250
MP 90+20→110
物攻 28+4→32
物防 21+3→24
魔攻 10+2→12
魔防 17+2→19
敏捷 20+3→23
ユニークスキル【心眼】
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「ステータスの伸びもいい感じだ」
「この調子でいけば、かなり強くなるぞ!」
「これは、本当に ”勇者” になれる逸材かもしれんな!」
この異世界はレベルの高さがすべてである。基本的にれべるが高ければ高いほど強く、レベル差が開いていくほど、高レベル側が有利になっていく。
そのため、低レベル側が戦闘に勝利すると、「格上撃破ボーナス」と言って、獲得できる経験値が相手との戦力差に応じて増加するシステムがある。
このため、「格上」の騎士団員に勝利した富樫は、多大な経験値を獲得し、レベルアップした、ということである。
ちなみに、俺はまだレベルアップまでの必要経験値の3分の1にも達していない。ステータスもユニークスキルも弱い俺にとって、レベルアップすることは、それだけ大変なことなのだ。
この調子で、富樫はどんどんレベルアップしていくのだろう。俺とは違って……。
自己嫌悪に陥って俯く俺に、後ろから声がかけられた。
「どうしたんですかチビ原先輩、そんなに落ち込んで。ただえさえ小さな身体が、より小さく見えますけど」
後ろを振り向くと、真っ白のロープをまとい、右手に杖を持った古椎唯奈が立っていた。
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