第8話 念願の異世界転移


 突然だが、体育倉庫であの強い光に包まれた時、俺はたちは異世界転移をしてしまったらしい。


 目を覚ますと、そこは石造りの床で、俺たちを異世界転移させた張本人と思われる魔術師数名と、王様とその近衛兵がいた。


 魔術師たちは、「「念願の、〈異世界人召喚の儀〉がついに達成されたぁー!!」」と喜んでいたが、チョークまみれの俺たちには流石にビビっていた。


 俺たち五人も、高校の体育倉庫にいたと思ったら、急に見知らぬ土地に、見知らぬ人たちに話しかけられ、思考が停止し、にわかに状況が飲み込めなかった。


 しかし、異世界転移モノのネット小説を趣味にしている俺は、一瞬で異世界転移したんだと理解した。


 俺が中学時代に妄想してやまなかった異世界転移。魔法とかで自分よりも体格の大きな相手を打ち負かすカタルシス。ロマンである。


 そして、勇者となり、パーティを組み、魔王を打ち倒す。そんなありえないただの妄想が、今現実となっている。


 何が起きているか分からない様子の他の4人に対し、俺は気持ちが高ぶっていた。


 それから俺たちは "勇者" 候補として丁重にもてなされ、王様から直々にどうして俺たちが異世界に召喚されたのかを説明された。


 今現在、この異世界は新たなる魔王の誕生の報を受けて、魔王軍に対抗するべく、戦力を必要としており、そのために "勇者" を必要としているらしい。


 ……よくある異世界転移だな。


 "勇者" は一人で魔王の軍勢に対抗できるほどの一騎当千の戦力で、戦争への抑止力にもなり、その人数が国力と直結しているのだとか。


 俺たちが召喚されたこのゼリア王国では、その "勇者" がおらず、度重なる魔王軍からの侵略を受けて疲弊していたらしい。そこで、失われた技術である古代魔法の〈異世界人召喚の儀〉に挑戦し、一発逆転を狙ったのだそうだ。


 どうやら異世界人は現地民よりも強い力を有しているため、現地民を ”勇者” に育てるよりも、異世界人を ”勇者” にする方が確率が高いと考えたそうだ。事実、先代魔王を打ち倒した人物は、異世界人の血が入っていたらしい。


 そして、異世界人は現地民よりも強いとされている理由の一つに、ユニークスキルがある。


 この世界には、生まれた瞬間から一人一人にユニークスキルというその人に固有のスキルが発現しているようだ。そのユニークスキルは、その人の戦闘力に直結するほど重要なものだそうで、ユニークスキルの強さがとにかく重要なんだそう。


 異世界人は、おしなべて強力なユニークを持つとされ、俺たちはそれを期待されているわけだ。


 ……なるほど、理に適っている。


 しかし、これを聞いて激怒したのは豊島だ。こっちは何も聞いていない、誰も甘えたちに協力するとは言っていないと。


 突然こちらの意思にかかわらず、異世界に召喚された怒りを示す道理はある。そのため、王様は謝罪をしたうえ、「ゼリア王国のために、どうかご協力いただけないだろうか」といって俺たちに向けて深々と頭を下げた。


 城の中にいる間は、俺たち身のの安全を保障し、裕福な生活を約束し、お給金も出してくれるのだそう。何の権力も持たない俺たちに対して、かなりの好待遇だ。


 更に、異世界人召喚の儀はしばらくしたらまた使えるようで、その時は俺たちを元の場所に戻すことが可能のようだ。


 結局、五人はゼリア王の請願を聞き入れ、 ”勇者” を目指すことになった訳だが……。


「ふん! 甘い!!」


「ぶばっ!」


 俺はゼリア王国城の訓練場で、剣撃を受けて無様に寝っ転がっていた。


 異世界に来てから3日目、俺たちは自分のレベルを上げるため、王国から用意された練習メニューをこなしていた。


「お前、異世界人のわりにだいぶ弱いな」


 俺と立ち会っていた若い剣士が、俺を見下ろしながらそう言った。


 異世界転移した際の俺のクラスは剣士。そのため、ゼリア王国の騎士団に剣の稽古をつけてもらっているが、俺は剣の才能がないのか、なかなか上達しなかった。


 日本にいるときは筋肉がないヒョロヒョロのチビであったのだ。そんな奴が異世界転移して剣の才能が開花、なんて都合のよすぎる展開はなかった。


「いってぇ……」


 この異世界にもゲームのようにHPという概念はあり、攻撃を受けるとHPが減り、HPがなくなると死亡する、というシステムがある。HPは時間経過や、ポーションといったアイテム、ヒールなどの白魔法で回復する。


 しかし、HPがほとんど減らないような攻撃を受けてもめちゃめちゃ痛い。よく考えたら、HP100の人が1ダメージを食らう攻撃を100回受けたら死んでしまうのだ。


 この前受けた富樫の腹パンも死ぬほど痛かったが、あれを100回食らっても流石に死ぬことはない。HPの1ポイントは、それほど大きな意味を持つのだ。


カキーーーンッ!


「勝者、アズマ・トガシ!!」


「「うおおおおおおおおおお」」


 俺が痛みにのたうち回っていると、遠くから歓声が上がった。


「あの異世界人、まだレベル1なのに騎士団員の剣をはじき返したぞ!」


「レベル差がかなりあるはずなのに、さすが異世界人だ!」


 声のする方を見やると、剣をはじかれて肩を落としている剣士と、その前で得意げな顔をした富樫の姿があった。


「……あっちの異世界人は剣の才能があるようだな。ユニークスキル【心眼】も強い」


 目の前の剣士はそう言うと、俺を軽蔑を浮かべた表情で見降ろして、こう言った


「それに対して、何だお前のユニークスキル【譲渡】って」


 


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