第6話 屋上に呼び出しって……告白ですか?
「おい、鈴原。お前、唯奈とどういう関係だよ」
「……え」
俺は同じクラスの同級生、
どうしてこうなったかわからない。なんせ、俺は目の前にいるコイツと高校生活の2年間で一度も会話をしたことがないのだ。
だから恨まれるようなことはしていないと思うのだが……。
「さっさと答えろよ!」
ドンッ!
「ひぃっ……」
富樫が突然壁ドンをしたため、驚いて悲鳴を漏らしてしまった。
女の子がキュンとするような壁ドンではない。明らかに対象に恐怖感を与えるための脅しだった。
もとよりコミュ障でまともに人と話せないのに、こんなに怒気を込めた言葉で攻め立てられると、喉が硬直して言葉が発せない。
鬼の形相を浮かべる富樫の圧力に押されて、なんとか言葉を絞り出す。
「ど、どんな関係……?」
「だからさっきからそう聞いてんだろ! 話聞いてないのか!?」
ドンッ!
「ひぃえ……」
富樫は相当お怒りのご様子だ。
富樫というと、高身長でイケメンの、乙女ゲーに出てくるキャラのような見た目をした男子生徒である。おまけに2年生にしてサッカー部のエース候補であり、運動神経も抜群である。
陰キャで文化系の俺とは住む世界が異なるのだ。
だからこそ、何に彼が腹を立てているのかが本当にわからない。
唯奈……? 唯奈って、古椎のことか……?
なんで呼び捨てなんだろうか。親しい間柄なのかもしれない。
「こ、古椎さんとは同じ同好会の、部員同士ですが……」
相手は同級生なのに敬語で返答してしまう。仕方ない、下手に刺激して暴力なんてされたら目も当てられないのだ。中学時代にそういったことは何回も経験している。
「そんなのは知ってる! そうじゃなくて、男女関係のことを聞いてんだよ!」
そりゃ、古椎と俺の関係って、ラノベ同好会の部員同士の関係で、それ以上のことは一切ない。実際、部室以外で会ったことないし。
なんでそんなことを聞くのだろうか。俺と古椎が付き合っていたらコイツにとって何か不都合が……。
あーなるほど、そういうことか。富樫は古椎のことが好きなんだ。
古椎も入学してすぐの時に、先輩から告白されたけど断ってやった、って自慢してたっけな。
確かに古椎って、見てくれだけは絶世の美少女だし、スタイルもいいから、男子から好意を寄せられることは多いだろう。あんな暴言吐きのクソガキと知ったらみんな幻滅するんだろうか……。
「男女って……、古椎さんとそういう関係では……」
「お前は唯奈のこと、どう思ってるんだ?」
「……どう思ってるって……」
俺が古椎のことをどう思っているか……。
まぁ、友人のいない俺にとっては数少ない話し相手であるし、彼女が部室に来るようになってから、高校に来るのも楽しみになった……のかもしれない。
かといってそこに恋愛感情があるかどうかはわからない。なにせ、16年間生きてきて、異性を好きになったことなんて一度もないのだから。”恋”がどのようなものなのか全く知らないのだ。
しかし、あんな乱暴で生意気なやつのことを好き、と表現するのは癪に触った。
「好き……ではない」
「……そうか。ならいい」
そう言って、富樫は手をどけた。彼の怒気が収まり、圧迫感で押しつぶされそうだった俺は、プレッシャーがなくなって胸をなでおろした。
そのまま、俺の目をまっすぐ見つめながら、富樫は俺に問い掛けた。
「お前は唯奈に対して恋愛感情はないんだな」
「……はい」
「じゃぁ俺がラノベ同好会に入部しても文句ないんだな?」
「うん。……はい?」
何を言ってるのだろうかコイツは。
「富樫君は、サッカー部じゃないんですか……?」
「そうだけど、兼部はできるからな」
たしかに、兼部は認められているが、それぞれの部活動で活動記録を提出する以上、両立はかなり難しい。片方本命で、片方幽霊部員なんてことは認められない。
兼部をする際は、両方の部活動を本気で取り組まなければならないのだ。だからこそ、かなりハードルの高い選択だし、実際に兼部している生徒はごくわずかである。
富樫がラノベ同好会との兼部をした場合、本命のサッカー部の方の練習に参加しないで、ラノベ同好会の活動を優先しなければならいときがでてくるのだ。
サッカーの練習をする時間が大幅に削られてしまう。サッカーの未来のエース候補がそんなことになってしまったら大問題だろう。
しかし、それほど古椎とお近づきになりたいと思っている。こいつの恋心は本物だし、行動力もすごいと思う。
ストーカーっぽいとは思うが、意中の人と接するためにはこういった行き過ぎた積極性が必要とも聞く。過程はどうであれ、行動した者が勝ちなのだ。
長身イケメンの富樫と美少女の古椎とのカップルか……。お似合いだな。
しかし、なんだか気分が良くないな。……なぜだろう? そもそも唯奈って下の名前で呼ぶところとか、一度フラれているわりに馴れ馴れしくないか? そう思うと途端に腹が立ってきた。
そんなことを思っていると、富樫は制服の中から一枚の紙を取り出して、俺に渡してきた。
「ラノベ同好会への入部届だ。受け取ってくれるよな?」
「……」
こいつ、こんなものまで用意していたのか。それだけ古椎にご執心なんだ、コイツは。
他人が古椎を好きになるのは勝手だが、同好会に入るとなれば話は別である。今までのように、古椎と人に聞かせられない低レベルの言い争いができなくなるのだ。
「……鈴原?」
入部届を受け取って硬直する俺を、富樫が下から覗き込んだ。その視線には、受け取らなかったらどうなるかわかってんだろうな、といった強迫の念が込められていた。
富樫がラノベ同好会に入部するのがすごく嫌だ。別に古椎と富樫が付き合うのが嫌なわけではない……決して。そんなこと思ったら、俺が古椎のことが好きみたいじゃないか。そんなことは絶っっっっっっ対にない。
ただただなんとなく、嫌なんだ。コイツに部室に踏み込んでほしくない。
ビリリリリッ!
だから俺は、富樫に渡された入部届を縦に破いた。
「この入部届は、受理できない」
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