第3話 古椎唯奈の憂鬱
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古椎唯奈視点
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私、
だが、そのことを誇示するようなことはない。
美人は得する、という世間は言うが、全くそんなことはないと私は思う。
自分が美人だとという自覚はある。なんせ小さいころから異性から好意を向けられやすかったし、同性のなかでも羨望の対象になっていた。
しかし、自分が美人であるせいで近づいてくる男はみな下心が丸見えだったし、同性から、男に媚びている、なんていう難癖までつけられた。私は好きで男から好かれているわけではないのにだ。
次第に私は孤立するようになった。
別に私の態度が悪い訳でも、人と話すことが苦手なコミュ障なわけでもない。ただ、人と関わっていると色恋沙汰に巻き込まれることが多い。そしてその後処理がとんでもなくめんどくさい。
例えばこのように……。
「唯奈、最低!私が、
私は今高校の屋上で、友人の桜子に非難されていた。
桜子は高校の入学式の際、席が近いかったことから友人関係になった子だ。小柄な体格で髪をツインテールにまとめており、高校生にしてはかなり幼く見える。
そんなかわいい子が、表情に怒気を含んで私を糾弾しているのだ。
「富樫先輩のほうから呼び出されたんだよ」
「それは唯奈が富樫先輩を篭絡したからでしょ」
「篭絡って……、一度会話しただけだよ?」
富樫先輩とは部活動の勧誘の際に、一度話しかけられただけである。そのときは、出身中学や趣味、普段どういうことをしているかなど、他愛のない内容の会話しかしていない。
間違っても、私が色目を使ったわけではない。
「私が好きって知ってて話したんだ。やっぱり最低」
いくら何でも暴論が過ぎる。私だって人と話す自由はあるはずだ。
確かに、ことあるごとに「富樫先輩、かっこいい!!」と連呼する桜子といつも一緒にいたのだ。桜子の持つ富樫先輩への好意には流石に気付いている。
だからと言って、会話することもいけないのか。そもそも、富樫先輩が私を好きになった原因は、私ではない。
「好きになったのはあっちの勝手じゃん。そもそも一度しか話したことがない人のことを好きになる方がおかしいよ」
「私のバカにしてるの!? 私だって富樫先輩と一度しかしゃべったことなんだから!!」
見事に地雷を踏みぬいてしまった。いわゆる一目惚れって奴だろうか。
確かに富樫先輩はサッカー部のエースで高身長でさわやか系イケメンだ。女子に好かれるのは当然の帰結なのかもしれない。
しかし、私が告白を断った際、富樫先輩は信じられないものを見るような目をしていた。
今まで女子にフられた経験がなかったのだろう。自分が好意を示せば、相手も必ず好意で応えてくれると思っていたのだろうか。
一目惚れを否定したことを素直に謝る。
「それはごめん。そういうこともあるよね。けど大丈夫。私、富樫先輩の告白は断ったから」
「大丈夫って何!? 何も大丈夫じゃないよ! アンタなんかにフラれた富樫先輩が可哀想でしょ!?」
じゃぁどうすればよかったのか。あそこで告白をOKしていればよかったのだろうか。……いや、それは桜子が一番許せないことだろう。
なんなら、富樫先輩に告白されていた時点で、私は詰んでいたのだ。どのように対処していても、結局は桜子の逆鱗に触れてしまう。これだからヒステリックな女子は苦手なのだ。
「もう、唯奈と友達、止めるから」
「……そう」
こうなったらもう事態は収拾がつかない。無理に関係を修復しようとすると、更にややこしいことになるのは経験済みである。
桜子は私をこれからずっと嫌いなままだろうし、私も桜子と関わることを辞める。こうして私の高校生活も孤立していくのだろう。
まだ高校に入って1か月も経っていないのにこんなことになるとは。つくづく自分の美貌に腹が立つ。
「唯奈は別の部活に入って。顔も見たくないから」
「……わかった」
唯奈とは一緒にサッカー部に入り、マネージャーをする予定だったが、その計画は破綻した。
桜子がサッカー部に入部するのは富樫先輩が目的であり、私はただ桜子に一緒に入部しないか、と誘われただけなので、サッカー部に対する執着はない。そのため、彼女から突き付けられた一方的な入部拒否も受け入れられた。
もう部活動への入部締め切りが間近に迫っている。早く他の部活を見つけなければならない。
まさかこんなことになるとは思っておらず、すでにサッカー部に入部するつもりでいて、ろくに部活動見学をしていなかったため、部活動探しは難航しそうだ。
途方に暮れていると、部活動紹介文集なるものを発見した。そこには様々な部活動の内容や雰囲気、楽しそうな写真などが掲載されていた。
そのなかでもラノベ同好会という、紹介文のフォントもこだわらず、写真も一枚もない無骨な掲載を見つけた。
その割に【急募】と書かれていて、部員が来ないと存続が危ぶまれるとの記載があった。
これだ、と私は思った。
部員が少ないから、先ほどのようなトラブルに巻き込まれることはまずないだろう。
学校の方針から、部活動への入部は絶対だが、部活動に参加する必要はない。
部活動の部長が提出する活動記録で、部活動への参加の頻度を管理されてはいるが、その部長をまるめ込めてしまえば、参加回数を改ざんできる。入部届だけ出して、それからは一度も顔を出さずに卒業、なんてことも可能だ。
ラノベ同好会なんていう、明らかにオタク向けの部活動で気持ち悪いことこの上ないが、おそらく美少女の私から「活動記録を改ざんとしろ」と言われたら、オタクは断れないはずだ。
そんな気持ちで入部届を手にラノベ同好会の部室に突撃していったところ、案の定、チビでガリガリないかにも美少女アニメ鑑賞が趣味です、といったような見た目をしたオタクが居た。
彼が部長ということなので、活動記録の改ざんはたやすいだろう。実際、私が話しかけただけでビクビクしていたし。
ここに入部することに決めた。そして、もう二度とこんな気色悪い部室には訪れない。
もしかしたら彼は私とのバラ色の高校生活を期待したかもしれないが、そんなものは訪れない。あれは美少女アニメの中だけの話であり、フィクションだからだ。
間違っても入部届が受理されないことはないだろう。部活動として存続するためには私が提出した入部届が必要なのだから。
さぁ、これから楽しみでもなんでもない味気ない高校生活が始まる。
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