第2話 大型新入生、襲来
結果から言うと、俺の新入部員勧誘作戦は失敗した。
新入生の勧誘の方法にいくつか候補がある。
そこらへんを歩いてる1年生を捕まえて話を聞いてもらったり、カラオケやボーリングを餌にして半ば強引に入部をさせたり、ホームルームの際に各教室に回って部活動紹介をしたりする。
その何れの方法もコミュ障の俺にとってはあまりに荷が重かったので、学内で発行されている部活動紹介文集という雑誌に、ラノベ同好会の部員を募集しているという旨の投稿をした。
先輩たちが残していったラノベや漫画が無料で読めるといったメリットを紹介しつつ、部員が1人しかおらず、存続の危機であることを強調し、【急募】と銘打っておいた。
作戦と言えるほど大したモノではないが、他人と話したくない俺にとって今できる最も確率が高い方法なのだ。
しかし、部活動入部申請の期限日が近づいているというのに、入部届や部活動見学すら一件もなかった。
こうしている間にも、新入生たちは他の部活への入部を決めていく。ラノベ同好会に入部
「どうしたらいいんだ……」
前と同じようにラノベ同好会の部室で頭を抱える俺。そのとき、部室の扉が乱暴に開かれた。
ガラララララッ!
「失礼します」
扉が開かれた音に驚いてそちらの方を見やると、そこには黒髪ロングの美少女が立っていた。上履きの色を見るに、1年生だろうか。
女子にしてはずいぶんと背が高い。170センチは超えているだろう。
キリっとした目つきに、きれいに整った眉毛。形の整った鼻に、柔らかそうな唇。背筋をピンと伸ばした、凛としたたたずまい。
可愛いというよりは美しいという言葉が似合う系の美少女だ。異世界風に言えば、エルフに似ているだろうか。
しかし、こんな美少女がラノベ同好会に何の用事だろう。まさか、こんなオタク臭いラノベ同好会に入部したい訳じゃないだろうし。
彼女は部室に侵入すると、先輩たちが残したラノベや漫画が収められている本棚を見る。
別に悪いことをしているわけだはないのだが、年下の女の子に自分の趣味をまじまじと見られるのは背筋がかゆくなる。
なんせ、巨乳の女の子やきわどい格好をした女の子などが表紙に描かれた書籍がたくさんあるのだ。そんなにじろじろ見ないで欲しい。こんなのを嬉々として読むオタクたちを軽蔑するだろうか。
そんなことを考えていたら、彼女は俺の方を見下ろすや否や、いきなり話しかけてきた。
「ラノベ同好会ってここで合ってますか?」
「え……。あ、え」
突然話かけられたことで、まともな返事ができない。
なんせ俺はコミュ障なのだ。
同じ趣味を共有していた同好会の先輩たちとは普通に会話ができていたが、俺が見たこともないほどの美少女、さらに俺を見下ろすほど高身長の1年生に対してすらすらと会話ができるはずもない。
もごもごしている俺を見て、明らかに不快な表情を浮かべると、しびれを切らしたように言った。
「ラノベ同好会って、ここで、合ってますか?」
先ほどと同じ言葉で、先ほどよりも語気を強く言われたため、俺は完全に萎縮してしまった。
「……………は、はい……」
目の前の美少女からの視線に押しつぶされそうになりながら、やっとの思いで返事をする。
「あなたがラノベ同好会の部長ですか?」
「……そ、そ。そうですけど……」
「じゃぁコレ。失礼します」
ガラララララッ!
そういって彼女は手に持っていた紙をぶっきらぼうに俺の胸に押し付けると、そのまま部室から出て行ってしまった。
「……なんだったんだよ」
彼女が一体何者だったのかがさっぱりわからない。自身のことを名乗りもしなかったし。
それにしてもあんな美少女がこの学園にいるとは。芸能人としても十二分にやっていけるだろうと思うほどの美形だった。
普通なら眼福だろうが、あんなに語気を強めて話しかけられたら強迫と大差ない。特に俺は他人と話すことだけで精神力がごっそり削れるのだ。相手が美少女だったとしても例外ではない。
しかも、美人は怒ると怖いのだ。
恐怖の対象が居なくなったことで、胸をなでおろして安堵する。その時、手が紙に触れた。彼女が俺に押し付けて行った紙である。
「……入部届!?」
彼女が俺に押し付けて行ったのは、なんと俺が欲してやまなかった新入生からの入部届だったのだ。
これを俺が受理すれば、ラノベ同好会の部員は2人になり、部活動としての承認を受けられるようになる。同好会存続の危機は回避されたことになるのだが……。
「……なんで?」
YOUは何しにラノベ同好会へ?って感じである。見るからにラノベや漫画をたしなむような見た目ではなく、大きな洋館の庭でアフタヌーンティーを決めているような気品があるお嬢様だ。
背が高く、体つきがしっかりしていたから、もしかしたらスポーツをやっていたのかもしれない。だとしたら、なさらこんなオタク向けの文化部に来るものおかしい。
とはいえ、この入部届を受理しない手はない。なんせ、俺の居場所であるラノベ同好会の存続がかかっているのだ。これが無くては、俺は新たな部活動に参加せざるを得なくなってしまう。
「……あの子と二人でやっていける気がしない……」
俺がコミュ障を発揮して口ごもっているときの彼女の視線がかなり冷たく、美少女とはいえご褒美とは思えなかった。あの子からしても、こんなチビでコミュ障な男子生徒と一緒に部活動をするなんて御免被るに違いない。
俺は再び部室の中で頭を抱えるのだった。
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