第23話 「遅れちゃうよ!」
イルカショーの観覧を中断して聡乃の様子を見に行くことした俺と月野はまずトイレへと向かい、女子トイレの中を月野に確認しに行ってもらった。
そしてすぐにトイレから出てきた月野は、トイレには誰もいなかったと言った。
トイレにいると思っていた聡乃がトイレにいないとなると、どこにいるのかなんの手がかりもなく電話をかけてみたが聡乃は電話に出ない。
俺に対してかなり怒っていたからな……。
イルカショー前に一気に不機嫌になったりもしてたし、姿をくらます兆候はあった。
こうなったら遠くに行ってしまう前に聡乃を見つけなければ。
これ以上遠くに行かれたら聡乃を見つけられる可能性は低くなってしまう。
やたら無闇に探し回るよりも聡乃が行きそうな場所を何箇所かに絞って探したほうが見つけられる確率は上がるだろうと、俺は必至に頭を働かせ聡乃が行きそうな場所を考えた。
……そもそもなぜ聡乃は俺たちがイルカショーを見に行くと言って不機嫌になったのだろうか。
原因があるとすれば、昔聡乃と水族館に行った時に何かがあったのだろうが……。
水族館に行った記憶はあるが、その記憶は断片的で聡乃とイルカショーを見ている最中に何かが起きた記憶はない。
一体聡乃と一緒に水族館に来た時に何があったんだ……。
--その時、頭を抱えている俺の目に写ったのは幼稚園児くらいと思われる男の子と女の子だった。
「ねぇ、早く行かないとイルカショー遅れちゃうよ!」
「そ、そんなこと言われたって僕そんなに早く走れないよぉ」
昔聡乃とイルカショーを見に行った時、俺もああして聡乃に手を引かれながら会場に向かったんだっけ……。
イルカたちのパフォーマンスについてはなんとなく記憶に残っているが、それ以外細かいことについては覚えていない。
しかし、その子供たちを見た瞬間、俺の頭の中には聡乃と水族館に行った時の記憶が少しずつではあるが蘇って来ていた。
『また二人で来ようね! イルカショー!』
……そうだ、あの時確か俺は聡乃からまたイルカショーを見にこようと言われていたんだ。それも二人で。
『……そうだね。また来たい』
聡乃からそう言われた俺は、そう返事を返したんだ。
そうだ、だから、だから聡乃は怒っていたのか。
水族館にいったのは確か初めて聡乃と出かけた日で、数ある聡乃との記憶の中でも大切な記憶である。
そんな大切な記憶の中でした大切な約束を自分だけが覚えていて、俺が覚えていないとなれば聡乃が怒るのも当然のこと。
……はぁ。自分が嫌になる。
探偵のことで頭が埋め尽くされ、幼馴染との大切な記憶が抜け落ちていたなんて最低なやつだ。
だから友達も少ないし、彼女の一人もできないのだろう。
とはいえ、先ほどの子供達のおかげで昔の記憶が鮮明に蘇ってきた。
聡乃が行くとしたら……。
「月野、俺は出口のほう見にいくから月野は入り口の方見て来てくれるか?」
「わかった。手分けした方が効率的だもんね」
そして俺は月野と別れ、思い当たっていた場所に到着し、聡乃の姿を発見した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。見つけたぞ」
「えっ、の、乃音……?」
俺が聡乃を見つけたのは、昔聡乃が迷子になった時に一人でちょこんと座っていたペンギンゾーンだった。
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