第20話 「喧嘩してるでしょ」
聡乃は俺が近づくと怪訝な表情を浮かべるが、月野と会話をするときはいつも通りの聡乃だった。
俺に対して怒っている聡乃が、月野に対しても同じように不機嫌な態度を取る可能性もあった。
普通の人間なら、自分の不機嫌を他人に撒き散らす迷惑な人間になっているだろう。
そうならないあたりは流石だなと思う。
まあ感心するよりも先に、早く聡乃の機嫌を直さなければならないのだけど。
「あっ、ねぇ見て。イルカショーがもうすぐ始まるっぽいよ? せっかく水族館きたんだし、イルカショーは見ていかないともったいないよね」
「そうだな。ショーがやる会場もすぐそこっぽいし、みんなで行ってみるか」
昔聡乃と水族館に来た時、聡乃が一番目をキラキラ輝かせていたのはイルカショーを見ている時だった。
俺の実力では聡乃の機嫌を回復させることはできないが、イルカならそれができるかもしれない。
俺が聡乃の機嫌を悪化させておいて、機嫌を直すのをイルカにお願いするなんてみっともないかもしれないが、せっかくの水族館なので、聡乃には楽しんで帰ってほしいからな。
「……私、トイレ行ってから行くね」
「……? じゃあ前で待ってるよ」
俺の勘違いかもしれないが、先程と比べて聡乃の機嫌がまた一段と悪くなったような気がする。
何が原因だ? 何をしでかしたって言うんだ?
「大丈夫。ちょっと時間かかりそうだから先行っといて」
「いやいや、ショーの会場広いだろうしはぐれたら困るから待ってるよ」
「いいから先行ってて」
「で、でも--」
「ほら、藤堂君行くよ。私たちもう高校生なんだから、はぐれたってスマホで連絡とればいいし大丈夫だよ」
「ま、まあそれなら……」
できれば聡乃がトイレから出てくるまで待っていたかったが、なぜか無理やり月野に手を引っ張られて、俺は月野と二人でイルカショーが行われる会場へと歩き始めた。
そして一分程歩いただけですぐイルカショーの会場に到着した。
この距離なら聡乃が迷うこともないだろうし大丈夫か。
「ひっろいねー。どこ座る? 前の方だと水かかりそうだし後ろの方にする?」
「そうだな、その方が聡野も俺たちのこと見つけやすいだろうし」
そして俺たちは会場の一番後ろの席に座った。
「……ねぇ、聡乃と喧嘩してるでしょ」
「え゛っ」
まさか月野に気付かれているとは思っていなかった。
これでは月野も水族館を楽しめなくなってしまうので、早急に喧嘩を終わらせて仲直りしなければならない。
「やっぱりねー。私に対しては普通に接してくれてたけど流石に気づくよ。何かあったの?」
「いや、何が原因で怒ってるのかがわからなくて……」
「うわー、それ一番女子が腹立つやつだよ。聡乃かわいそ」
「そ、そんなこと言われたって、何をした記憶もないし……」
「意外と何もしてないことを怒ってるんじゃない?」
「何もしてないことを?」
聡乃に対して俺がしていないこと?
そりゃ「何か言うことないの?」と訊かれたときに何も答えられなかったので、何かしていないんだろうけど、それが何かわかってれば苦労しないんだよなぁ。
「うん。まあ自分で考えなよ。それが一番聡乃は喜ぶと思うし」
「まあそあだよな……」
それからしばらく俺が何をしてしまったのか、何をしていないのかを考えたが、やはり答えは出てこない。
そしてなぜ聡乃が怒っているのかを考えるのに集中していたせいで気付かなかったが、いつの間にかイルカショーはスタートしてしまっていた。
「……あれ、聡乃は?」
「まだ来てない。流石に遅すぎるかな……」
「……俺見てくる」
「私も行く。第一藤堂君女子トイレ入れないでしょ」
こうして俺たちは聡乃の状況を確認するため、先程のトイレへと向かった。
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