第19話 「言おうとしてたくせに」
「わー見てあれ、イルカ! あんなに速く泳ぐんだ」
「あれ、イルカはイルカでも種類が違うのがいるんだね」
「こっちにいるのはイルカ--じゃなくてジュゴン? すごい初めて見た!」
水族館に到着した俺たちは、順路通りに水族館の中を見て回っていた。
水族館に行こうと言い出した月野は見ての通り、子供のようにはしゃいで楽しんでいる。
しかし、聡乃はというと……。
「……」
ずーっと仏頂面で、どの生き物を見ても反応を見せない。
どうやら俺は聡乃から駅で「何か言うこと無いの?」と訊かれたときの回答を誤ってしまったようだ。
それに先程月野と駅で合流したときに俺の足を踏みつけてきたのも気になる。
月野は一人でも水族館を楽しんでいそうなので、水槽に張り付いている月野に気付かれないように聡乃に声をかけた。
「おい、どうしたんだそんなに楽しくなさそうな顔して。昔は大好きだったじゃないか。水族館」
「……別に。そんなに好きじゃないけど」
声をかけなくとも分かっていたことではあるが、やはり聡乃はかなり機嫌が悪い。
聡乃の機嫌が悪くなってしまった原因と言えば、駅で回答を誤ってしまったこと以外見当たらない。
「ごめんって。さっき駅で訊かれた「何か言うこと無いの?」ってやつ、どれだけ考えてもわかんなくてさ」
「探偵のことばっか考えて探偵のことだけに時間を費やして探偵以外のことには全く興味の無い乃音には分かんないだろうね」
……かなり言葉に棘がある気がするが、聡乃を怒らせるようなことをしているのはこちらなので、それは受け入れるとしよう。
「わからないから教えてくれよ、何が悪かったのか」
「そんなのちょっと考えたらわかるはずだけど?」
「ちょっとどころかずっと考えてるけどわかんないんだって」
「ふんっ。いい気味だよ。もっと悩んで苦しむがいいよ」
ちょっと考えたらわかることなら、探偵である俺にわからないはずがない。
探偵の俺がこれだけ悩んで答えにたどり着かないのだから、誰にもわからないだろこんなの。
「莉乃には言おうとしてたくせに」
「え? 何か言ったか?」
「なんにも言ってないよーだ。ほら、いつもでも莉乃のこと放っておいたら迷子になりそうだし行くよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれって! 今絶対なんか言ったよな? しかも多分結構重要なこと言ったよな!?」
「ちゃんと自分で悩んで答えにたどり着きなさい」
結局聡乃はなんと言っていたのかも、なぜ起こっているのかも教えてくれないまま月野の元へと戻っていってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます