第18話 「何か言うことないの?」

 今日は月野と聡乃と三人で水族館に行く日。


 俺と聡乃は月野よりも先に駅へ到着し、月野がやってくるのを待っていた。


「水族館楽しみだなぁ」


「昔から好きだもんな、水族館」


「うん。キラキラしてるし神秘的な感じがして好きなんだ。昔は私の家族と乃音の家族一緒に行ったりしてたよね」


 昔水族館に行った時、太陽の光が差し込みキラキラと輝く水槽以上に、聡乃の目がキラキラと輝いていたのは記憶に残っている。


 あれ以来聡乃と一緒に水族館に行ったことはない。


 というかまあ、色々あっていけなかったんだけどな。 


「そんなこともあったな」


「……ねぇ、何か言うことないの?」


「……へ? 言うこと?」


 突然聡乃からそう訊かれたが、別に俺から聡乃に言わなければならないことなんてないし、どれだけ記憶を遡っても思い当たる節は無い。


 とはいえ、ここで俺が言うことは無いと答えたら間違いなくどつかれるだろう。


 考えろ俺、俺は探偵だ。


 この状況で聡乃が言ってほしいことは--。


「--あっ、月野が到着するまでにトイレ行きたいってことか! それなら--って痛っ⁉︎」


 どうやらトイレに行きたいことを察してほしかったわけではないようで、俺は思いっきり足を踏まれた。


「ふんっ。バカっ」


「な、なんだよそれ」


「ごめんごめん、遅くなっちゃった」


 そうこうしているうちに月野が到着し、俺は助けを求めるように月野は声をかける。


「おっ、やっと来たか! って言うほど待ってもないけど--」


 電車の発車時刻ギリギリにやってきた月野の姿を見て、俺は思わず目を奪われてしまった。


 普段の月野からは想像しづらいボーイッシュ寄りな服装ではあるが、私服の月野があまりにも可愛かったのだ。


 白いキャップをかぶり、黒のティーシャツの上からスポーティーなコートを羽織り、したはゆるっとしたサイズ感のブルーデニムに、足元はサンダルと、モデルでもやっているのかと思ってしまう程ファッションセンスが高い。


 そのファッションをさらに際立たせているのは月野のルックスだ。


 顔が小さくへこむところはへこみ出るところはしっかりと出ており、男性からの評価は間違いなく百点満点だろう。


 いや、それにしても本当に似合うな。


 まあ月野程のルックスであれば、どんな服を着ても似合うんだろうけど。


「どうかした?」


「え、あっ、いや、似合ってるなって--痛っ⁉︎」


 俺が月野と話していると、聡乃は再び同じ場所を踏みつけてきた。


「な、なんなんだよさっきから!」


「ふんっ。知らないっ」


 何をした記憶もないのに、なぜか聡乃は不機嫌そうな素振りを見せている。


 こんな時に喧嘩なんてしたくないんだが……。


 とにかく、この水族館を楽しむには、聡乃が怒っている理由を調査しながら魚たちを見て回るしかなさそうだ。

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