第12話 「……まあ見とけって」
機械から排出されたボールをキャッチした俺は、ストラックアウトのボードと睨み合う。
九枚のパネルを射抜くだけというあまりにもシンプルなゲーム性ではあるが、たった十三球のうちに九枚全てのパネルを撃ち抜くのは至難の業。
蒲生がやってのけた七枚抜きだって、ちょっとやそっと野球をかじっただけの人間にはマネをすることができない凄技である。
帰宅部でしがない自称探偵の俺にはもう勝ち目が無いのではないかと思われるかもしれないが、後攻なんだし奇跡が起こる可能性もゼロではない。
俺は手に持っているボールをキュッキュッと手のひらで拭き、それから蒲生と同じくおおきく振りかぶって、第一球を投じた。
ガコンッ。
俺は一球目で左上にある一番のパネルを射抜いて見せた。
「ぶはははははは! なんだおまえそのヒョッロヒョロのクソ山なりボールは!」
「それで蒲生に勝つつもりだったのかよ笑えねぇぜ」
俺が投げた力のない山なりのボールに、蒲生と山際先輩は大口を開けて笑っている。
確かに俺の投げているボールは蒲生が投げていた綺麗なストレートとは違って、イーファーストピッチのような球筋だ。
そのボールの軌道を見れば、思わず勝利を確信して笑いたくなるのは無理もないだろう。
「当たればいいだろ」
「当たればな! 今だってギリギリ角の一番に当たっただけだっていうのに、なんでそんなに強がってるんだよ」
「……まあ見とけって」
蒲生の言葉に耳を貸すことはせず、俺は一球目と全く同じように、ボードに向かってボールを投げた。
ガコンッ。
俺は二球目も、パネルを射抜いて見せた。
二球目に射抜いて見せたのは、一番の隣にある二番のパネルだ。
「……まあ最初は九枚パネルが残ってるからな。適当に投げたって最初のほうは当たって当然だわな」
「……そうだな」
俺は早いペースで機械から排出されるボールを受け取り、また同じ球筋のボールを投げた。
ガコンッ。
俺は一番と二番に続いて三番を射抜いて見せた。
「……はっ、ははっ。そんな偶然もあるよな。せめて神様くらい味方してくれないと可哀想だわな」
少しずつ焦りの色を見せる蒲生をよそに、俺は淡々とボールを投げ込み続けた。
ガコンッ。
ガコンッ。
ガコンッ。
その後も正確無比に四番、五番、六番を射抜き、残りの持ち球は七球にして、あと一枚を射抜けば蒲生の七枚に並ぶというところまできた。
「な、なんなんだよおまえはぁ⁉︎」
先程まで余裕綽々だった奴が見せる表情じゃないだろそれ情けないな……。
「さっきも言っただろ? 全世界の女性の味方だ」
そう言って七球目を投げた俺だが、おしくもフレームに阻まれ、七番を射抜くことができない。
「よ、ようやく外したか。枚数が少なくなればなるほど、当たりづらくなるからな。今までのようにはいかねぇぜ」
俺のミスを見て、蒲生は希望を取り戻した様子。
初めてパネルを射抜くことができなかった俺だが、焦ることなく淡々とボールを投げ続ける。
しかし、そこから俺は連続してミスをしてしまい、俺の持ち玉はあと一球となってしまった。
「はーっはっはっはっはっはっはっはっは! だから言ったんだよ。もう勝ったも同然だってなぁ!」
……こいつ、うざいな。
さっきまで世界の終わりみたいな顔してたくせに、急に息を吹き返しやがった。
まあ実質的に考えれば、もう引き分けしか残っていないのだから息を吹き返すのも当然ではある。
「あーそーだな。もう蒲生の負けはないからなー」
「おい強がってないで早く最後の球投げろよ」
最後の一球になってここでパネルを射抜かなければ負けるという場面なのに、ひとつも焦りを見せない俺に腹を立てた蒲生は語気を強める。
蒲生に急かされた俺は最後の投球もこれまでと同じように、焦った様子ひとつ見せずゆったりとしたフォームで、それでいて今まで投げていた山なりの球とは違い速い速度の球を投げた。
俺が投げた玉はストラックアウトのボードに向かって一直線に進んでいく。
ガキャンッ!
大きな音と共に、俺が投げた球は見事にパネルを射抜いた。
それも、二枚のパネルを同時に。
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